スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

2019年12月1日から「ながら運転」の罰則が強化されたことは、各メディアで報道されている。運転中に携帯電話で通話したりスマートフォン、タブレット、ナビの画面を見たりする行為の反則金が普通車の場合これまでの6000円から3倍の1万8000円になる。また「ながら運転」の場合、交通違反点数がこれまでの1点から3点になり、「ながら運転」によって事故を起こした場合、これまでの2点から6点(一発免停)に引き上げられなど厳罰化の方向だ。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

2019年5月の道路交通法改正

この一連の罰則強化は、2019年5月に道路交通法の改正案が衆議院本会議で可決され、2019年12月1日に施行されることが決まったことによるものだ。

改正道路交通法のハイライトが携帯電話を使った「ながら運転」の罰則が強化されたことで、運転中に携帯電話などを使用して「交通の危険」を生じさせた場合には1年以下の懲役または30万円以下の罰金(従来は3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金)、携帯電話などを手に持って画像を注視していて「交通の危険」を生じさせなかった場合でも6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金(従来は5万円以下の罰金)が科せられる。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

こうした「刑事罰」の他に「行政処分」として反則金も引き上げられた。具体的には携帯電話(タブレット、車載カーナビ画面も同様)などを手に持って画像を注視していて「交通の危険」を生じさせなかった場合でも、反則金の限度額を大型自動車等については5万円、普通自動車等については4万円、小型特殊自動車等については3万円に引き上げる(現在の反則金の限度額は「交通の危険」を生じさせなかった場合で大型自動車等が1万円、普通自動車等が8000円、小型特殊自動車等が6000円、交通の危険を生じさせた場合で大型自動車等が2万円、普通自動車等が1万5000円、小型特殊自動車等が1万円)。改正道路交通法では「交通の危険」を生じさせた場合については「非反則行為」(非反則行為とは重度の違反を意味する)となっている。

このようにスマホなどを手で持って見ながら、あるいはカーナビ画面を見ながら運転していて交通の危険を生じさせた場合の罰則は、罰金で従来の6倍に、懲役期間も4倍へと一気に強化されたわけだ。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

運転中にスマートフォンを見ても良いケースは?

このような厳罰化の背景には、携帯電話に関係する交通事故が増加していることがある。警察庁によれば2018年中に運転中の携帯電話使用などが原因で発生した交通事故件数は2790件で、過去5年間で約1.4倍に増加。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

特にカーナビ画面を注視しているときの事故が多くなっている。死亡事故の発生率は、携帯電話を使用している場合、使用していないときの約2.1倍に増加する。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

交通事故そのものは全体で約3割減少しているから、携帯電話使用中の事故の増加が、クローズアップされ、罰則強化の方向に向かったのはやむを得ないところだ。

ところが、同じ改正道路交通法の中で携帯電話の使用やナビ画面を見ることが許されるケースもあるのだ。整備不良ではなく正常な状態で、適正な自動運転機能を持ち、緊急の場合にはドライバーがいつでも手動運転ができるという条件であれば、携帯電話、スマートフォン、ナビ画面を注視することが認められるのだ。

つまり改正道路交通法では、携帯電話、スマートフォンを手に持って「ながら運転」している場合の罰則を強化しながら、自動運転では携帯電話の画面を注視することを許すというわけだ。

ここからも明らかなように、今回の改正道路交通法は自動運転を盛り込み済みの内容で、緊急の場合はドライバーが自分で運転するということに触れられているので、レベル3の自動運転を想定していることがわかる。

レベル3の自動運転では、システムが運転を行ない、ドライバーはステアリングもペダル類も操作する必要はないが、走行状態、周囲の交通状態を常に注視し、自動運転システムで走行が難しくなったような状況ではすぐにドライバーがステアリングを握り、ドライバーの意志で運転する必要がある。

自動運転中はスマートフォンの使用は自由
自動運転中はスマートフォンの使用は自由

そのため、自動運転中でもドライバーは雑誌を読んだり、居眠りすることは禁じられており、周囲の交通状況、メーターパネル、ナビ画面などを常にモニターしていることが求められるが、スマートフォンやタブレットを手に持って見たりするのは許されることになっている。

スマートフォンの活用の拡大

今回の道路交通法改正で、走行中にスマートフォンやナビ画面を注視することは禁じられ、スマートフォンを見ていたり操作している状態で事故や違反をした場合の罰則が強化されている。

Android Auto
Android Auto

しかし、そうはいっても今ではスマートフォンを専用ホルダーでダッシュボードに固定し、スマートフォンのナビゲーション・アプリを使用することも当たり前になってきている。この状態では、ナビゲーション・アプリを使用するだけでなく、他のアプリを表示、使用することも可能だ。

