【超小型モビリティ】普及のためには国を挙げての取り組みが必要だ

雑誌に載らない話vol48

ヨーロッパで発売開始されたルノーのマイクロEVコミューター、ツゥイージー画像
ヨーロッパで発売開始されたルノーのマイクロEVコミューター、ツゥイージー

2012年6月、国土交通省から「超小型モビリティ導入」、「電気バスの導入」、「充電施設の設置」のガイドラインが発表された。このガイドラインのコンセプトは、環境対応車普及による低炭素の街づくりだ。この中で「超小型モビリティ導入」は2年間の実証実験の結果と国土交通省の諮問委員会、「超小型モビリティ等環境対応車による地域交通システムのあり方検討委員会」が2011年に行った討議をまとめたものだ。

ここでいう超小型モビリティとは、従来からある電動シニアカー、オートバイの派生としてのエンジン付き3輪車、サードパーティの開発したマイクロEVと一線を引いたもので、主として自動メーカーが開発する超小型EVを指す。

超小型モビリティをはじめとする電気自動車(環境対応車)は、低炭素社会の実現に大きく貢献するとともに、人口減少・高齢化時代に対応するコンパクトな街づくりにも適した交通手段と位置付けられている。

日産PIVO3画像ホンダ・マイクロCOMコンセプト画像
    ↑日産PIVO3                 ↑ホンダ・マイクロコミューター・コンセプト

ダイハツPICO画像スズキQコンセプト画像
       ↑ダイハツPICO                       ↑スズキQコンセプト

超小型モビリティ、いわゆる電動シティ・コミューターは、過去の東京モーターショーに各社からコンセプトカーやプロトタイプが出展され、特に2011年12月のモーターショーでは多数のプロトタイプが顔をそろえた。

また、ヨーロッパでも電動マイクロ・コミューターの構想はさまざまに展開されている。ルノーは日産と共同で2名乗りのトゥイージー(日産での名称はニューモビリティ・コンセプト)の発売をすでに開始し、VWは2011年フランクフルトショーで1人乗りの「NILS」を出展した。NILSは都市居住者を対象にした近未来の電動移動手段で、ドイツ連邦・交通省の支援を受けたプロジェクトとして生まれている。

日本の超小型EVモビリティは、最高速は60km/h程度、航続距離は20km〜50kmあたりであるのに対し、ヨーロッパのマイクロ・コミュターは最高速が100km/h〜130km/h、航続距離は60km〜100kmといった性能のレベルの違いがある。

超小型車導入の概要画像超小型車ガイドラインの概要画像

今回発表された国交省のガイドラインでは、超小型車の意義、想定される使用場面、自治体の取り組み、超小型車に求められる性能・スペックなどは一覧表の通りだ。また、このプロジェクトを推進するためには、充電インフラ、特に公共用充電施設の拡大・整備が求められるが、それは別途、充電施設設置のガイドラインもまとめられている。

超小型EVモビリティの定義は、「自動車(軽自動車)よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ(EV)、地域の手軽な移動の足となる1人〜2人乗り程度の車両」とされている。そしてこれの普及により、CO2の削減のみならず、観光・地域振興、都市や地域の新たな交通手段、高齢者や子育て世代の移動支援など多くの副次的便益が期待されるとしている。

超小型モビリティ(マイクロ・コミューター)のポジショニング画像
超小型モビリティ(マイクロ・コミューター)のポジショニング

実はこのような超小型モビリティは、従来は電動シニアカー、原付き2輪、3輪車が任ってきたが、電動シニアカーは歩道走行で最高速が5km/h程度、航続距離が短く、原付き2輪車、3輪車は、CO2と騒音の発生が問題である。

新たな超小型EVモビリティは、車道を走行する能力を持ち、よりクルマに近い存在とされる。また、同時に新たなコンセプトで開発されている移動支援ロボット(立乗り型)は、歩道走行であるが超小型モビリティのカテゴリーに組み込まれる。

このような新しい超小型EVモビリティが求められる背景は、国交省のデータによれば農山村だけでなく都市部での交通手段に占める自動車分担率が増加傾向にあり、バスなど公共交通手段は特に地方で衰退傾向にある。自動車による移動距離は10km以内が約6割を占め、乗車人数は2人以下が多いという。

また、輸送では宅配やコンビニ納品などで、荷物の配送頻度の増加と小口化が進んでおり、都市内では荷捌き駐車スペース不足による路上駐車、狭い街路への貨物車の流入による渋滞の発生、貨物車から台車に載せ替えて搬送するなどによる輸送効率の低下が課題となっている。

したがって、都市中心部の市街地へのクルマのアクセスの悪さや回遊のしにくさが、都市中心部の空洞化・地域活性化の弊害の一因として挙げられており、モビリティの改善が求められているわけだ。また、社会が高齢化しているにもかかわらず、公共交通のサービスの低下や、都市部の交通問題により、自動車の運転が困難な高齢者の外出機会が減少している現状もある。

これ以外に、クルマ全体でのCO2排出の削減という社会的な課題への対応や、ユーザー層も近年は、エコカー、軽自動車やコンパクトカーのニーズが、従来よりはるかに高まっていることも超小型車を普及させる原動力となると想定される。

実証実験実施都市

実証実験参加車両一覧

こうした背景のもとで、平成22〜平成23年に行われた全国各地の実証実験において、超小型モビリティがどのような場面での利活用に適しているかを調査したところ、身近な移動(日常の交通)や都市部・観光地における短距離の移動において、活用されるケースが多いことが確認されたという。

なお実証実験に使用されたしクルマは一覧表の通りだ。そして、実験に参加した人々の77%が、今後も超小型モビリティを使用したい、特に2人乗りの車種で85%の人が利用したいという結果になった。

