雑誌に載らない話vol19
2011年1月13日、日本の主要自動車メーカーやエネルギー供給企業など13社が、燃料電池車(FCV)の国内導入と、そのエネルギー源となる水素供給インフラ整備に関する共同声明が発表された。
日本での燃料電池車は、現在のところ2008年から日本とアメリカにおいて、リース形式でホンダのFCV車である「FCXクラリティ」が提供され、実証実験を行っている。トヨタ、日産を始め各自動車メーカーも将来的にはこのFCVが本命と考えていることは間違いないが、問題は市場に供給する時期である。
経済産業省が推進する次世代自動車戦略の一環として、水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)では、FCV車の市販仕様発売は2015年を目処にしている。そのことから、今回の宣言では「2015年に4大都市圏を中心とした国内市場へ導入すること」、そしてこれに歩調を合わせ「水素供給事業者は2015年までに100箇所程度の水素供給インフラの先行整備を目指す」としている。
1994年に当時のダイムラー・ベンツ社が燃料電池実験車、NECARを発表して大きな反響を生み出し、多くの自動車メーカーはFCVを究極のエコカーとして基本研究に取り組んだ。しかし、その後はハイブリッドカー・ブーム、そし近年は電気自動車に脚光が当たり、最近は少しFCVの影が薄くなっていた。
とはいえ、経済産業省でのFCV普及活動も着実に行われており、2010年年6月に政府で閣議決定された「エネルギー基本計画の見直し」を契機に、官民一体となってFCV開発を加速させようという背景が育ち、今回の宣言が出された。
FCVは、電池のスタックに多量の貴金属・レアメタルを使用するなどの問題があり、またもちろん量産されていないために、試作車では1台当たりの原価が数億円といわれている。しかし、200台を生産したホンダFCXクラリティは1億円を切ったといわれている。
↑ホンダのFCXクラリティの電池スタック、→トヨタFCHVのスタック
そして2015年、量産市販化の段階では1000万円を切るレベルの価格が目標とされており、そのためにはさらに大幅なコスト削減をする必要がある。そのため共同宣言では、「燃料電池システムの大幅なコストダウンを進める」ことや「FCV量産車」を実現することが盛り込まれているのだ。
FCVのエネルギー源となる燃料は水素と酸素だが、20MPa?70MPaという超高圧の圧縮水素ガスを使用することが前提となるため、水素ステーションを作るには35MPa級で5億円、最新の70MPa級のステーションは10億円にもなるといわれている。だから、商業ベースで容易に作ることは難しい。今後はいかに水素ステーションの設置コストを下げることができるかが焦点になる。
今回の宣言では石油元売企業、ガス供給企業も一体になってコスト低減に取り組み、まずは4大都市圏にステーションを先行して設置し、その後の目標として高速道路に沿って配置を進めることにしている。
水素と酸素から電気を作るFCVではなく、既存のガソリンエンジンを進化させた水素エンジンを研究しているBMWは、ドイツの地元バイエルン州と共同して水素インフラの整備を進めている。また、ノルウェイでは高速道路沿線に水素ステーションを展開する「水素道路プロジェクト」など、官民一体になった水素エネルギー利用プロジェクトが進められているが、どちらにしても、水素のエネルギー化、水素を利用するFCVの普及には水素ステーションの展開が大きなキーポイントになっている。
現在国内で多くの話題にのぼるEV車は、家庭の電源から充電する方法や、インフラ整備が必要となる急速充電ステーション方式だとしても、水素ステーションよりはるかにローコストであり、EVとは大きく異なる点である。
日本においては経済産業省、JHFC、自動車メーカー、エネルギー供給企業が一体化してようやく水素エネルギー/FCV普及に本格的に始動しようとしている。自動車メーカーではトヨタ、日産、ホンダの3社のみが今回の共同宣言に加わった。また、GMは今回の宣言に加わっていないが、2003年にJHFCの活動に参加し、今後も歩調を合わせて行くとしている。 GMは実証実験車、ハイドロジェン3でアメリカ、欧州、アジアで実証実験を行っており、日本ではフェデラルエクスプレス社に集配業務用の商用車を供給し、緑ナンバー車として登録もし、実績を積み重ねているのだ。
2015年まであと4年。究極のエコカーの普及実現はなるだろうか?
文:編集部 松本晴比古
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