マニアック評価vol533
ルノー製品のスポーティグレードにポジションする「ルノースポール」ブランドには、さまざまなモデル、グレードが存在する。2017年7月6日発売された「ルーテシア ルノースポール シャシーカップ」もそのひとつだ。ルーテシア ルノースポールのマイナーチェンジに伴い、このシャシーカップに試乗できたので、詳細をお伝えしよう。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
少しややこしいので、ヒエラルキーの確認をすると、ルノーのBセグメントにポジションするルーテシア(現地名:クリオ)には、エントリーグレードのゼンと上級グレードのインテンスがある。それらとは別に、ルノーのモータースポーツで数々の経験と勝利を刻んできたのがルノースポールというレーシングコンストラクターが存在する。そのなかで得た知見を市販車にフィードバックしているのが「R.S.=ルノースポール」とネーミングされているモデルだ。
そのR.S.にもグレードがあり、ルーテシアR.S.にはエントリーグレードが「シャシースポール」、トップグレードに「トロフィー」があり、今回その中間グレードとして「シャシーカップ」が復活したのだ。このR.S.とネーミングされたモデルは、エントリー、中間、トップグレードとヒエラルキーがあるものの、前述のように、標準モデルとは異なるスポーティモデルなので、ベース車といえども高性能モデルというわけだ。
従ってライバルとなるのは、ポロGTIやプジョー208GTIなどで、いずれもスポーティモデルたちになる。またルーテシアR.S.シャシースポールは今回のマイナーチェンジで価格を大幅に下げ、23万9000円ダウンの284万円になった。つまり各社のGTグレードにぶつけることができるわけだ。このあたり、かなり戦略的な価格設定だ。
そして今回復活したシャシーカップが、従来のシャシースポールのポジションに入り、価格も同じ309万円。そしてトップグレードのトロフィーが5000円下がり329万円という価格設定をした。こうしてみると、シャシースポールが従来の性能のまま、大幅なプライスダウンをしており、ライバルメーカーのシェアに飛び込ませる戦略なのがよくわかる。
さて、今回のマイナーチェンジはこのルーテシアR.S.に対して行なわれ、主な変更点はフルLEDヘッドランプ、R.S.ビジョン(LEDランプ系)、リヤLEDランプ、新デザインフロントバンパー、ホイールデザイン(シャシーカップ、トロフィー)、シート表皮が変更され、シャシースポールのみアプリ対応ラジオとなった。詳細はこちらへ
いわゆるハードな部分での変更はないが、基本スペックを確認しておきたい。搭載するエンジンは1.6Lの直噴ターボエンジンに6速EDC(ツインクラッチ)。シャシー関連ではベースのスポールが標準車のルーテシアより、サスペンション、スタビライザーを強化したモデルで、そのスポールに対しシャシーカップはフロント・サスペンションが27%、リヤが20%固められている。また、サスペンション高も-3mmダウンしている。トップグレードのトロフィーはシャシースポールに対して、さらにフロントが-20mm、リヤ-10mmダウンさせている。減衰に関してはシャシーカップと同等のセッティングだ。
また、フロント・サスペンションには全モデルに共通のHCC(ハイドロリック コンプレッション コントロール)ダンパーが装着されている。これは、ダンパーが底付きをしたときに、通常はバンプラバーに当たるが、このHCCにより、もう30mm縮むことができ、最後の最後までトラクションを掛けられるというメリットを持っている。構造的にはダンパーインダンパーをイメージすると分かりやすい。こうした技術はルノースポールのラリーから得た知見ということで、発売当時、量産車に搭載するのは初めての技術ということだ。
出力はシャシースポールとシャシーカップは同等で200ps/240Nm、トロフィーが220ps/260Nmというスペックで、トロフィーのゼロヨン加速は14.6秒、最高速度235km/hだ。
■ルノーのシャシー技術
走行性能関連ではR.S.デフと命名しているコーナリング制御技術がある。特にデファレンシャルギヤを制御しているわけではなく、いわゆるコーナリングブレーキ機能で、デフ効果をもたらすものだ。4輪タイヤの回転差などを常に監視し、駆動輪の前輪左右間に大きな速度差、つまりトラクションが減ってきていることを検知すると、グリップを失いかけている駆動輪にブレーキをかけ、グリップを復活させる。その際、エンジン出力は絞らず、そしてESCが作動する前にこの制御が働くことになっている。
もちろん、R.S.モードというドライブモードも用意されている。ノーマル、スポーツ、レースという3種類で、レースモードがあるあたりがルノースポールらしい部分でもある。つまり、ESCは完全解除されドライバーコントロールにゆだねられるのだ。
6速EDCのシフトスピードもモードで変化する。もともとがツインクラッチであるため、ノーマルでも0.2秒でシフトされるスポーティさがある。これをスポーツモードにすると0.17秒へと変化し、レースモードではさらに短く0.15秒でシフトするように変化する。
もちろん、シフト速度だけでなく、ESCの介入タイミングの変化やアクセルレスポンス、パワーステアリングのアシスト量の変化なども同時に行なわれる。また、マルチシフトダウン機能もあり、左のパドルシフトを引きっぱなしにしてコーナーへ進入すると、自動でシフトダウンする機能もあるが、こちらは一般道ではなかなか体験できない。サーキットなど限定的な場面では有効な機能だ。
今回のマイナーチェンジで外観で目を惹くのは、R.S.ビジョンというフォグランプ類のデザインが変更され、目立っている。チェッカーフラッグをモチーフにしたデザインには、フォグランプ、コーナリングランプ、デーライトを兼ねたポジションランプ、そしてヘッドライトとは別のハイビーム機能をもったランプだ。こういった装備もナイトラリーなどからの経験を生かした装備なのだろう。
■感性性能の高さに満足
さて、試乗はいつもの箱根のワインディングだ。これら走りを愉しむための装備、車両の味付けのされたルノースポールだが、試乗車はシャシーカップ。中間グレードのスポーティモデルだ。
Bセグメントは総じてアップライトなシートポジションになるモデルが多い。そうした中では低めにポジションが取れるので、スポーツマインドを相当意識していることを感じる。シートもセミバケットタイプのデザインで、ホールド性もよく、すべてが気持ちよく走るために考えられていると感じる。
ドライブモードはノーマルで走り出してみる。ステアリングの操舵感や乗り心地、エンジンサウンドなど、日常使いできる使用感で、実用性もある一面を感じる。ステアリングの直進の座りやボディ剛性の高さからくる安心感は、なんとも心地よく違和感を感じされるものなど一切ない。
スポーツモードを選択して速度を上げてワインディングを走ると、エンジンサウンドが良く聞こえるようになる。パドルシフトを操り、ブレーキ、ステア、アクセルオンと手順を踏むと、スポーティさにわくわくしてくる。
手応えのあるステアフィール、程よく引き締まったサスペンション、ロールをあまり感じさせずヨーモーメントは明瞭な重力感性、加速感、減速感、そしてサウンド、視界のよいドラポジなど、どれをとっても感性に訴えかけてくるものがあり、こうした感性性能の高さを味わうことができる。
まさに、運転していて気持ちいい、楽しいと素直に感じさせ、運転好きにとっては満足度の高いモデルだ。