新型コロナウイルスが自動車業界を直撃 空前の危機に直面

中国・武漢市が新型コロナウイルスの全国蔓延を防ぐために封鎖したのは2020年1月25日だった。都市の封鎖はその後、湖北省全域に拡大した。この武漢市は中国の自動車産業の一大拠点で、東風グループ、GM、ホンダ、日産、吉利(ジーリー)、プジョー、ルノー、安徽・電気自動車などの組立工場が集中しており、それに合わせて多くのサプライヤーの工場も集まっている。その自動車産業全体が以後2ヶ月間以上にわたって全面停止してしまったのである。

新型コロナウイルス(写真:アメリカ国立アレルギー・感染症研究所)

中国での異常事態

もちろん武漢市の周辺だけではなく、中国各地の自動車工場も操業を停止した。これは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ意味での各地方政府の指示に加え、ちょうど春節(旧正月)の時期のため、工場従業員が故郷に帰省しているタイミングであった。そのために、帰省していた従業員が工場に復帰できないことも重なって、武漢以外の工場の操業もストップしてしまったのだ。

上海では比較的新型コロナウイルスの影響は小さかったが、テスラの中国工場「上海ギガファクトリー」も閉鎖された。2月に入ってテスラのイーロン・マスクCEOは、新型コロナウイルスがテスラに重大な悪影響を及ぼすおそれがあると語っている。

このように、中国の自動車工場が相次いで停止状態になったことに加え、人々の移動の制限、外出禁止により、経済活動全体が大きく停滞することになる。

その影響

トヨタは中国での2月の販売台数を発表し、中国市場におけるトヨタ/レクサス販売台数は、前年同月と比べて70%減少したことを明らかにした。他社の販売状況を見ると、ボルボは81%減、日産は80.3%減、ホンダ85.1%減と、まさに壊滅的だ。中国汽車工業協会の2月の統計では2月の新車販売台数は前年同月比79.1%減となっている。

3月に入って湖北省以外の地域では、販売店は再開を始めており、80%程度の販売店が稼働し始めたという。そして1日あたりの平均新車販売台数は前年同期比で50%程度にまで回復しているという。

しかし、工場の生産ストップによりクルマの供給は今後1〜2ヶ月は厳しいと予想され、中国市場への依存度が高いホンダや日産にとっては大きな打撃になることは間違いなく、中国における年間販売台数も当初の見通しから大幅な下方修正となるだろう。

ホンダの武漢・第3工場

工場の再稼働状況

生産の再開では、武漢市内に3工場を持つホンダは3月11日から稼働を停止していた工場の一部で生産を再開した。春節を含め1カ月半ぶりの再開となるが、感染対策の徹底など、条件付きで地方政府から操業再開の許可を得た。日産も、湖北省とその隣の河南省にある2工場の操業を3月14日までに再開している。

だが、部品メーカーの再開が遅れており年産60万台といわれるホンダの本格操業には程遠い。武漢に生産拠点を持つある部品メーカーでも当局から操業再開を許可されたものの、全従業員の半数程度しか出勤が許可されていない、あるいは従業員が復帰していないといわれている。

今後は武漢の他地区にある部品メーカーにも徐々に操業再開の許可が出されていくはずだが、年間生産能力60万台を持つホンダ武漢工場がフル生産に戻るには相当の時間がかかるだろう。

中国に4つの工場を持つトヨタは2月末までにとりあえず操業を再開。3月上旬には通常操業に近いレベルになった。じつはトヨタは感染の中心地である湖北省に生産工場がなく、主力工場は天津や広州であったことが幸いしている。

一方で、中国でのサプライヤー工場の稼働が遅れているためホンダと日産は、日本での生産にも影響が出ており、生産ペースを落としているのだ。

新型コロナウイルスの影響はヨーロッパに飛び火

この中国での新型コロナウイルスによる経済的な影響は、中国市場に依存する自動車メーカーにとっては相当な痛手だが、その新型コロナウイルスの感染がヨーロッパへ一気に拡大するとは予想されていなかった。

中国に隣接するアジア地域での感染拡大は予想されていたが・・・2月下旬から3月初旬にかけてヨーロッパでは、まずイタリアでの感染拡大が明らかになった。しかも感染者数が日を追うごとに増大し、それに合わせて中国以上の致死率であることが衝撃を与えた。

3月11日にイタリアでの感染者数が1万人を超えた。さらに地続きのスペインやフランスにも感染が拡大していることがわかり、世界保健機関(WHO)は「パンデミック」、つまり世界規模での感染拡大と認定した。

