急減速の自動車メーカー2019年第1四半期決算 第2弾

前回はトヨタ、ホンダ、日産、マツダの第1四半期の決算の内容をまとめたが、円高傾向、アメリカ市場、中国市場の減速といった状況の中で、各自動車メーカーは厳しさが一気に増している。特に、日産、マツダの大幅減益とグローバルでの販売力の低下は、今後予断を許さない状況だ。では、上記4社以外の、スバル、三菱、スズキはどのような状況なのか?

スズキ:インド市場で減速

スズキはグローバルで2大市場のアメリカ、中国でのビジネスを展開していないので、他の自動車メーカーとはまったく異なり、インドで圧倒的なシェアを持つなど独自のビジネス展開を行なっている。

しかし、ついにスズキにも異変が起きている。スズキが7月30日に発表した2019年6月の世界生産台数は、前年同月比17.0%減の21万9542台と大幅マイナスとなったのだ。その理由の一つは、国内生産で完成検査の不正問題の影響で、完成検査の新システムや新たな検査設備が整うまで、生産ラインのスピードを落としているのに加え、主力のインド市場での販売が低迷し、当初の見込みを割り込んでいるからだ。

スズキ 第1四半期決算

国内では生産は前年同月比10.1%減の7万2165台と2ケタのマイナスとなった。生産ラインのスピードを落としていること、販売店がリコール作業に追われていることもあって国内販売が同14.4%減の5万4217台と、15カ月ぶりにマイナスに転じている。

インドでの生産は同15.6%減の11万1865台と5カ月連続マイナスとなった。インドの販売は前年同月比6.7%減と低迷している。またヨーロッパでの生産も減速しており海外生産全体では同16.4%減の14万7377台となった。

2019年上半期(1〜6月)の世界販売は7.7%減の158万5020台と3期ぶりマイナスである。国内販売はソリオ、軽自動車のジムニー、スペーシアが好調で同1.1%増の37万8042台と3期連続プラスとなったが、インドでの販売が前年同期比10.3%減の79万8848台と落ち込んでいる。

スズキ 第1四半期決算

売上高の減収

8月5日に発表した第1四半期の決算では、売上高は9075億円で、前期比で800億円のマイナスで3期振りの減収だ。そして営業利益は前年同期の1165億円から627億円に落ち込んでいる。8期振りの減益で42.6%のダウンとなった。この結果、営業利益率は11.8%から6.9%に低下した。もちろん、この利益率は他社比較では優れたレベルではある。

売上高の減少は、日本での減産、インドでの生産、販売の減少が原因で、営業利益の減少は、為替の影響、日本、インドでの売上の減少が原因となっている。盤石体制のはずのインドでは何が起きているのか?

その主因は、インドで4月から国政選挙が行なわれ(5月開票)、それに伴う買い控えが2019年初頭から続いているからだ。この買い控え現象はスズキの4輪車だけではなく2輪車にも広がっており、ホンダの2輪車も同様に落ち込んでいる。

この選挙の影響以外に、原油高に伴う燃料費の上昇、新車購入時に義務付けられる自動車保険の加入期間が、従来の1年間から3年間に延ばされるなど、購入者の出費が多くなることもマイナス材料だ。またインドは、大気汚染レベルが急上昇し、首都デリーなどは世界で最も汚染が深刻なレベルとなっているため、政府は従来のユーロ4相当の排ガス規制をより厳しくし、2020年に「バーラト・ステージ6(BS6)規制」(本来は2024年から導入の計画)を前倒しで採用することを決定した。BS6規制はユーロ6規制に相当する。

スズキ 第1四半期決算

2020年4月から導入される、ユーロ5相当の規制を飛び越したユーロ6レベルの排ガス規制を導入することに対し、消費者の駆け込み需要が高まるという憶測もあるが、現在はまだ兆候は見られない。

スズキ 第1四半期決算

スズキとしては、インドで明るい材料が見えないが、2020年4月からの排出ガス規制に合わせたクルマの導入が必要で、その準備に取り掛かっている。日本では新たな完成車検査用の設備導入を終え、適正な従業員配置を完了するまでは耐える時期となりそうだ。そのため、今期の通期予想は、当初の予想を継続するとしているが、今後の第2四半期、第3四半期の状況により修正もありえるという。

三菱:大幅減益だが、通期見通しは変更せず

三菱は、長年君臨してきた益子修会長兼CEOがこの5月に退任して、ルノー、日産、三菱アライアンス専任の会長となり、後任にはインドネシア子会社の社長であった加藤隆雄氏がCEOに、ルノー出身のグプタ・アシュワニ氏が代表執行役COOに就任した。

