ロシア侵攻による自動車業界へのインパクト

2022年2月24日、ロシアはウクライナへ侵攻を開始した。この侵攻作戦はウクライナ北部、東部、南部という3方向から開始され、ウクライナの広い地域が戦場化している。このロシアによるウクライナ侵攻に対して、アメリカ、EU諸国を筆頭に次々にロシアに対する経済制裁を発動した。経済制裁は、金融制裁から始まり、多様な制裁が現在も進行中だ。

ヨーロッパ・メーカーの対応

軍事作戦とそれに連動した経済制裁により、自動車業界でも様々な影響が出始めている。フォルクスワーゲン・グループは3月3日、「ロシアのウクライナ攻撃とその結果を背景に、フォルクスワーゲン・グループ経営委員会は、追って通知があるまでロシアでの車両生産を停止することを決定しました。この決定は、カルーガとニジニ・ノヴゴロドにあるロシアの生産拠点に適用されます。また、ロシアへの車両輸出も即座に停止されます。
ロシアにおける事業活動の大幅な中断に伴い、経営委員会は、この大きな不確実性と激変の時期に、全体的な状況からの影響を検討しているところです」と声明を発表した。

周知のように、ドイツ企業とロシアとの経済的な関係は濃厚で、フォルクスワーゲン・グループに限らずドイツ車のロシアにおける販売台数は大きく、販売停止、出荷停止によるダメージは無視できない規模だ。

BMWグループもロシア国内での製造中止と輸出を停止するとしている。BMWは2021年ロシアで4万9000台を販売しており、アウトトールとの合弁工場で現地生産と輸出を行なってきた。

それに加えて、フォルクスワーゲン・グループ、BMWグループは、ウクライナのサプライヤーからの電装ワイヤーハーネスの供給が停止した結果、生産も一時停止に追い込まれている。ドイツ資本のワイヤーハーネスメーカーのLeoni社はウクライナ西部の2工場でワイヤーハーネスを生産し、フォルクスワーゲン、BMWに供給しているが、この出荷が停止したのだ。

Leoni社は他の工場での生産に切り替えるとしているが、当然時間を要する。もちろんフォルクスワーゲン、BMWもサプライヤーは複数社と契約しており、他社製品への代替も行われると予想される。

その一方で、ルノー・グループはロシアで乗用車シェアの45%を持つアフトワズを傘下に納めており、ルノー・グループの2021年の収益の23%がロシア市場から得ており、ロシア市場への依存度は極めて高い。ただし、ルノーのロシア市場への依存はフランス政府のバックアップによりスタートした経緯があり、市場依存度が高いなどの理由で、ルノー・グループは現時点で沈黙を貫いている。

アメリカのメーカーでは、フォードはロシアの合弁会社ソラーズでの事業を停止すると発表した。今後は撤退する方向に進むと考えられるが、事業規模としては大きくないので、撤退も容易と見られる。

日本メーカーの状況

トヨタは3月3日、2月24日からウクライナにおけるすべての事業活動(販売・サービス拠点数:37拠点)を停止した。またロシアでは部品の供給問題により、3月4日から当分の間サンクトペテルブルク工場での生産、完成車の輸入業務を停止している。ロシアでの販売拠点数は168拠点で、サンクトペテルブルク工場ではロシア市場向けRAV4とカムリを生産していたが、トヨタの場合はロシア市場への依存度は高くないので、業績への影響は限定的と見られる。

日産自動車は、ロシアに対する輸出を停止した。ルノーと連携してサンクトペテルブルク工場での現地生産は稼働が続いているが、現在の状況が長期化した場合には、生産停止に至る事も考えられる。

日産のサンクトペテルブルク工場

販売も好調で、現地生産も行なっている三菱自動車も、ロシアに対する経済制裁強化により、同国での生産・販売ができなくなる可能性がある。同社は部品供給が止まる可能性は低いものの、部品供給が滞るなどサプライチェーン上の影響が出る恐れがある。

三菱の生産拠点は、モスクワ南西に位置するカルーガのステランティスとの合弁工場だ。この工場で、ロシア市場向けのSUVの「パジェロスポーツ」や「アウトランダー」を生産している。2021年は約2万強を生産しており、販売台数はロシアで約2万800台、ウクライナで約4000台だ。

三菱・ステランティスと合弁のカルガリ工場

ホンダは3月2日、ロシアへの自動車や2輪車の輸出を停止していることを明らかにした。物流の混乱や、ロシアへの経済制裁により決済などに支障が出る可能性を考慮したものだが、現在販売している乗用車は「CR-V」のみだ。ただ、ロシアでの乗用車販売台数は少ないので、業績の影響はないといえる。

マツダもロシアの合弁工場向けの部品輸出を停止した。ただ、マツダはロシアへの完成車は輸出していない。

マツダはロシア極東地方のウラジオストク市で現地メーカーのソラーズ社との合弁工場でノックダウン生産を行なっている。この工場ではCX-5、CX-9、マツダ6を生産しており、ロシア市場では一定のシェアを持っているので、生産に問題が生じれば販売面では厳しい状態になる。

この他ではスズキも日本の工場からの2輪車、4輪車の輸出を停止している。

現在、世界的に半導体の供給不足が続いており、グローバル規模で自動車メーカーは20%前後の生産の縮小が生じており、年間の生産台数の計画に狂いが生じている。それに加えて、今回のロシアによるウクライナ侵攻により、ロシア市場へ依存している自動車メーカーはさらなる打撃を受けることになる。

今回の侵攻がいつ収束するのか、経済制裁の行方がどうなるのか、誰にも見通せないため、自動車メーカーにとっても不安が拡大している。

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