ロングドレインオイルの実力

雑誌に載らない話vol3
前回はオイルのロングドレインについて書いたが、今回はそのオイルの性能について書いてみたい。まず、ゴルフ5やアウディA4の指定オイルは5W-30になっているが、市販の5W-30のオイルでは、メーカーが指定した規格をクリアしていないオイルもある、ということから書いてみたい。

よく知られているように、5Wは気温が低い時の性能に影響し、数字が小さいほど低温度に強い。つまりサラサラしている。一方の30という数字は油温が高温時のときの粘度で、数字が大きいほど熱さに強い。低粘度オイルはサラサラしているので、始動性が良く、抵抗も小さいから燃費が良くなり、反対に高粘度では、油膜が厚くなるので密封性が高まり、静粛性がよくなるという相反性をもっている。

ここで欧州車のオイルに求められている性能といえば、高粘度の特性をもって連続高速運転に耐え、低粘度の特性をもって省燃費につながる性能も持っていなければいけない、という相反性能が要求されていることがわかる。

一般的に粘度を示す5W-30は、高温時の30の数値を決定する場合の、高温せん断粘度と動粘度の基準値がAPIやACEAの基準値より、VWアウディグループの基準のほうが厳しいために、同じ5W-30の表示であっても、アウディの基準をクリアできないものがあるのだ。

例えば5W-30で試験規定温度のときにオイル油膜の状態を測る測定値があり、それを高温せん断粘度(HTHS)と呼ぶ。その数値が2・9cP(センチポアーズ)が一般的な規格だが、VWアウディグループでは3・5cP以上の性能要求があるという具合。

これはある試験温度でオイルを攪拌し、その後粘度がどの程度維持されているかのテストで、数値が大きいほど粘度が高い。オイルの分子構造は温度が上がると分断され粘度低下が生じる。この高温時に粘度がどこまで保てるかを調べ、5W-30の性能が維持されているかを測定しているのだ。

つまり同じ表示でも市販の5W-30はHTHSが2・9cPであるのに対し、VWアウディ規格の5W-30は3・5cPなのである。だから、同じ5W-30であっても高温時の粘度が足りておらず、高速連続運転には向かないのである。アウディやゴルフなどには純正のオイル以外は使わないほうが賢明ということだ。

さらにVWグループ以外でもBMW、メルセデスベンツにも同様のメーカーオリジナル規格があるので、純正オイル以外を使うときは、細かな性能のチェックが必要だと考えたほうがいい。ちなみに、BMWの純正オイルはVWと同じくカストロール製で、ベンツはフックス(FUCHS)製だ。

<オイルの成分について>

これらの高性能規格のオイルはフルシンセティック・オイルである。オイルには、そのベース油である基油には精製過程で化学反応によって作られたシンセティック・オイル(化学合成)と、同じ精製過程で重質分を精製した鉱物オイル、そしてその中間が部分合成オイルの3種類の基油がある。

フルシンセティック・オイルというとレースでよく使われるエステル系を思い浮かべるが、カストロールの場合、ポリアルファオレン系のオイルである。その特徴は粘度指数が高く、粘度幅が安定しているという特徴がる。また、フックスは2種類のエステル系基油をベースに精製されている。そしてこの基油に添加剤が加えられ化学合成オイルが誕生する。

基油に加えられる主な添加剤には、潤滑作用を高めるもの、密封作用を高めるもの、冷却作用を高めるもの、洗浄(自浄)作用を高めるもの、防錆作用を高めるものなどがあり、その配合、調合具合でオイルの性格が決定されていくのだ。ここにロングドレイン使用できる性能を作るための秘密があり、各社の研究機関から生まれてきているのだ。

特にロングドレインとする場合、自浄作用が高くなければならない。オイルは高温になれば酸化は必ず起こり、分子レベルでの物質変化により不純物も生まれる。だから劣化が緩やかになるように、不純物を消化できるような性能を持っていることが求められている。

欧州車の常識として、オイルは減るもの、というのがある。前述しているが、エンジン内部のクリアランスを取ることで潤滑性・冷却性をあげているため、オイルが燃焼してしまう量は国産車と比較して、多いというのが常識だ。だから、ロングドレインオイルは注ぎ足しながら達成するという使い方になる。

オイルの劣化が始まると頃合いを同じくして、オイル量が不足し、そこへ新しいオイル(同じオイルでなければならない)を注ぎ足す事で、オイルのリフレッシュが行われるというイメージでいい。ちなみに、前回も書いたが、オイルメーカーの試算によると、2.0L エンジンのゴルフGTIで3万kmを走行するとして、5000km走行ごとにオイルを交換した場合と補充した場合で、オイルの総使用量の差が最大で20L以上になるという(使用状況によって異なる。あくまでも試算)。だから化石燃料の消費において、貢献できるということになるのだ。

ところで、このロングドレイン化で気になるのは、古いモデルに乗っている場合どのオイルを使えばいいのかというのが気になる。たとえばVW504はゴルフ5の登場時期と前後して開発されたが(2004年)、その後、ゴルフ?の指定オイル、VW503シリーズは消滅している。このことをオイルメーカーに確認してみると、いわゆる下位互換性があり、504はすべてのVW車に使えると説明している。
文:高橋アキラ

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