高齢ドライバー対策で2021年秋から世界初となる自動ブレーキを義務化

この記事は2019年12月に有料配信したものを無料公開したものです。

国交省は2019年12月17日、日本の新型乗用車を対象に、2021年11月から自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)の搭載を義務付けると発表した。なおこの自動ブレーキは、歩行者検知が可能で衝突を回避できるなど国際基準と同等の性能としており、自動ブレーキとして認定できるかどうか、テストを実施するという。また既存の車種は2025年12月以降に販売されるクルマから適用されるとしている。

高齢ドライバー対策で2021年秋から世界初となる自動ブレーキを義務化

自動ブレーキ義務化の背景

高齢ドライバーによる事故のニュースが相次いだことを受け、政府は2019年6月の緊急対策で自動ブレーキの搭載義務化や基準作りを検討し、年内に結論を出すとしていた。交通事故データでは、交通事故の件数は近年減少傾向にある。だがその一方でドライバーの高齢化も進んでおり交通事故全体での高齢者による事故の比率が相対的に増大している。

高齢者の重大事故が増加しているのではなく、事故件数が低減しているため相対比率が高まっているという見方ができる
高齢者の重大事故が増加しているのではなく、事故件数が低減しているため相対比率が高まっているという見方ができる

もう一つ、高齢者による重大事故がメディアで繰り返し大きく取り上げられる状況も、高齢者による事故が増加しているという印象を強めているのも事実だ。さらに、幼児が交通事故によって死傷する事故も後を絶たないため、政府・関係閣僚会議の指示により関係省庁に「未就学児等および高齢運転者の交通安全緊急対策」として重大事故を抑制するための施策を求めていた。

これが2019年6月の「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」で、国交省は乗用車の車両安全対策の見直しに着手していた。そして安全運転サポート車の普及を一層促進するための対策などが検討され、有識者等による「車両安全対策検討会」の意見も踏まえながら、安全運転サポート車の普及を一層促進するための緊急的な施策を行なうことになったのだ。

高齢ドライバー対策で2021年秋から世界初となる自動ブレーキを義務化

第1は、衝突被害軽減ブレーキの国内基準の策定だ。衝突被害軽減ブレーキに関して国際基準が発効したことを受けて、2020年1月に国内基準を策定する。そして国内基準においては、世界に先駆け2021年11月以降の国産ニューモデルから段階的に装備を義務付ける。

なお自動ブレーキは後付けでの搭載が難しく、販売済みの車は対象としない。輸入車についても2024年以降、順次適用するとされている。

第2はペダル踏み間違い急発進抑制装置などの性能認定制度の導入だ。ペダル踏み間違い急発進抑制装置、衝突被害軽減ブレーキについて性能認定制度を年度内に創設し、2020年4月から自動車メーカーからの衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い急発進抑制装置の申請受付を開始し、国はその性能のテスト・評価を行ない、2021年4月にその性能テストの結果を公表することになっている。

衝突被害軽減ブレーキなどの性能要件

国連において日本が提案した衝突被害軽減ブレーキの世界共通となる基準が2019年6月に成立し、2020年1月から正式に発効する。衝突被害軽減ブレーキは登場初期から現在まで自動車メーカーごとに、つまり使用するセンサー類やソフトウエアの違いにより、その性能には差があったことは事実だ。

衝突被害軽減ブレーキは、最初期には赤外線レーザーレーダーが採用され、低速、近距離での作動に限られ、市街地での追突防止機能に限定。歩行者や自転車は検知できなかった。より精度を高めるため、カメラ、ミリ波レーダーが採用されるようになり、近年ではカメラの解像度や視野角が向上し、クルマ、歩行者、自転車、さらには夜間の歩行者なども検知できるようになってきている。

高齢ドライバー対策で2021年秋から世界初となる自動ブレーキを義務化

こうした衝突被害軽減ブレーキの性能の相違をなくし、さらに世界各国で共通の性能に統一しようというのが国連基準だ。こうした国連基準を決めることで各国が衝突被害軽減ブレーキの装着義務化をしやすくなるのだ。

日本は国連基準をベースに、衝突被害軽減ブレーキの性能は少なくとも前走車、停車中のクルマ、横断する歩行者を検知でき、乗用車は静止している車両に40km/h(軽トラックは30km/h)で接近し、静止車両を検知し衝突しないで停止できること。

