消えたゴーンの夢想と棚ぼたのフランス政府 FCAとPSAが正式に統合 世界第4位のグループに!

この記事は2020年1月に有料配信したものを無料公開したものです。

2019年10月末に、フィアット、クライスラー、ジープなど合計13ブランドを持つFCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)と、プジョー、シトロエン、DS、オペル、ボグゾールのブランドを展開するPSA(プジョー シトロエン)グループが、企業統合に向け協議を開始した。

※関連記事:FCAがPSAと統合し新グローバル自動車メーカーに

統合に関する合意で互いの手を握るカルロス・タバレスPSAグループCEO(左)とFCAのマイク・マンリーCEO
統合に関する合意で互いの手を握るカルロス・タバレスPSAグループCEO(左)とFCAのマイク・マンリーCEO

内容は50:50の対等合併

両グループの協議はその後急ピッチで進められ、2019年12月8日にPSAとFCAの統合に正式に合意した。その結果、生産では世界第4位、売上高では世界第3位の新たな自動車グループ企業が誕生することになった。この合併は、FCAとPSAグループは資本比率50:50の対等合併となる。

FCAとPSAが正式に統合 世界第4位のグループに!

統合会社は、2018年決算を単純合算するベースでは、年間販売台数870万台、1700億ユーロ(20兆7700億円)近い売上高、110億ユーロ(1兆3500億円)を超える経常利益、営業利益率6.6%という実績となる。つまり財務体質が良好な両社が統合されるので、財務上の柔軟性がより向上し、車両開発のための新技術開発投資や戦略的計画の実行に十分な余裕が生まれることを意味している。

FCAとPSAが正式に統合 世界第4位のグループに!

統合後の新会社は、ラグジュアリー、プレミアム、メインストリームの乗用車から、SUV、トラック、ライト商用車までの各セグメントにおいて、相互に補完し合いつつ、アイコンとなる強固なブランドも持つ構成となる。市場としてはFCAが北アメリカとラテンアメリカに持つ強みと、PSAがヨーロッパに持つ堅固な足場の組み合わせにより幅広い展開となる。

このため、統合会社は世界的にバランスの取れた販売体制となり、2018年実績の単純合算ベースで、収益の46%をヨーロッパから、43%を北米から上げる見込みとなる。他方で、それ以外の地域については、統合会社の実現は戦略を再構築することになる。つまり中国やインド、ロシアなどは改めて戦略を練り、市場開拓を行なうのだ。

統合により主要なプラットフォームは2種類に

また、新統合会社により車両開発・製造・部品購買での効率の向上も実現する。プラットフォームやエンジン・ラインアップ、新技術の開発に対する投資の最適化が行なわれることはいうまでもない。また企業規模の拡大により購買力の向上がもたらされ、サプライヤーから購買する部品単価を引き下げることが可能になる。

プラットフォーム戦略では、現在の生産台数の2/3は2種類のプラットフォームに集約する計画としている。スモール(A/Bセグメント)プラットフォーム、コンパクト・ミドルサイズ(C/D)プラットフォームで、それぞれ300万台の車両が生産される計画だ。

PSAグループが開発したフレキシビリティの高い最新プラットフォーム「EMP2」
PSAグループが開発したフレキシビリティの高い最新プラットフォーム「EMP2」

効率化される経営

こうした技術、製品、プラットフォームの集約による節約効果は、総額37億ユーロ(4520億円)と見込まれ、通常ビジネスでのシナジー効果の約40%を占める一方、購買での節約効果も40%と試算されている。もちろんこの他に、マーケティング費用やIT、一般管理費や物流からの節約効果が残りの20%となる。

なお統合のための維持的なコストは28億ユーロ(3420億円)と想定されており、統合4年後にはシナジー効果の80%が達成されるとしている。

新たな統合会社は、より大きな収益を、そしてコストカットを実現することで、未来のモビリティのための技術やサービス、世界的なCO2排出規制への対応に大きな投資が可能となる。両社には世界各地に研究開発拠点があるので、それらは、新エネルギー車や持続可能なモビリティ、自動運転やコネクティビティに関わる技術開発を加速させることができる。

統合会社の体制

統合会社は、高効率な執行を実現するため11名の取締役から構成される取締役会とする。取締役5名はFCAとその株主代表(会長のジョン・エルカン氏を含む)が推薦し、5名はグループPSAとその株主代表(シニア・ノンエクゼクティブ・ディレクター、副会長を含む)が推薦する。2名はFCAとPSAの各従業員代表が就任する。そして最高経営責任者は、当面の5年間は取締役兼務でカルロス・タバレス氏(現PSAグループCEO)が就任する。また会長には現FCA会長のジョン・エルカン氏が就任する。