さらに3月中旬にはアメリカでも感染が急激に拡大していることが判明。3月15日にスペインで感染者が急増したことを受け、政府は非常事態宣言を出し、ドイツは物流、通勤、ドイツ人の帰国などを除き出入国禁止とし国境を封鎖した。

フォルクスワーゲンのウォルフスブルグ工場

フォルクスワーゲンの対応

またドイツもフランスも、市民の外出禁止、工場の停止など企業活動を抑え込んで、感染の拡大を防ごうとしている。そのため、フォルクスワーゲンは3月17日、ドイツを含むヨーロッパのすべての工場で生産を休止すると発表した。3月19日夜から2週間にわたり生産を停止するのだ。

VWは、ウォルフスブルク工場などドイツの主要拠点、そしてスロバキア、スペイン、ポルトガルの工場も止め、グループ傘下のアウディやポルシェ、シュコダの工場も順次休止する。

フォルクスワーゲン・グループは2月28日に、2020年通期の業績見通しは、販売台数を前年並み、売上高を4%増を目標としていたが、17日には「今の状況では信頼できる見通しを作ることは不可能」と撤回。インターネットで記者会見したヘルベルト・ディース会長は「コロナウイルスのパンデミックは営業面でも財務面でも未知の逆風で、どれほどのダメージを受けるか想定できない」と語っている。

各社の対応

BMWも3月18日からドイツと南アフリカの工場を4月19日まで停止すると発表した。トヨタ自動車もヨーロッパ、トルコの5工場の稼働を約2週間止める。フランスも自動車メーカーの工場をすべて停止した。サプライヤー工場も全面ストップしているため部品調達は4月以降でも十分に確保されるかどうか不明だ。

日産は3月21日に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3月13日から生産を停止しているスペインの3工場の従業員、約3000人の一時解雇を決めたと明らかにした。また、スペインと同様に操業をストップしているイギリスのサンダーランド工場について、当分の間、生産停止を続けることも明らかにした。もともと過剰な生産能力を持っていた日産のヨーロッパにおける各工場は、日産本体の経営危機の中で、今後の行方も気になるところだ。

日産のイギリス・サンダーランド工場

欧州自動車工業会(ACEA)が3月18日に発表した2020年2月のヨーロッパ主要18ヶ国の新車販売台数は前年同月比6.9%減の96万4364台で、2カ月連続で前年実績を下回った。ただ、2月はまだヨーロッパでは新型コロナウイルスの影響はほとんどない。3月は空前の大幅減となるのは確実で、回復の見通しは立っていない。

こうして、ヨーロッパの自動車メーカーも2週間以上の操業停止になり、同時に外出禁止令が続いているため、販売もストップ状態が続く。2020年の業績はかつてないほどの大幅な修正を迫られ、自動車メーカーの受けるダメージはリーマンショック以上との予想も出始めている。

アメリカでの影響

3月20日にイタリアでの感染者数が4万人を超え、感染死者数は4000人を超えており、中国での致死率を遥かに上回っていることが明らかになった。アメリカではニューヨーク州が、22日から食料品や医療機関など、生活に不可欠なサービスは以外の州内の全事業者に対し、労働者の出勤を禁止し、在宅勤務にさせることを義務付けると発表。またカリフォルニア州も、19日から住民に対して、身の回りの買い物や通院などを除く外出禁止令を出している。

全米自動車労組(UAW)は3月17日、GM、フォード、FCAに新型コロナウイルス対策として全工場の操業を2週間停止するよう申し入れた。3社は17日時点で北米の生産を継続する方針を組合に伝えていたが、18日になって急きょ休止に合意。

GMは北米での自動車生産を30日まで全面休止すると発表した。フォード、FCAもこれに追随し、カナダ、アメリカ、メキシコの各工場はストップした。操業停止となる工場は合計約100カ所、従業員はおよそ15万人になるといわれている。

トヨタ、ホンダなど日本メーカーも北米での生産の一時休止を決めた。さらにトランプ米大統領が3月18日にアメリカとカナダの国境の一時閉鎖を表明し、ミシガン州デトロイト周辺と、隣接するカナダのオンタリオ州にまたがっている部品のサプライチェーンが遮断されることになり、アメリカの自動車メーカーのすべての工場再開が不透明になってきた。

こうした北米全体での自動車生産ストップの影響は、4月以降の販売に大きなダメージを与えると見られている。

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今回の新型コロナウイルスの影響は航空業界にも深刻なダメージを与えているが、自動車メーカーも2020年の各社の業績は、大幅に下方修正が必要になり、これまでにない空前絶後の危機的な状況と言わざるをえない。

COTY
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