新型コロナウイルスの影響で深刻な状況になってきた自動車メーカー

中国・武漢で2019年12月から感染が拡大した新型コロナウイルの影響は世界中に広がり続け、パンデミックの状態となっている。この感染は2020年1月から2月の段階で、武漢市が封鎖され、物流、企業活動が停止したことで自動車メーカーにとっては大きな打撃となった。

発端は武漢だが

武漢市とその周辺地域は自動車産業の集積地で、日本のメーカーでは日産、ホンダの工場があり、また自動車メーカーに部品を納入する部品サプライヤーの工場も集中している場所。その場所で物流が停止したため、これらの工場はストップせざるを得なくなった。

さらに、中国各地で移動が禁止、または制限されるようになり、武漢市以外の地域の工場では、春節で帰郷していた従業員が工場に復帰できず、結果としては中国各地にある自動車工場でも生産が操業が止まり、部品サプライヤーの工場も停止した。上海郊外にできたばかりのテスラの上海ギガファクトリーもストップし、テスラ社は大きな打撃を受けている。

また中国にあるサプライヤーからの部品を購買している日本国内の自動車メーカーの工場も、これらの部品の調達が難しくなり、生産調整のために一時的に工場を停止する影響が生じている。だが、これはまだ序の口だったのだ。

世界に影響が拡大

2月末から3月にかけて、新型コロナウイルスはヨーロッパ、アメリカへ一気に拡大した。予想を遥かに上回る速度で感染が拡大したことで、ヨーロッパ諸国、そしてアメリカでも外出禁止、移動の禁止、都市ごとの封鎖が徹底されるようになった。

したがって、各国の自動車メーカーの工場もすべて停止が余儀なくされてしまった。もちろん工場の停止だけではなく、各国のクルマの販売店もすべて閉鎖状態となった。各国での自動車の販売が事実上ストップしたのだから、輸出を前提としている日本の自動車メーカーは、過剰な生産を抑制するために生産台数を減らすために、工場の一定期間の停止を行なっている。日本の場合は、政府からの工場停止の要望はないのだが、中国などからの部品調達の問題と、この輸出台数の減少に対応して生産台数を調整する必要が出たのだ。

また日本でも5月6日まで緊急事態宣言により外出自粛が行なわれており、クルマの販売店の営業がストップしている。

このように日本だけでなく、世界経済が大幅に悪化しているわけだ。安倍首相も「日本経済は戦後最大の危機に直面している」と語っているが、これは現在の世界共通の危機である。

そのため、アメリカでは自動車メーカーの従業員15万人以上がレイオフ(一時解雇)が行なわれている。もともと経営危機で生産体制の見直しを実行しつつあった日産などは、スペイン工場の閉鎖と従業員の解雇、アメリカ工場での1万人規模の解雇などが行なわれており、ホンダもアメリカ工場で1万人のレイオフを実施するなど、雇用においても縮小を余儀なくされている。

もはや世界的規模での経済危機であり、自動車メーカーでもかつて経験したことのないレベルの危機が訪れている。世界を激震させた2008年のリーマン・ショックを遥かに上回る、深刻なレベルで、しかもより長期化するとされており、誰もが結果を予想できない状態になっているのである。

危機の深刻さ

では、この新型コロナウイルスの感染拡大による自動車メーカーへの影響はどれほどのものなのだ。まだ、正式な結果は出ていないが、3月後半から4月以降は自動車販売は各国とも70%〜80%減になると予想されている。それまでは感染拡大の影響があるものの、それ以前に受注したクルマの新規登録が行なわれるなど極端な落ち込みとまではいえなかった。だが、4月以降からしばらくは、かつて経験したことのないような販売水準に落ち込むことが予想されている。

この販売の激減に加え、生産工場が停止していることで、グローバルの生産台数が2020年は当初8900万台レベルと予想されていたが、調査会社の予測では、現状の分析で少なくとも1800万台の減少が予想されている。

もちろんこの1800万台もの生産減少はリーマン・ショック時を遥かに上回り、自動車の歴史上かつて経験したことのない事態となると予想されている。ちなみにリーマン・ショックのときの自動車生産の低落率は12%だった。

ちなみにグローバルで生産台数が2割減少するということは、世界の自動車メーカーの全工場の生産を2カ月以上停止し続けるのに相当するといわれている。現在、日本の自動車メーカーの多くは5月の連休明けから工場の本格稼働を予定している。だが、もし2カ月以上分の生産減少が明らかになれば、過剰な生産を抑えるために工場の稼働再開は6月以降にずれ込んでもおかしくないことになる。

想定される需要の落ち込み

もし本当にグローバルでの自動車生産台数が7100万台レベルにまで下がれば、自動車メーカーだけでなくサプライヤーもかつてないほどの打撃を受けることになり、経済的な影響は極めて大きい。グローバル規模のサプライヤーはともかくとして、もともと利益率の低い中小の部品サプライヤーにとっては死活問題となるかもしれない。