統合のために最も積極的に活動したフィアット一族のジョン・エルカン会長
統合のために最も積極的に活動したフィアット一族のジョン・エルカン会長

また新グループはオランダに本社を置き、パリ、ミラノ、ニューヨーク証券取引所に上場する予定となっている。

統合された新事業会社の定款では、株主総会で30%以上の議決権を持つ株主は存在しないので、新たな取締役会がすべての決定を行なうことができる。また、既存のフィアット家の持株会社(エクソール)、フランス政府(正確にはフランス公的投資銀行:PSAの株式の12%強を保有)、東風汽車(PSAの株式の13%強を保有する)、プジョー家(PSAの株式の13%強を保有)は保有株式に関する売買は7年間凍結される。

グループPSAの最高経営責任者のカルロス・タバレスCEO

「私たちの統合は、クリーンで安全、かつ持続可能なモビリティへの世界的な移行と私たちの顧客に向けて世界レベルの製品、技術そしてサービスを提供することを目指し、自動車産業における強力なポジションを確立するため、極めて大きなチャンスといえるでしょう。私は、統合会社にいる個々の計り知れない才能と協力を惜しまない姿勢に自信を深めています。私たちのチームは活力と熱意をもって最大限のパフォーマンスを発揮し、成功を収めると確信しています」

FCAの最高経営責任者であるマイク・マンリーCEO

「この統合は、信じられないほど素晴らしいブランドを持ち、スキルも忠誠心も高い従業員に恵まれた2社の統合です。両社とも、試練の時を経て生き残り、互いに俊敏でスマートな、素晴らしい競合相手となっています。我々の従業員には共通する特徴があります。それは、チャレンジをチャンスと捉え、現状を改善する道として受け入れる態度です」

夢と消えたゴーン元会長の野望

新統合会社の規模は、フォルクスワーゲン・グループ、ルノー・日産・三菱アライアンス、トヨタに次ぐ4番目の自動車メーカーになる。年間販売台数870万台で、GMやフォードを大きく上回るのだ。

今後の電動化や、自動運転、コネクテッド技術などを考えると、こうした規模の大きさでなければ乗り切れないことは両者共通の認識であり、乗用車のラインアップにおいてもお互いの不得意分野をカバーし合え、コストカットが実現することも大きなメリットだ。

それ以外に、波及効果としてすでにPSAグループにハイブリッド・トランスミッション・システムの供給を決めているアイシンなども、より供給量が増大する可能性が大きくなることも考えられる。

だが、このFCAとPSAの統合ニュースに最も嘆いているのはカルロス・ゴーン元会長だろう。実はFCAのエルカン会長は、最初にPSAグループに統合を打診したものの創業者一族のプジョー家が統合には乗り気ではなかった。そのためエルカン会長は次善の策としてルノー・グループに統合を打診したのだ。当時、ルノー・日産・三菱アライアンスの会長であったゴーン元会長はこれに積極的に取り組み、協議を行なっていたのだ。

ゴーン元会長は世界No1を目指した
ゴーン元会長は世界No1を目指した

だが、ゴーン元会長の逮捕後にエルカン会長の協議の相手は後任のスナール会長に変わってしまった。ルノーとしては統合に前向きだったが、フランス政府が介入する意向を示したことから、エルカン会長は即座に協議の打ち切りを決めた。もしゴーン会長のままであったら、ゴーン会長はフランス政府の口出しをコントロールし、統合を成功させたかもしれない。

そしてゴーン元会長は、「統合が実現していれば、ルノー・FCA・日産・三菱という4社連合体制で、世界ナンバーワンの自動車メーカー・グループが実現したのに」と語っている。

客観的に見れば、確かにゴーン元会長のルノー・グループをまとめる手腕を考えれば、この4社連合による世界ナンバーワン獲得の話は夢想とは言い切れないかもしれない。だが、もはやそれは泡となって消えてしまった。

ゴーン元会長は失脚したが、意外な勝者もいるのだ。それはフランス政府である。フランス政府はルノー・グループの約14%の株式を保有する大株主であるが、PSAグループの株式も約12%保有する大株主でもあるのだ。つまり、ルノー・日産・三菱アライアンスにも、FCA・PSA新統合会社にも程度の差こそあれ、隠然たる影響力を持つことになるのだ。

フランスのマクロン大統領
フランスのマクロン大統領

フランス政府としては、ルノー・日産・三菱アライアンスで販売台数1075万台、FCA・PSAで870万台、すなわち1900万台と、フォルクスワーゲン・グループの2倍近い販売規模を持つ自動車メーカー・グループを影響下に置くことになり、自動車生産・販売では独壇場であったドイツ勢を上回ったということになる。

もちろんフランス政府としては、こうした自動車メーカーにおいては雇用の維持・拡大が最優先の課題ではあるが、自動車に関する政策においてもリーダーシップを発揮し始める可能性も否定できないのである。

FCAグループ 公式サイト
PSAグループ 公式サイト

COTY
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