超小型モビリティ実証実験回答画像

実証実験では、近距離(5km圏内)の日常的な交通手段としての利活用場面が多く、狭い路地のある市街地・住宅地での新しい交通システムとしての利用が期待できる結果となった。したがって、主な使用目的は買い物や地域活動など、日常生活の身近な利用がメインである。

また超小型モビリティを利用することで、クルマを使用しないで日常での買物など外出機会が増加し、高齢者の外出回数も増加傾向になったという結果もある。そして、地方の農村部などでは、起伏のある集落での利用が見られた。また、狭い路地のある集落でも活用されていることが確認されたという。これらは、超小型モビリティの特徴である、狭い道路での走りやすさ、車体サイズのコンパクトさが運転のしやすさとして認識されたのだ。

またこの点は、観光地などでの狭い、歩行者・クルマ共存道路では、車両が小さいことから、歩行者に対して安心できる距離感を確保できることも特徴だ。また配送など商用としても、都市部での小口配送でも超小型モビリティの有効性が確認されている。

超小型モビリティ使用想定シーン画像

使用想定シーン.

実証実験で超小型モビリティを体験した人々は、このカテゴリーのクルマについて、乗用車と外観が類似するので、自動車ユーザーは乗用車と同等の安全性能をイメージすることが多い、狭い道路などを走行する場面が多いので、歩行者に車両の接近等を知らせるた
めの機能が、一般の自動車以上に重要、コンパクトであるため、他車からの被視認性が、自動車に比べ劣る可能性がある、今回の実験で用いた超小型モビリティは、ガソリン車に比べ低出力であり車種によっては坂道において十分な速度を得られない傾向がみられたことから、車格に応じたモーターの出力を持たせる必要があるといった感想が寄せられたという。

ガイドラインは、実証実験の結果から、専用の駐車スペースや充電設備などを整備すれば超小型モビリティの普及は大きな可能性があるとしている。もちろん、観光地や団地などではカーシェアリングなどの形態を採用するなどにより普及はさらに加速することも想定される。

しかし、その一方で、日本で求められるよう性能と、ヨーロッパでの性能の違いをどのような考えるか、軽自動車のように日本独自規格にするか、価格や性能などはより深い検討を要すると考えられる。

トヨタ車体が7月2日から発売を開始した1人乗りEV、COMS画像
トヨタ車体が7月2日から発売を開始した1人乗りEV、COMS

2012年7月2日に、いち早くトヨタ車体は1人乗りの超小型電動自動車(EV)「COMS(コムス)」を、全国トヨタ販売店を通じて発売した。COMSはトヨタ車体の前身のアラコの時代から開発されていた超小型EVで、いわば満を持しての登場だ。

コンセプトは、「ちょっと(Chotto)お出かけ(Odekake)、街まで(Machimade)、スイスイ(Suisui)」で、それぞれの頭文字を取ってCOMS(コムス)」とされている。道路交通法規では自動車、道路運送車両法では第一種原動機付自転車4輪とされ、普通免許が必要になる。第一種原動機付自転車の法規に従い、定格出力は0.59kWに限定されるが、独自開発のインバーターの採用で最高出力と最大トルクを高め、最高速度は60km/hとしている。パーソナルユースのP・COMと、ビジネスユースに適したB・COMの2タイプをラインアップしている。

トヨタ車体COMSスペック画像

価格は66万8000円〜79万8000円。もちろん経済産業省のクリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金の対象で、1台あたり最大7万円の補助金を受け、実質負担額は59万8000円からとなる。またCOMSは第一種原動機付自転車扱いのため、車検・車庫証明・重量税・取得税は不要であるのもメリットだ。

COMSは価格を意識し、バッテリーはEV用密閉型鉛電池(12V-52Ah)×6個を床下に格納・搭載している。このため充電は家庭用100Vが使用でき、満充電まで約6時間とされている。

日産ニューモビリティコンセプト画像ルノーTwizy画像
   ↑日産ニューモビリティコンセプト               ↑ルノーTwizy

2人乗りで開発されているのがルノー・トゥイージー/日産ニューモビリティ・コンセプトで、ルノーはすでに発売を開始している。コンセプトとして興味深いのは、2種類の設定があることで、「45」は最高速度を約45km/hとし、出力も5psに抑えたタイプ。これによって多くの国では自動車免許がなくても運転ができる。価格は6990ユーロ(約68万円)。

もう1種類の「80」は最高出力17ps、最高速度80km/hのと実用性能が高い。現時点では「Urban」、「Technic」と2バージョンがラインアップされ、価格は「Urban」が7690ユーロ(約75万円)、「Technic」が8490ユーロ(約83万円)。面白いのはリチウムイオン電池はリース契約を結ぶ形で、月間4000円程度がリース料とされる。

いずれのタイプも航続距離は100kmと長い。また17ps仕様は交通をリードできる加速力を備えているという。

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2011年フランクフルトショーに登場したVW NILS

ドイツ連邦政府とVWの共同プロジェクトとしてまとめられたNILS は、1人乗りで、460kgと超小型モビリティとしては標準的な重量に収められ、最高速度は130km/h 。0→100km/h 加速は11 秒以内とされる。駆動するモーターは通常時15kW 、短時間では25kW のピークパワーを発揮する。

電池はリチウムイオン電池で、5.3kWhの電気容量を持ち航続距離は約65kmとされる。NILSは都市近郊から都市部に通勤するような使用状態を想定しており、一般乗用車との混合交通を前提とした動力性能を備えていることが特徴といえる。

国土交通省公式サイト

トヨタ車体公式サイト

ルノー公式サイト

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