一方で、自動車メーカーは、スマートフォンを走行中に使用することには否定的で、最新のクルマでもスマートフォンの画面を見ることができる設置場所は意図的に排除してきた。現在でも置くだけ(非接触)充電もセンターコンソールの奥やアームレストの内部にレイアウトされており、スマートフォンを利用できないようにしている。

ミラーリンク
ミラーリンク

また、最近ではスマートフォンとディスプレイオーディオ(DA)との接続、あるいはインフォテイメント・システムとの接続が拡大している。この方式は、海外では日本より遥かに先行しており、スマートフォンのカーアプリであるAndroid Auto、Apple Carplayを車載ディスプレイに接続して使用する、あるいは自動車メーカー、電装メーカーのコンソーシアムによる共通規格のミラーリンクが普及している。

日本のような車載ナビゲーション固定方式ではなく、ディスプレイ上でスマートフォン・アプリを利用するという考え方だ。この場合は、スマートフォンとディスプレイとをケーブルで接続し、車載ディスプレイやステアリングホイールに設置されたコマンドボタンでスマートフォンが操作でき、逆にスマートフォンを操作しても車載ディスプレイ操作に反映される仕組みで、とにかくFacebook、Twitter、ニュース、ナビゲーションなどスマートフォン・アプリをフルに活用するという発想だ。

現在、トヨタ、ダイハツが推進するSDL
現在、トヨタ、ダイハツが推進するSDL

また、もうひとつの車内でのスマートフォン方法が、トヨタ、ダイハツが推進しているSDL(スマート・デバイス・リンク)だ。SDL規格も、自動車メーカー、電装メーカーなどによるコンソーシアムによる共通規格。トヨタとフォードが共同でSDL普及・標準化を進める「SDLコンソーシアム」を設立し、スバル・スズキ・マツダなどの国内メーカー以外にも、フランスのPSAグループ、エレクトロビットなど国際的電装サプライヤーも参加している。ホンダ(ホンダはミラーリンク)を除くほぼすべての国内自動車メーカー、バイクメーカーのヤマハ、カワサキなども参加している。

SDLはミラーリンクなどと違って、車載ディスプレイにケーブル接続すると、スマートフォン側では操作は不可で、あくまでも車載ディスプレイとステアリング上のスイッチでのみ操作できるようになっており、より安全とされている。

スマートフォンのナビゲーション・アプリ
スマートフォンのナビゲーション・アプリ

コネクテッド技術の普及というトレンドの中で、車両側の通信装備で常時接続を行なうのはやはりコストが高いので上級モデルに限られ、より多くのクルマは誰もが所持するというレベルまで普及したスマートフォンの通信機能を活用し、スマートフォンアプリの音声会話によるAIアシスタント・サービスを利用するなど、より多くのクルマでコネクテッドの機能を享受できるという流れは加速すると予想される。

つまりクルマとスマートフォンは切っても切れない関係にあるのだ。

混迷するスマートフォンの位置づけ

クルマとスマートフォンの関係については、国家公安委員会の会議でも話題になっていた。車内でのスマートフォンの使用が日常化し、ながら運転による事故が増加しているので、よりペナリティを重くし、さらにクルマだけではなく自転車でのながらスマホも厳罰化するべきという意見が出ている。

また、そもそもスマートフォンなどを見ながら運転することの悪質性や危険性が、国民には十分に認識されていないのではないかという意見や、スマートフォンを手で保持しない形態での使用(スマホホルダーなどによる使用)への対応策についても検討することが大事で、このような事案への対策を急ぐ必要があるといった意見も出されている。

スマートフォンの「ながら運転」罰則強化 その問題点を考える

さらに「歩きスマホ」が一向になくならないように、スマートフォンには中毒性があるのではないか。中毒性があるのだとすれば、運転中のスマートフォン等の操作に対する罰則を強化したとしても根絶できるかどうかは疑わしい。今後は、自動車の運転中はスマートフォンなどの電子機器を使用できないような措置を取り除くなどハード面での規制も必要になるといった意見も見られる。

一方で、最近の技術の進歩は早く、通話機能と画像表示装置を分けて規制するという現在の概念では対応することが難しくなると思うので、規制の在り方については柔軟に考えて行くべきだという意見も出ている。

このような国家公安委員会での議論を見ると、いささか心もとない気がしてくる。クルマとスマートフォンの関係は今後はより緊密化することを考えると、スマートフォンを車内でいかに安全に活用するかという議論を進めるべきだろう。

いずれにしても、12月1日から施行された道路交通法では、ながら運転での市販や事故は厳罰化された。実際の場面では、走行中にナビ画面やスマートフォン画面を2秒間以上見続けると違反とされ、一方で赤信号で停車中などはスマートフォンの操作は許されることになっている。

実際の道路上での警察の取締の現場はどうなるのか、現時点では不明な点が少なくないのである。

警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」
政府広報オンライン「ながらスマホ」が厳罰化

COTY
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