【AutoProveのひと言】 原発ショック 原発事故がもたらすもの

雑誌に載らない話vol22
未曾有の規模の東北地方太平洋沖地震、大津波により東京電力・福島原子力発電所・第1発電所の1?4号機が大きな被害を受けた。

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↑事故後の福島第一原発と事故前の全景

地震発生直後に自動非常停止は作動したが外部電源が切断され、津波によりバックアップ電源のディーゼル発電機の機能を失った。このため、8時間分の能力しか持たないバッテリー電源での冷却となったが当然バッテリーは放電し、その後はシステムの冷却機能を完全に失った。

また原子炉圧力容器と格納容器を結ぶ配管も損傷したという情報もあり、格納容器の蒸気圧力が上昇したため、汚染された蒸気を屋外に放出。さらに燃料棒の発熱により冷却水の蒸発が促進され、圧力容器内の水位が下がって燃料棒が露出し溶融しつつ水素ガスを発生した。この水素ガスが1?3号機の屋内で爆発した。

さらに4機の屋内に保存してある使用済み燃料棒の冷却機能も失われたため、ここでも冷却水の蒸発が促進され、水位が低下し、燃料棒の一部は露出したとされる。1?3号機の燃料棒の溶融、1?4号機の使用済み燃料の冷却不能など、核燃料のすべてと圧力容器、格納容器のいずれもが、つまり複数の発電施設とそれに用いられ、また貯蔵されている多量の核燃料すべてが危機的状況に陥るのはかつてない事態であり、長期間にわたって大規模な汚染の危険が続くことになることが懸念される。

大地震が引き金になって、原子力の集合発電所で想定を超えた大規模事故が発生したことは、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故と同等かそれ以上に原子力発電の安全神話を大きく揺るがせている。

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↑チェルノブイリ石棺とスリーマイル島原発

原子力発電に関しては、その登場以降、永らく安全性が議論され、世界各国で多様な政策が模索されてきた。

フランスは総電力の77%を原子力発電に依存する、世界最大の原子力発電大国になり、その他の発電の12%が水力・風力・太陽光発電、11%が火力発電だ。フランスはエネルギー資源に乏しいがウラニウム算出は豊富というバックグラウンドがある。

ドイツは、2002年に社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権の下で原子力法等の改正法、すなわち「脱原発政策」を決定した。ドイツには17基の原子力発電所が存在し、総電力に占める供給率は約22%である。使用済み核燃料(プルトニウム含有)はイギリスやフランスの再処理施設に送られ、処理後にドイツに返送されるシステムであったが、1990年代に、ドイツ国内には中間貯蔵所はあるものの最終処理・貯蔵所は未決定であったことや、最処理後の容器は汚染されていることがわかったこと、さらに86年のチェルノブイリ事故の結果とあわせて反原発の機運が高まった結果であった。

しかし、2009年に成立した連立政権は、原子力を再生可能エネルギーによって安定的に代替されるまでの過渡期のテクノロジーと位置付けた上で、CO2削減の目標を達成し、エネルギー価格を安定的に保つために原子力発電所の稼働年数を延長することを決定した。つまり原発の見直しである。

アメリカは104基の原子力発電所を稼動させ、総電力の約20%を供給している。このように多数の原子力発電所を持ってはいるが、スリーマイル島事故が大きな教訓となり、以来新設は凍結されてきたため比較的原子力発電は低い依存率になっている。

しかし2010年、オバマ大統領は約30年ぶりとなるアメリカでの原子力発電所の新設計画に対し、総額約7500億円の融資保証を実施すると発表した。CO2削減を目指したいわゆるグリーンニューディール政策の一環である。今後約20基の新設が見込まれているという。

主としてドイツ、アメリカでCO2削減の切り札として原子力発電を見直す動きがあったのである。また中国はすでに11基の原子力発電所が稼動しているが、今後急速に新設する計画になっている。

今回の福島原子力発電所の深刻な事故を受け、アメリカの公式コメントはないものの、外信によればカリフォルニア州では地震、中西部では竜巻の脅威があるため、米専門家の間では「日本の事故が、米国内の原発の建築、運用の規制強化につながる可能性がある」との見方が広まっている。

ドイツは原子力発電所の稼動延長の決定を棚上げし、安全性を再検討するとメルケル首相が明言し、シュピーゲル誌は「原子力時代の終焉」という見出しを掲げた。中国も建設中の原子力発電所の安全性再評価を行うとしている。

スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故に続く、第3の深刻な原子力発電所事故として、日本はもちろん、世界各国の原子力政策に大きな影響を与えることは間違いない。

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↑ライフサイクルCO2排出量と代替した場合の必要な燃料

原子力発電は、風力や太陽光発電よりはるかに大出力が得られ、CO2を生み出さないためクリーンエネルギーの代表格とされ、原子力発電の位置付けは以前より高まっていた。また、電力会社にとっては火力発電と比べ、原子力発電は燃料コストが低いため、石油の価格上昇が続く現状ではコストメリットもあるとしていた。しかし、クリーンで低コストの原子力発電が三度目の見直しを行わざるを得ないことはいうまでもない。

東電コスト

↑東電コスト

自動車業界においては、この2年来、急激に電気自動車がCO2削減対策の主流となっている。ゼロエミッション、CO2ゼロを目指すためには、短期的には電気自動車、長期的には燃料電池車を指向する流れが加速し、日本車はもちろん、ヨーロッパ車、アメリカ車もこの潮流に乗っている。

電気自動車のエネルギー源である電気は原子力発電が背景にあることは否定できない。CO2排出力の大きな石炭火力発電では電気自動車のゼロエミッション、ゼロCO2は色あせるからである。自動車メーカー側の電気自動車に対する考え方はまだ表明されておらず、したがって、電気自動車は急激な潮流の変化はないにしても、その背景となる電源、電力について改めて大きな影響を受けざるを得ないと考えられる現状である。

文:編集部 松本晴比古

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