三菱 第1四半期決算

つまり今後は加藤CEO、アシュワニCOOの二人による舵取りが行なわれる新体制に移行した。その三菱は7月24日に第1四半期の決算を発表した。売上高は5362億円で前年同期比4.3%減少となり、営業利益は39億円と前年度の281億円から86.3%も減少し、営業利益率は0.7%となっている。この営業利益の減少は他の自動車メーカー中でも大幅な減益振りだ。当期純利益は93億円で前年同期比67%減少。販売台数はグローバルで29万8000台。前年同期比で2%増加となっている。

三菱 第1四半期決算

販売台数が微増でありながら売上が減少し、さらに大幅な減益となっている理由は、前年度に膨らんだ流通在庫の圧縮に取り組み、在庫の抑制のために出荷を抑制した結果だという。したがって営業利益の大幅な減益も、在庫の抑制に加えて円高という為替変動の影響を受けたことなどが主因としている。

グローバルの自動車販売は減速傾向であることは周知の事実だが、三菱は販売台数が微増し、主力のアセアン地域では計画通りとなっている。また日本ではデリカD:5、ekワゴン、ekクロスなどの新車効果で前年同期を上まわっている。さらに7月25日にタイでグローバル戦略車の新型パジェロスポーツを発売し、今年度中に国内向けにekスペースの後継モデルとなるスーパーハイトワゴンを発売するなどニューモデルも計画通りに導入する。

三菱 第1四半期決算

こうした前提のもとで、今期の通期見通しは変更せず、販売台数の追求と合わせて収益の改善に重点的に取り組むとしているが、三菱は日本市場の販売の回復が当面の最大のテーマとなっている。

スバルは北米で好調

スバルの1〜6月の生産は、世界生産台数は前年同期比2.0%減の48万8757台となり、2年連続で前年割れとなった。アメリカでの生産は2018年5月に生産を開始したアセントが好調で、前年同期比16.0%増の20万2850台と2年振り前年実績を上回った。

一方、国内生産は同11.7%減の28万5907台で3年連続で減少した。年初の電動パワーステアリングの不具合部品問題による操業停止や、完成車検査体制の見直しによる生産ラインのスピードを落としていることの影響だ。

決算を発表するスバルの取締役専務執行役員・岡田稔明CFO
決算を発表するスバルの取締役専務執行役員・岡田稔明CFO

国内販売はレヴォーグ、インプレッサが減少するなどの影響で、前年同期比9.5%減の6万9330台と低迷。海外販売は、アメリカが前年同期比5.2%増の33万9525台と10年連続プラスで過去最高を記録している。

スバル 第1四半期決算

第1四半期も好調

そしてスバルは8月5日に第1四半期の決算を発表した。4月〜6月世界販売台数は、前年同期比8.8%増の26万3000台で過去最大を記録した。海外販売では、アメリカ市場でアセント、フォレスターの販売が好調に推移したことで前年同期比9.7%増の22万9000台となった。国内販売では、フォレスター、e-BOXER搭載のXVが新型車効果があり、微増の2.9%増の3万3000台となっている。

スバル 第1四半期決算

そして売上高は、販売台数の増加などにより前年同期比16.0%増の8334億円となり、1150億円も増加した。その内訳は日本国内が25億円、アメリカ市場などが1125億円で、いかにアメリカで売上を伸ばしているかがわかる。また営業利益率は11.1%と、通期見通しの7.9%を大幅に上回っている。

スバル 第1四半期決算

営業利益は、販売台数の増加、販売奨励金の抑制、諸経費等、研究開発費の減少などにより、前年同期比48.4%増となる922億円となっている。このスバルの第1四半期の決算は、大幅減益で横並びとなった国内メーカーの中では異例のサプライズで、この日以降のスバルの株価が上昇し続けている。

スバルとしては、国内市場が計画より下振れしていることは誤算だが、アメリカ市場での進撃は期待以上だ。そのため今期の通期見通しは、売上高は過去最高の3兆3100億円(+1539億円)、販売台数は113万2000台と過去最高の販売台数を予想している。特にアメリカで秋から販売が開始される新型レガシィ/アウトバックがさらに業績を加速させると見込まれている。

日本の各自動車メーカーが一大市場のアメリカで不振を強いられ、販売台数の低迷、利益率の大幅ダウンとなり特に日産、マツダが大きな打撃を受けている。トヨタは販売台数をかろうじて維持すると同時に利益率を高めることに成功したている。それ以外で、スバルは例外的に販売台数を増やし、さらに販売奨励金を抑制し、フリート販売に依存しないことで利益率を高め、成功を収めている。

第1四半期決算

だがスバルにとっては高い業績に浮かれる状況にはない。当面の課題は日本市場のテコ入れだが、それ以外にも導入予定のダウンサイジング・ターボ・エンジンの開発の遅れ、アイサイトVer3 ツーリングアシスト以降の運転支援システムの開発の遅れ、トヨタと共同開発となる電気自動車以外の電動化に対する取り組みの遅れなど、開発のプログラムが全体的にスローペースである点は今後の懸念材料となっている。

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