この記事は2018年10月に有料配信したメルマガを無料効果したものです。
2017年6月、東名高速道路上の追い越し車線に停車したワゴン車に、走行してきた大型トラックが突っ込み、ワゴン車に乗っていた夫婦が死亡。2人の女の子を含む合計4名が負傷する事故が発生した。ワゴン車が追い越し車線に停車した原因は、直前に中井パーキングエリアでトラブルになった男のクルマに進路妨害を受けて停止していたことが事故につながったとされる。
2017年に生まれた「あおり運転」
この事故はテレビのニュース、新聞などで繰り返し報道され今では「あおり運転」という言葉がすっかり定着した感がある。さらにこの事故の影響で、ドライバーが自己防衛のためにドライブレコーダーを装着することになり、ドライブレコーダーの販売が飛躍的に売上を伸ばすといった副次的な現象も起きている。
このため、最近では営業用車両から自家用車までドライブレコーダーの装着率はきわめて高くなっており、これは「あおり運転」に対する防衛策とされているからだ。だがそれが本当に防衛策なのか?
懲役もある車間距離不保持
警察もあおり運転を抑制するために、ヘリコプターを使用して上空から高速道路を監視したり、警察庁はあおり運転は「暴行容疑で立件検討」と全国の警察に指示を出したりしている。さらに、あおり運転に関するコメントも発表した。そのコメントは次の通りだ。
『いわゆる「あおり運転」等は、重大な交通事故につながる悪質・危険な行為です。また、車間距離保持義務違反、進路変更禁止違反、急ブレーキ禁止違反等の道路交通法違反のほか、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)や刑法の暴行罪に該当することがあります。車を運転する際は、周りの車の動きなどに注意し、安全な速度での運転を心掛け、十分な車間距離を保つとともに、無理な進路変更や追越し等は絶対にやめましょう。警察ではあおり運転等に対してあらゆる法令を駆使し、厳正な捜査を徹底するとともに、積極的な交通指導取締りを推進しています。また、あおり運転等を行なった者に対しては、危険性帯有による運転免許停止等の行政処分を厳正に行なっています』
危険性帯有とは、自動車等を運転することが、著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるときには、危険性帯有者として、点数制度による処分に至らない場合であっても運転免許の停止処分が行なわれるというもの。
なお、正式には「あおり運転」という用語はないので、交通法規上では安全な車間距離を取らずに前車に接近する行為は、道路交通法26条が禁止する車間距離不保持とされる。高速道路での車間距離不保持については、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科させられ、一般道での車間距離不保持については、5万円以下の罰金が科させられる。また、前者については、1万円、1万5000円または2万円の反則金が、後者については、6000円、8000円または1万円の反則金が課され、前者については2点の反則点数、後者については、1点の反則点数が加算される。
ただ、あおり運転は、車間距離の不保持だけではなく、急激な車線割り込み、幅寄せなどのかなり幅広い概念で、警察庁の「危険性帯有」という表現は、危険を感じる運転やドライバーという、かなり漠然とした概念となっている。
ドライバーのストレスを考える
あおり運転という言葉がマスメディアに登場し、テレビ番組のコメンテーターたちは、そうした行為をするドライバーは凶暴な危険人物像であると語る傾向が強い。しかし、それはあまりに非現実的な見方で、おそらく自分で運転した経験がほとんどないのではないかと思われる。
交通環境の中でクルマを走らせている時、ドライバーは常にクルマの周囲をモニターしながら運転をしており、作業としては忙しい状態で、心理的な余裕が少ない状態だ。つまりストレスが強い状態であり、ちょっとしたきっかけでパニックになったり、怒りの感情が沸き起こりやすい。
逆に地方の過疎地の道路で、前にも後ろにも他のクルマがまったくいないような状態で走っている場合は、ストレスが大幅に減り、気持ちよく自分のペースで走ることができるはずだ。
このことからわかるように、ドライバーは一般的な交通環境のもとではストレスが大きく、道路が混雑していて思うように自分の進路が選べない時や、混雑する道路に合流したりするシーンでは、ストレスが一層大きくなるものだ。
こうした場面で、自分の意思を妨害するような他車が出現すると、威嚇し、暴言を吐き、ムキになって追いかけ、クラクションを鳴らしたり、ハイビームを浴びせたりする。運転中のこのような行為は、「road rage:ロードレイジ:路上での逆上」と呼ばれ、古今東西、世界中で見ることができる。
やられたらやり返す?
交通マナーが良いと言われるヨーロッパでも、のろのろ、まごまごした運転をしていると罵声を浴びせられることも珍しくはない。イギリスの喜劇TVドラマ「Mr.ビーン」では、主人公が遅いクルマ、低性能のクルマを虐めるシーンは、この喜劇のメインテーマの一つであった。