あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

このところ「あおり運転」のニュースが連日、テレビで取り上げられている。正直なところ、テレビ・ニュースのトップで取り上げるような重大事案か、という疑問も感じられるが、ネット、SNSでも上位に入るニュースになっており、多くの人の注目を集めやすい話題なのだろう。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

ニュースの発端はドラレコ映像の投稿

茨城の常磐自動車道での事件は、交通トラブル、あおり運転から、最終的には殴打による傷害事件につながったが、連日テレビニュースに取りあげられるようになった背景は現代ならではと感じられる。

事が社会的な事件として広がりを見せたのは、被害者がドライブレコーダーで撮影した映像を、テレビ局(テレビ朝日)の「みんながカメラマン」という投稿コーナーに自ら投稿したことが発端になっている。テレビ朝日は、その投稿映像を2日後に使用してこんな事件があったと報道した。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

傷害事件の証拠ともなるこの映像を、被害者は警察に提出するのではなくテレビ局に投稿し、テレビが報じて広く知れ渡り、殴打した男はあおり運転を各地で実行していたことが後追いニュースで登場し、結果的に警察が捜査を開始したという展開だ。

また、過去にもあおり運転の被害者がYouTubeにドライブレコーダーの映像を投稿して話題になった例も少なくない。

つまりドライブレコーダーの記録映像が、あおり運転など交通トラブルの証拠として使用される典型的な例になってきている。

しかし、ドライブレコーダーは、もともとは万が一の衝突事故の際に、自車と衝突した相手車両の状況を映像で記録する機器で、映像と音声の記録、Gセンサー、上級機にはGPSセンサーを搭載したものもある。

ドライブレコーダーの役目

車両の衝突事故は、車載されているエアバッグ用のECU内のイベント・データ・レコーダー(EDR)により、衝突の5秒前から車速やアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作、シートベルト、エアバッグの作動などのデータが記録されているが、これらはあくまで数値的なデータのため、このEDRを補完する映像記録としてドライブレコーダーが登場してきた背景がある。

ドライブレコーダーは2000年代に入って、タクシー、バス/トラックなど走行距離が長い事業用自動車に採用され始め、導入したタクシー会社や運送会社は、ドライブレコーダーの装着により事故率が低下するという効果を生み出したという。

これは、運転手の危険な運転行為が記録されるという意識がドライバーの自制的な運転につながるということだ。現在では業務用の運転管理システムにドライブレコーダーも組み込まれ、ドライバーの急ブレーキや急加速がリアルタイムで、本社の運転管理室に送信されるシステムも一般化しており、ドライバーによる事故発生率を抑制できるようになっている。

また2016年3月からは、軽井沢スキーバス転落事故をきっかけに貸し切りバスへのドライブレコーダーの設置が国土交通省により義務化されている。もちろんこれも、運転手の運転をモニターする目的である。

ドライブレコーダーの爆発的な普及と問題

自家用車にドライブレコーダーが爆発的に普及するきっかけとなったのは、東名高速でのあおり運転と夫婦死亡事故で、あおり運転を抑止する効果があるとされたために、市販のドライブレコーダーは飛躍的に売上を伸ばし、各自動車メーカーの販売店でもオプション用品として店頭に置かれるようになった。

これはこちらの記事でお伝えしている。

面白いことに、世界で最もドライブレコーダーが普及しているのは、交通事故大国とされるロシアといわれている。広大な国土で、冬季には道路が凍結しやすく、走行車速も高いので重大な事故の発生が多い。そのため、ドライバーの自己防衛のためにドライブレコーダーが急速に普及したといわれている。その一方でドイツなど西ヨーロッパ諸国では一般的に普及しているとは言い難い状態だ。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

絶対的な証拠になるのか?

ドライブレコーダーは、交通事故での状況を映像と音声で記録することができるが、衝突事故の場合でも、必ずしも裁判において絶対的な証拠として採用されにくいことも知っておくべきだろう。

ドライブレコーダー内にGPSを内蔵し、日時や緯度・経度情報や、走行中の速度といった詳細な内容が記録できるような機種であれば一定程度の証拠能力を持つとされるが、単に映像+音声では証拠能力が低いのだ。

ドライブレコーダーの映像+音声が法的な証拠になりにくい理由は、映像や音声データは簡単に改ざん、編集できるという理由からだ。実際に、Youtubeなどに投稿されているあおり運転の被害者の映像も、その直前の運転状況はカットされるなど編集されていた例が多い。

今回の常磐道でのあおり運転、殴打事件でも、あおり運転の引き金は何なのかはわからないし、殴打に至り、エスカレートしたのは被害者のクルマが加害者の停車したクルマに追突したことで発生したことは映像ではわからず、後で被害者が証言したことで初めて明らかになっている。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

このように、映像と音声を記録するドライブレコーダーは、万能の記録というわけではない事も知っておきたい。あおり運転の抑止効果はあるといえるが、本当にあおり運転の証拠とするには少なくとも360度の映像が必要だろう。

交通トラブルを避けるために

ドライブレコーダーは確かにあおり運転を抑制する効果はあるが、あおり運転はもちろん、交通トラブルを回避する、事故の可能性を限りなく低くするためには、やはりドライバー自身が周囲のクルマに対する冷静な観察眼が重要になる。

何を観察するかといえば、前走車、後方の追走車の動きを観察することで、それらのクルマのドライバーの状態を推測することができるからだ。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

例えば前方のクルマがカーブで車線の外側に流れる傾向があるときは、そのドライバーの運転のスキルが低い、あるいは何か他のことに気が取られてステアリング操作が遅れていることが推測できる。

また直線区間を走行中にも関わらず、車線内を蛇行する場合も、運転に対する集中力が失われている、あるいはドライバーのスキルはかなり低いといったことが推測できる。さらに、高速道路などで巡航しているにも関わらず、車速が上がったり下がったりする場合や、車線内を長い周期で蛇行するような場合は、そのドライバーは強い眠気に襲われ、居眠り運転状態であることも考えられる。

後方からの追走車は、車線内での蛇行状態は前走車の場合と同様だが、自車との車間距離を縮めてくるような場合は、急いでいる、ストレスが大きな状態になっていることが推測できる。

このような問題がある運転を行なっている前走車や、追走車がいる場合は、早めにレーンチェンジし、やり過ごし、少しでもそのクルマから距離を取るのが最善の策だ。

あおり運転、ドライブレコーダーに頼るのが最善ではない

あおり運転など、交通トラブルは、自分の意思を妨害するような交通状況下でドライバーのストレスが高まることが引き金になる。もちろん多くのドライバーは、そうしたストレスが高まる状況でも、自己抑制が働くが、中にはそれができず暴発する場合もあるからだ。

ドライバーが暴発した場合、そのドライバーは威嚇行動を行ない、暴言を浴びせ、ムキになって追いかけ、クラクションを鳴らしたり、ハイビームを浴びせたりするという行動に出る。そうしたシーンに直面したときは、すでに最悪の危機の寸前にまで事態は発展しているのだ。

周囲のクルマの運転状況を観察することで、そのドライバーの状態を推測することはできるが、心理的なストレスの大きさやストレスに対する耐性の程度までは推測できないので、暴発を未然に防ぐ、威嚇行為が発生する前に、そのクルマからできるだけ距離を取ることが自分を守る方法なのである。

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