燃費性能の表示がJC08モードに変更

雑誌に載らない話vol23
いよいよ2011年4月から、新たに発売されるクルマのカタログ燃費はJC08モード燃費での表示が義務付けられることになった。

Mode?

これまでのカタログ燃費表示は10・15モード燃費が主流だったが、実際には、国産乗用車はふたつの計測モードが併記されていた。しかし、軽自動車や輸入車は10・15モード燃費表示のみとしていた。こうした計測モードが入り混じった現状が少しは整理されると考えてよいだろう。

燃費表示のこれまでの流れを整理してみると・・・・・・

まず、カタログに記載されているクルマの燃費は、自動車メーカーが各自で計測したデータではなく、国交省が決めた計測方式に従って国交省の試験場で計測されたデータが記載されている。

これまで主流であった10・15モードと呼ばれる燃費計測方法は、1991年から採用されている。それ以前は10モード燃費と呼ばれる計測方法であった。モード燃費の実際の計測方法は、国交省が認定した試験場のシャシーダイナモメーターを使用して室内で行われる。つまり気候の影響を受けずに、室温、湿度が空調された一定の条件のもとでデータをとることになっているのだ。

JC8モード燃費

シャシーダイナモメーターはクルマを乗せる動力計で、駆動輪の駆動力を大きなローラーで受けとめ、その回転をクルマの重量に相当する走行抵抗を調節する動力吸収装置(発電機)に伝える。その動力吸収装置はクルマの重量に合わせて調整される仕組みだ。

クルマの重量が1000kg以下の場合には125kg間隔で、1000kgを超える場合には250kg間隔で調節するように決められている。

またそれ以外に、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗などの走行抵抗は、テストコースで惰行試験を行い、速度による走行抵抗の変化を測定し、これと同じ走行抵抗となるように、動力吸収装置が発生する抵抗を速度に応じて調節する仕組みになっている。

試験時に使用される燃料も、事前に成分分析が行われ、成分を明らかにするとともに規格に合致していることが確認される。

10・15モード燃費計測では、クルマは事前に十分ウォームアップしたうえで計測が開始される。つまり冷間始動時の燃費は考慮されない。ちなみに、試験を担当する自動車メーカーから派遣されたドライバーは、運転指示モニターを見ながら、モードで決められた運転に合わせてきわめて正確に微小なアクセル操作を行う。いわば、モード専門のプロドライバーが存在しているのだ。

モニターには10秒間で0→20km/hまで加速といった指示が表示され、ドライバーは、その指示通りのアクセル操作を行い、20km/hに達した時点でアクセルの踏み込みを正確に止める、といった微妙な技術が求められているのだ。

10・15モードで決められた走行距離は4165m、最高速度70km/h、平均速度22.7km/h、走行時間は約9分間である。つまり都市部の市街地走行をイメージしたモードである。

モード燃費の計測が開始されると、排気パイプから排出される排気ガスをすべて収集し、その排気ガスの中に含まれるCO2、CO、HCの量を測定し、燃料の消費量を算出する。これはカーボンバランス法と呼ばれる燃費算出方式だ。

ハイブリッド車の場合は、バッテリーの放電状態から充電状態の変化と、燃費の関係を事前に算出しておき、試験開始時の充電状態と試験終了後の充電状態を比較し、それを燃料消費量に換算して、カーボンバランス法で求めた燃料消費量を補正する方式としている。

このような手順で求めたモード燃費は、大気条件と燃費の関係から、1気圧、気温20度C、湿度50%の条件に適合するように補正計算される。これが10・15モード燃費の国交省審査値となりカタログに掲載されている。なおモード試験中は、エアコンオフ、ステアリング操舵はゼロのため、エアコン、パワーステアリングなどの駆動損失は、燃費データに含まれていない。

この10・15モード燃費がカタログ燃費となるため、燃費競争の一環として、日本の自動車メーカーはモード運転時の燃費が最も良好になるように、エンジン特性やオルタネーターの発電特性のチューニングを実施している。ところが、輸入車は本国での計測モードに適合させているので、このようなチューニングは行っていない。したがって輸入車の10・15モード燃費は国産車より実用燃費に近いといえる。

さらに、10・15モード燃費は、冷間始動から暖機されるまでの燃費は考慮されていない。車速があまりに低速側で、実用運転条件を反映していないという意見に対応して、2006年に国交省は新たにJC08モードという新たな燃費測定モードを策定した。

JC08モード燃費は、冷間始動時から計測が開始され、走行距離8182m、最高速度は81.6km、平均速度24.4km/h、走行時間20分間と、10・15モードよりリアルな都市部走行になったといえる。

具体的なモードは、表を参照するとよく分かる。なお併記されているNEDC(新ヨーロッパ・ドライビングサイクル)はヨーロッパ各国統一の燃費計測モードで、ヨーロッパでの平均的な市街地+郊外走行のドライブモードである。NEDCの平均速度は33.6km/h、最高速度は120km/hとなっている。

JC08モード燃費への完全移行は2015年とされており、それまでの移行期間は10・15モード燃費表示のみ、あるいは併記とされるが、2011年4月以降の発売モデルからはJC08モード燃費の表示が義務付けられた。もちろん、継続販売車は10・15モード燃費の表示が行われるため、両モードの併記という状況に変わりはないともいえる。

ただ、現実にはJC08モード燃費が決定された後、乗用車に関しては日本の自動車メーカー全社は2007年以降10・15モード燃費とJC08モード燃費を併記して現在に至っているが、軽自動車、輸入車は現在まで10・15モード燃費のみの表示としていた。

したがって、4月からの表示義務を受けて軽自動車と輸入車は、その対応に迫られることになる。もちろん従来は10・15モード燃費のみの表示であったため、比較するためにも当面は従来からの10・15モード燃費との併記という形になると予想される。

これまでの10・15モード燃費とJC08モード燃費の比較では、JC08モードは10・15モードより15%程度燃費が悪化するのが実状だ。

例えば、マーチ(アイドルストップ付き)は10・15モードで26.0km/L、JC08モードで22.6km/L、ヴィッツ(アイドルストップ付き)は10・15モードで26.5km/L、JC08モードで21.8Km/L、フィットは10・15モードで22.0km/L、JC08モードで20.6km/Lとなる。

しかし、いずれにしてもJC08モード燃費といえども一定の測定方法に従った燃費であり、実用燃費とは異なることはいうまでもない。実用燃費はドライバーの運転方法や走行条件、気候により大きく変化するので、カタログ燃費としては規格化されたモード燃費に頼るほかない。

従来は平均的な実用燃費と10・15モード燃費の数値は30%以上のかい離があると言われているが、JC08モード燃費でも実用燃費は、その80%程度と見込んでおけば間違いないだろう。

文:編集部 松本晴比古

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