ペダルの踏み間違いに関する考察

雑誌に載らない話vol13
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相変わらず、交通事故でアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いとされる事例が後を絶たない。コンピニやスーパーマーケットに突っ込んだ! 駐車場のフェンスを突き破った! といった事故例では、ペダルの踏み間違いが原因であることが多い。

(財)交通事故総合分析センターのデータと思われるが、公表されているペダルの踏み間違いが原因の交通事故は年間7500件程度で推移しているらしい。もちろんこれは乗員や歩行者が死傷した事故データであり、物損など軽微な事故、あるいは事故に至らないケースはその10倍程度と推定される。つまり、ペダルの踏み間違いの事故、あるいは操作ミスは、日常的に発生していることが考えられるわけだ。

20100623030945158 年齢別統計

↑(財)交通事故総合分析センターによる工作物に対する事故の分析

なお、ペダルの踏み間違いを犯しやすいのは高齢者と思われがちであるが、実際には極端な年齢的片寄りは見られず、若者にも少なくない。強いて言えば、運転スキルの低い層が多いのではないかと想像できる。ただ、ペダルを踏み間違えても、修正操作により軽微な事故で終わるか、パニックになり修正操作ができず大きな事故になってしまうかという点を考えると、一定の属性があると推測できるが、こういう点はあまり研究されていないようだ。

(財)日本交通安全教育普及協会で公表されている事故例と解説は次の通り。

事故の概要

平日の朝、Aさん(35歳)は、営業に出かけるため、会社の駐車場から表通りに出ようとしていた。駐車場の出口に近づいたところ、駐車場に入って来る同僚の車があったため、Aさんはアクセルペダルを放し、オートマチック車のクリープ現象を利用して車を低速で前進させた。その時、右方向から接近してくるBさん(63歳)の自転車が急にAさんの目に入った。Aさんは慌ててブレーキを踏んだつもりだったが、間違ってアクセルペダルを踏み込んでしまった。Aさんの車は急発進し、Bさんの自転車と衝突した後、道路の向かい側の金属製のフェンスを倒して停止した。

この事例をうけ、(財)日本交通安全教育普及協会の解説は以下のようになっている。

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この事故から学ぶこと

1986年頃、オートマチック車が低速走行中に急加速する事故が米国と日本で問題になった。当初は車の欠陥が疑われ、欠陥車を製造したと疑われたドイツのアウディ社は、売り上げを大幅に落として業績不振に陥った。しかし、その後に行われた大規模な調査により、これらの事故のほとんどがアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いが原因で発生したことが明らかになった。オートマチック車は運転しやすい車として近年では乗用車の大部分を占めるようになっている。しかし、便利な一方で、このような人為ミスがときどき発生することをオートマチック車に乗る人は忘れてはならない。と結論づけている。

しかし、この事故例では、Aさんはそもそも、駐車場出入り口付近を通行人や自転車が通ることを予測できておらず、突如発見した自転車に驚いたことが引き金となり、とっさにブレーキ操作を行ったが、実はアクセルペダルを踏んでいたということになる。また、事故から学ぶことの項目では、ATのためと断定されているが、MTでも起こりえると考えた方が妥当ではないだろうか?

ここではやや乱暴な結論付けが行われているが、ペダルの踏み間違いによる事故が発生しているのは圧倒的に低速走行、あるいは発進、停止時、後進時であることに注目したい。稀に中速域、あるいはそれ以上の速度で走行中にブレーキペダルを踏んで減速すべきところを、アクセルを踏んでしまったという事例もあるようだが、これは極端にスキルの低いドライバーであったり、パニック反応が極端なドライバーといえるだろう。

低速走行、あるいは発進、停止時、後進時といったケースでは、その時に必要とされるブレーキ踏力は弱い。イメージ的には、ブレーキペダルに足を載せ、軽く踏み込むといったレベルである。また同様な走行シーンでアクセルペダルを踏む場合も、微速前進というイメージで軽くアクセルペダルに足を載せるといったレベルである。

そして、踏み間違いが生じて、ブレーキペダルのつもりでアクセルペダルを踏んでしまった場合、減速するはずが、逆に緩加速をする。この段階で操作間違いを認識できれば修正操作が可能である。しかし、ドライバーの意志に反して緩加速をした状態で操作間違いが認識できず、ペダルの踏み込み力が弱いものと錯誤してさらに踏み込み、暴走事故となる。なおペダルの踏み間違いは前述の事例からも想像できるように、AT車に集中しているのは確かだが、ATだからとは断定できずMT車でも発生することは理解しておきたい。

踏み間違いは認知錯誤なのか?

研究機関では、このようなペダルの操作間違いは「認知」錯誤とされることが多い。しかし、実際にはペダル操作は「反射」操作と考えるべきだと思う。認知は、状況判断→減速または加速の意志決定→減速であればブレーキペダルを踏む意志を持つ→右足をブレーキペダルの位置で踏み込む、といった頭脳で意識したうえでの肉体的な操作を意味するが、反射の場合、意志決定以降は無意識の習慣付けられた操作を意味する。

つまり右足で踏む、ブレーキペダルはアクセルペダルより左側にある・・・…、といった思考回路ではなく、減速、あるいは加速といった意志に対して反射的に右足を操作している。右カーブだから、ステアリングは右方向に回すべき、といった思考回路を経て右にステアリングを切るのではないのと同様ではないだろうか。したがって、踏み間違いを犯しにくいペダル配置、また、デザインは心理学や反射行動分析、触感など多角的なアプローチが必要となってくるだろう。