そして20km/hで走行している前走車に乗用車が60km/h(軽トラックは50km/h)で接近し衝突しないことが求められる。また、衝突被害軽減ブレーキが作動する少なくとも0.8秒前までに、ドライバーに衝突回避操作を促すための警報が作動することも求められる。

歩行者に関しては国連基準では6歳児相当のダミー人形を使用するが、日本は大人の歩行者を想定する。歩行者に対しては5km/hの速度で横断するダミー人形に乗用車は30km/h(軽トラックは20km/h)で走行してダミー人形に衝突しないことが求められる。またこの場合もブレーキの作動前にドライバーに警報が作動することも求められる。ただし、この国連基準は、少なくとも2019年時点の最新モデルの安全システムであれば問題なくパスできるはずだ。

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またペダル踏み間違い急発進抑制装置は、駐車スペースでの車両の出し入れを想定した試験を行ない、ペダルを踏み間違えても急発進しないことが求められる。

具体的には、前進/後進時に進行方向の障害物(車両ターゲット)に対してアクセルをフルストロークにした場合でも衝突しない、または加速を抑制(速度変化率0.3以上に抑制)することと、加速抑制時に警報が作動することだ。

ペダル踏み間違いによる誤発進抑制装置のテスト
ペダル踏み間違いによる誤発進抑制装置のテスト

さらにペダル踏み間違い急発進抑制装置に関しては、既販売車への後付け装置に関しても国が性能試験を行なうことになっている。

インテリジェント・スピード・アシスタンス

国交省の「先進安全自動車推進検討会」では、交通事故の抑制の観点から、技術開発促進案も提出されている。自動速度制御装置(インテリジェント・スピード・アシスタンス:ISA)が望まれており、その技術的なガイドラインも検討されている。。

ISAは、ドライバーの不注意(漫然運転)や誤操作による速度超過を抑制することを目的とした装置で、速度を守ろうとするドライバーを支援し、走行中の道路の制限速度を検出しドライバーに知らせるとともに、制限速度に合わせて車速を制御することが想定されている。

高齢ドライバー対策で2021年秋から世界初となる自動ブレーキを義務化

機能としては、設定した上限速度を超えないよう車速を制御し、追越や緊急回避のためドライバーは装置を一時的に解除することができるが、踏み間違いなどドライバーが意図していない操作では解除されないようにすること。さらに手動での上限速度設定、エンジン始動時にON(有効)とするが、操作による装置のOFF(無効)も可と想定されている。

手動設定による速度リミッターはヨーロッパ車では以前から採用されている。都市部、市街地では「ゾーン30」と呼ばれる30km/h速度制地区では厳しくスピード違反の取り締まりが行なわれるため、ドライバーが手動で速度を設定できルシステムだ。

カメラによる制限速度標識の検知
カメラによる制限速度標識の検知

また最近は、車載のカメラセンサーで、道路標識の速度制限を読み取り、メーターパネルやヘッドアップディスプレイに表示できるクルマも増加している。

カーナビのマップ情報から制限速度を取得
カーナビのマップ情報から制限速度を取得

現在はカメラ方式が主流だが、カーナビの地図情報でその道路の制限速度を取得する、広域通信(クラウド)から、あるいは道路各所に設置されたスポット通信により、現在走行中の道路やこれから走行すると予測される道路の制限速度を取得する方式が想定される。

クラウド経由で制限速度や交通情報を取得
クラウド経由で制限速度や交通情報を取得

しかし、こうした速度抑制システムは、制限速度情報を使用して上限速度を設定することが基本だが、ドライバーの承認を求めたうえで上限速度を設定するか、ドライバーの承認を求めることなく上限速度を設定する方式とするかなど、システムの構成には議論の余地が残っている。

また、制限速度情報が入手できない、あるいは制限速度情報が正しくない場合が考えられるため、ドライバーがみずからの状況判断により、ISAが設定した上限速度を変更できることも必要とされる。

また、上限速度が変わるたびにに警告音が鳴ると、ドライバーが煩わしいと感じて機能をオフにしたり、直感的に何のための警告音かわからないで混乱する、ということも考えられるので、システムや走行場面に応じたHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)も求められる。

ISAの機能は容易に理解できるが、どのようなシステム構成とするか、ドライバーの意志をどれだけ反映させるか、またHMIをどのようなものにするかは、まだ試行錯誤の段階にあるが、いずれにせよ近い将来には日本に本格導入されることになると考えられる。

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