ガソリンべーパーって言葉を聞いたことがあるだろうか? ガソリンが蒸発してメラメラしているあれだ。そのべーパーが環境破壊をしているという事実があり、「どんな対策をしていく必要があるのか?」というシンポジウムがあった。
神奈川県を中心に行政が声を上げ検討が始まっているこの問題だが、欧州、アメリカではすでに対策をしている。一方の日本は? というと全くの手つかずの状態。現在、神奈川県の黒岩知事をはじめ9都県の賛同を得て国に対策を求める動きが出ているという。その最もホットな状況の中、シンポジウムが行なわれ、独立行政法人 交通安全環境研究所の山田裕之氏から報告があったのでレポートしよう。
「何が問題なのか?」というと、ガソリンべーパーがオキシダントとPM2.5を作り出している、という事実だ。さらに、環境先進国の欧州やアメリカではすでに対策はされていて、気温の高い途上国のタイですら対策をしているが、日本では何も対策はしていない。
PM2.5と聞くとすぐに中国を思い出すが、実は日本も排出している。特に今回のテーマ、ガソリンべーパーはガソリン車特有の問題であることも認識しておきたい。またオキシダントとはオゾンなども含む酸化力の強い物質の総称で、環境破壊の要因に挙げられる物質だ。
さて、どれほどの問題なのか? あのメラメラとした気体の正体はVOC=揮発性有機化合物というもので、これが大気中にNOxと反応してオキシダントに変質し、またPM2.5 を発生させている。
日本国内では、82万トン/年のVOCが発生し、ガソリン由来はそのうち18%を占めている。そのうち、クルマのテールパイプから排出されるものが全体の2.1%で1万8000トン。走っているときに自然と漏れ出すものが3万1000トン、そしてガソリンスタンドでの給油中にノズルや給油口からのメラメラが8.6%で7万トンのVOCを排出しているということだ。
排出量からみると給油中の排出が多いのは一目瞭然で、ここで防ぎたいというのがシンポジウムのポイントだ。またガソリンは気化しやすく、軽油は気化しにくいという特性があり、ガソリンべーパーの問題はガソリン乗用車特有の問題であることも報告された。
ここでは、クルマ側で対策するか? ガソリンスタンドで対策するか? の二者択一としての報告で、アメリカではクルマがすべて対策済であり、輸出している日本車も対策済だという。そして欧州ではガソリンスタンド側が対策しているというのが現状だという報告だった。
クルマ側では空に近づいたガソリンタンクに給油をすると、メラメラが外気に排出される。しかし、クルマにはキャニスタという活性炭を使って浄化する装置があって、米国ではすべてのクルマに装着されているということだ。さらにイージーアクセスと呼ばれる給油口をもっている特徴がある。クルマにこのような対策を導入しているクルマをORVR車という呼称になっている。
一方ガソリンスタンドではステージIIと呼ばれる方法があって、給油中に排出されたVOCを地下の貯蔵タンクへと戻すやり方がある。そうすることでVOCは外気に排出されないという防ぎ方になるわけだ。
しかし、問題は給油する際のノズルから排出されるガソリンの流速を揃えないと、クルマ側のキャニスターやステージ㈼ではカバーしきれないという問題がある。後日、自動車メーカーのエンジニアの話によれば、ガソリンの給油ノズルの規格化が大事だという話で、ガソリンべーパーは給油時のガソリンの流速によって排出量が変化するそうで、ノズル径の統一と毎秒何mlの流速の統一が必須であるということだ。そうしなければキャニスターのサイズや容量が決まらないという問題が残るわけで、そうなると全国のGSの給油ノズルを変えないといけなくなる。そこに大きな壁があり、日本では対策が行なわれていない現状となる。
神奈川県の大気水質課がおこなったこのシンポジウムでは、クルマで防ぐか、ガソリンスタンドが対応するのか? というふたつにひとつという選択肢で語られていただが、国産メーカーは輸出しているモデルにはキャニスターは搭載済みで、規格化、義務化されれば比較的問題なく全車に搭載することは可能だという話だった。
一方で、ガソリンスタンドとしては個人経営も含め全国のGSが同じサイズのノズルに交換するというのは、コスト的に負担が大きく、この先、国や行政の支援がなければ実現するのは難しいのではないか? という印象を持った。
いずれにせよ、ガソリン給油時にガソリンべーパーが発生していることは間違いなく、大気汚染の原因のひとつとなっていることも間違いない。われわれユーザーとしては、その認識をしておく必要があるだろう。