日常的に運転しているドライバーであれば、極低速や高速道路の巡航状態、つまりアクセルもブレーキも緩やかに操作する状態では、右足の踵はアクセルペダルとブレーキペダルの中間、あるいはブレーキペダルの下側に置かれている。ブレーキを軽く踏む場合はそのまま踵を支点に踏み込み、また、アクセルペダルを踏む場合は右足の踵を床につけたまま、外側に倒すように動かす。つまり右足裏の上半分でアクセルペダルを踏むイメージである。もちろんこれは今日の車両での話で、過去にはバスのように床面から突き出しているペダルもあり、この場合は踵を床に置く操作は不可能である。

より強くアクセルペダルを踏み込む場合は、右足の指の付け根あたりに力を入れるような操作であり、逆に、より強いブレーキが求められた場合は、踵を浮かせ膝全体で力を加えることになる。最も強力な緊急ブレーキではさらに腰全体を少し浮かせぎみにして体重を右足にかける。

これに対しスキルの低いドライバーは、右足全体がアクセルペダルとブレーキペダル間を移動して、踏み換えている可能性が高い。この場合は、踏み換え幅が一定しない、着座位置がずれる、などの理由からペダルを踏み損ねることが考えられるのだ。

ドラポジも踏み間違いに影響する

自身が正しいペダル操作をしているかのチェックポイントは、後進を想定し、ステアリングに手を添えたまま上半身を内側に大きくねじり、リヤウインドウ越しに後方を見るという姿勢で右足を大きく動かすことなく、ブレーキ、アクセルいずれも自由に操作できるかどうかである。

ドライビングポジションの基本の最初はシートの前後スライドを調整し、ペダルの踏み込み操作の確認と右足を置く位置の確認、2番目がステアリングのリーチ調整である。こうした基本事項も調整することは教えられても、その意味するところが教えられていないという現実も問題といえば問題である。

ブレーキペダルとアクセルペダルは、ペダルの形状も、高さも、踏んだときの感触も異なっている。ペダルを踏む場合は、目で見てペダルを判別しているわけではなく、足の位置やタッチで判別している。ちなみにMT車でもアクセルペダルとブレーキペダルは、かなり段差を付けるのが普通で、いわゆるヒール&トー操作はやりにくい配置にしてある。

シートに腰を下ろし、足をペダルスペースにまっすぐに伸ばすと、右足のやや右側の低い位置にアクセルペダルがあり、体の中央にブレーキペダル、そして左足のやや左側にフットレストがある。だから、ドライバーの走行中の運転姿勢は、やや両足を開き気味にし、左足はフットレスト、右足はアクセルペダルに置くことになる。

減速時は、まずアクセルペダルを離す。さらに減速する場合はブレーキペダルに踏み変える。このように踏み変えた時に、ブレーキペダルを踏み間違えて、アクセルペダルを踏み込むということは右足の移動がないということで、通常の走行中では考えにくい。

仮説だが、発進や停止時にペダルの踏み間違いが起きる可能性として大きいのは、シートへの着座姿勢が極端に悪い場合が考えられる。シートに対して体が極端に内側向き、あるいは外側向きにズレて座っていると仮定すると、右足を延ばした先にあるペダルの配置が適正ではなくなり、誤ったペダルを踏みやすいことになる。

いわゆる腰がしっかりとシートの奥に座っていない、浅掛け、左右方向の体の向きのずれがある場合は、足を不自然に開く形になりペダルの踏み間違いの可能性が通常より大きくなるはずだ。蛇足だが、左足ブレーキが正当な踏み方ではないという点も改めて強調しておきたい。

危険が直前に迫って緊急的な強いブレーキをかけると、強い減速Gが発生する。またコーナリング中の強いブレーキの場合は、横Gと減速Gの両方が発生する。このような場合に、ドライバーが体を支えるために左足で踏ん張り、上体をシートバックに押し付けることでドライバーの上体は安定する。右足はアクセルペダルかブレーキペダル以外に置き場所がほとんどないので踏ん張ることはできないわけだ。AT車、2ペダル車でブレーキペダルが大きな形状になっているのは、左足でもブレーキ操作ができるという意味にすぎず、常用するためではないのだ。

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↑スカイラインGT (左)マツダ・ベリーサ

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↑VW ポロ (左)VWゴルフ6

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↑BMW5シリーズ (左)メルセデスベンツEクラス

間違えても事故につながらない工夫を

なお技術的には、反射行動であるペダルの踏み間違い(誤操作)を防ぐということはきわめて難しいため、今後は踏み間違えても事故を抑制する技術が中心になるだろう。その意味で、スバル・レガシィのアイサイト2に含まれている「AT誤発進抑制制御」や前後に障害物を検知した場合に、アクセルを踏み続けても自動ブレーキがかかるのはひとつの方向を示している。

レガシィのアイサイト2に含まれている「AT誤発進抑制制御」は前方に障害物が検知された状態で、停止あるいは徐行状態のとき急なアクセル操作をした場合は、警報すると同時にエンジン出力を抑制するというものだ。障害物センサー(スバルの場合はステレオカメラ)は前方を指向しているため、後進では作動しないのだが。

また、この技術は、停止あるいは徐行状態での、ブレーキを踏み込む速度でアクセルペダルが踏み込まれると、つまり、アクセル開度の速度を判定基準していると思われ、障害物が検知されていなくてもアクセルペダルをブレーキのように踏むと、出力は抑えられ駐車場のクルマ止めを乗り越えないレベルに抑制されている。

現在、各自動車メーカーには高い汎用性と簡潔さを備えた、フェールセーフ・ブレーキシステムの開発が求められている。

文:編集部 松本晴比古

参考資料:日本学術会議総合工学委員会・機械工学委員会合同工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会 事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会での審議結果を、同分科会において取りまとめた 提言 「交通事故ゼロの社会を目指して」。(財)日本交通安全教育普及協会

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