このような大幅な自動車の生産台数の落ち込みは、単に工場がストップした影響だけではなく、各国の販売の落ち込みだ。自動車販売店が営業活動できないだけではなく、未曾有ともいえる経済危機により、需要そのものが激しく縮小することが想定されている。一体、どれだけ需要が冷え込むのか、今の時点では誰も予想できない。

中国では武漢市の封鎖が解除されて以来、販売は予想以上に好調という観測もあるが、世界各地でどこまで需要が落ち込むのか、いつ頃から回復するのかは見通せない。例えば中国に次ぐ成長市場といわれるインドでも、新型コロナウイルス感染の以前から景気が下むいていたので、外出禁止令が発令されている現状から、その後の動向はまったく予測できなくなっている。

グローバルで見て、新型コロナウイルスの感染者数の数が明確に減少するのは7月頃と予想されており、その間に停止状態だった経済活動を復興させるために各国は大規模な経済的需要喚起対策、テコ入れを行なうはずだが、少なくとも自動車販売はそれ以後は緩やかに回復していくのではないかと考えられている。

ただ、いずれにしてもグローバル規模での感染の収束&終息は現時点では不明で、それに合わせた経済のテコ入れが遅れれば遅れるほど、自動車販売の復活も遅れることになる。

近代における2度の世界大戦を除けば、1929年に発生した世界のGDPが15%も減少した世界恐慌を上回る、かつてない経済不況となることも覚悟しなければならないだろう。

自動車メーカーの社会貢献

このように現在の自動車メーカーは各社ともに見通しのできない深刻な状況にあるが、その一方で社会貢献のための素早いアクションも行なわれていることは知っておきたい。それは主として新型コロナウイルス対策用の医療機器の緊急生産である。

フォードは、ミシガン州で今後100日間で5万台の医療従事者用の換気ベンチレーターをGEヘルス社と共同で開発し生産するとしている。さらに3M、GEと共同して、コロナウイルス用人工呼吸器の生産、感染防止用のプラスチック製フェイスシールドの大量生産を3月下旬から開始している。

GMも同様に医療用換気装置、さらに医療従事者用、一般用のマスクの大量生産をミシガン州のサプライヤーと共同で生産を開始している。さらに保健福祉省との契約に基づき、ベンテック・ライフ・システムズ社と重症患者用人工呼吸器の量産を開始し、すでに医療現場へのデリバリーが開始されている。

このようにアメリカにおいては戦時体制のときのように自動車メーカーが他の産業と共同して、緊急体制で医療器具やマスクの生産を開始している。

一方、ヨーロッパではどうだろうか。

メルセデス・ベンツは、医療機器用部品の製造を3Dプリンターを使用して開始している。部品は主として人工呼吸器用を始め、病院で求められている医療器具の部品である。

フォルクスワーゲンは、グループ各社で素早いアクションを開始した。ウォルフスブルグやインゴルシュタットの大規模な3Dプリントセンターはもちろん、アウディ、ベントレー、ブガッティ、MANトラック&バス、ポルシェ、フォルクスワーゲン乗用車、フォルクスワーゲン商用車、フォルクスワーゲングループコンポーネント、フォルクスワーゲン・モータースポーツの他の工場で同時に医療従事者用のフェースシールド・ホルダーを3Dプリンターで製造し、エアバス社が製造するシールドと組み合わせスペイン政府の要請に応じて供給している。

またシュコダはチェコ政府の要請により3Dマスク、フェイスシールドを生産し、ランボルギーニは生産施設の一部を改造して、サージカルマスクとプレキシガラス製の保護シールドの生産をしている。セアトは人工呼吸器の製造や、様々なモデルのフェイスマスクの生産などを担当し、南アフリカ工場でもマスクとフェイスシールドの生産を開始している。

メガサプライヤーのコンチネンタルは、医療現場で必要とされる医療用ホース、主として人工呼吸器用ホースの製造を加速している。

やはりメガサプライヤーのボッシュは、2.5時間で判定できるという新型コロナウイルス検出用の高速検査キットを開発し発売した。

また、イギリスではF1チーム連合による人工呼吸器の急速な開発が実行されている。そイギリスには多くのF1チームの本拠地があるため、F1チームの技術力を結集するプロジェクト「プロジェクト・ピットレーン」がスタートを切っている。

メルセデス、レッドブル、マクラーレン、ウィリアムズ、ルノー 、レーシングポイント、ハースの7チームが共同して、既存の医療機器のリバースエンジニアリング、人工呼吸器設計、生産サポートを行なっている。

さらにマクラーレン・グループはサウサンプトン大学と提携し、医療スタッフ向けの保護具を開発し、生産する。

このように、企業としての危機が迫る状態にも関わらず、自動車メーカーは当面の課題である感染拡大の阻止、医療従事者の保護のための支援に全力を投入しているのだ。この点では日本の自動車メーカーの動きは腰が重いようである。


The Mortor Weekly

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