今、話題のトヨタのクロスオーバー「C-HR」の試乗レポートは、モータージャーナリストの藤島知子さんです。C-HRハイブリッドモデルを市街地で、ワインディングで、そして高速道路で試乗し、トータル500km以上のドライブをして分かったことをレポートしてもらいました。
「いいクルマをつくろう」
豊田章男社長の言葉にあるように、大きな変革期を迎えているトヨタ。2016年に登場した4代目プリウスで話題になったのは、トヨタの今後のクルマの基本骨格となり、もの作りのベースとなるTNGA(Toyota New Global Architecture)の取り組みがスタートしたこと。
軽量・高剛性な新プラットフォームは走りの基本性能のレベルアップに貢献したほか、環境車でありながら乗り手の感性に響く「走りの質感」の領域までも飛躍的に高めてきました。
そこで気になるモデルがTNGAの第2弾としてリリースされたコンパクトクロスオーバーSUVの「C-HR」。このカテゴリーは欧州市場を中心に人気を呼んでいるもので、多様化するコンパクトカーのニーズを捉えるべく、トヨタが勝負を挑むモデルとなります。今回はC-HRが日常ドライブや長距離移動でどのように向き合えるモデルなのか、その実力を確かめてみたいと思います。
■立体駐車場に収まるC-HRハイブリッド
まずはデザイン。地上高を高めたSUVルックのC-HRはクーペ的な要素を融合したスタイリングが特徴です。試乗車のラディアントグリーンメタリックのように、ビビッドなボディカラーも用意されていて存在感は抜群。絞り込んだフォルムはルーフの後端にスポイラーが装着されていて、スポーツカーさながらのスタイリング。一見すると2枚ドアに見えるけど、実は後席用のドアが設けられていて、乗り降りがしやすいみたい。見た目は個性的だけど、ユーザーフレンドリーな設計にトヨタ流の優しさが感じられたりして。
今回の試乗車は1.8Lエンジンにモーターを組み合わせた「G」のハイブリッドモデル。前輪駆動でルーフの高さは1550mm。機械式駐車場に収まるサイズであることは都市部で動き回る場合に重宝しそう。
気になる荷室の使い勝手はハイブリッド車でもガソリンエンジン車とほぼ同じ。フロアは少し高めだけど、大きな荷物を積む時は分割可倒式の後席をアレンジすれば、臨機応変に使いこなせます。
キーを受け取って、先ずは運転席へ。上級モデルの「G」は上級ファブリック素材にキルティング風のステッチを設け、サイドサポートに本革をあしらったコンビネーションシートを採用。ブラック×ブラウンの内装色はダッシュパネルにあしらわれたピアノブラック調のパネルや艶を抑えたシルバーの加飾パーツとのコーディネートで、大人に似合う上質な雰囲気を醸し出しています。
運転席は座った瞬間から腰回りを丸く受けとめてくれる感触で、身体の収まりがいい感じ。上体を委ねると肩甲骨を支えてくれて、自然な姿勢でハンドルに手が添えやすくなっています。思わずウットリしてしまったのがナッパレザーをあしらったハンドル。滑らかな手触りはまるで高級車のよう。
後席は絞り込まれた外観から想像していた以上に身体周りにゆとりが与えられていて、ヒザ周りの広さは大人が座っても充分なスペース。後席のドアパネルは乗員を深く覆うぶん、開放的ではないものの、クルマの外から覗き込まれない落ち着く空間といえるのかも。
■アイポイントの高さが生み出す安心感
さっそく、自宅近くの住宅地と一般道で走りをチェック。ハイブリッドのバッテリーが一定以上に満たされていると、ソロソロと静かで滑らかにモーターのみで走り出します。やがてエンジンが始動すると、エンジンとモーターの連携はごく自然なもので、違和感は全く感じさせないレベル。
肌寒い朝は温度調節機能付きのシートヒーターを使えば、ヒーターよりも早く身体を温めてくれます。それにしても、タイヤが転がり出した瞬間から感じる「いいモノ感」は一体何なのだろう。神経を研ぎ澄ませてみると、タイヤが滑らかに路面を捉えて安定した姿勢で走れること、手のひらに伝わる操舵フィール、クルマの動きが手に取るように分かることが心地よく感じさせてくれるみたい。
街乗りの速度域でも手足のように扱えるから、車体の大きさが気になりにくい。死角が多い住宅地のカーブに差し掛かると、アイポイントが高いことで、高さ1m強のフェンスの上からカーブの先にいる対向車や歩行者の状況が見渡せることに気がつく。いつもは背が低いハッチバックに乗っていることもあって、先が見えるとこんなに安心できるのかというのは意外な発見でした。
さらに、マンホールやコンビニの駐車場入口の段差では、ギャップを丁寧に乗り越えていく感触。車体が不意に揺すられたりすることが少ないから、安心してハンドルを握っていられます。
また、交通量が多い都市部は右から左からと割り込んでくるクルマが複雑に交差して緊張感が高まる環境。そんなとき、C-HRは安心してドライブできる秘密兵器「トヨタ セーフティセンスP」が標準装備されています。単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた予防安全システムは前走車や歩行者に衝突しそうになった時に警報や自動ブレーキで衝突被害を軽減する機能を備えているほか、居眠り運転などで起こる事故の予防に効果が得られる「レーンデパーチャーアラート」なども付いてくる。
さらに、車線変更をする際に有効なのが「ブラインドスポットモニター」。斜め後方の死角にクルマが隠れている場合、ドアミラーに警告灯を点灯させて、ドライバーに注意喚起をしてくれます。ドライバーのうっかりミスをフォローする予防安全機能の数々は、運転に不慣れなドライバーだけでなく、ベテランにとっても安心の装備といえるでしょう。
ただ、ちょっと残念に思えたのは、プリウスPHVに設定されている「インテリジェントクリアランスソナー(巻き込み警報機能付き)」が設定されていないこと。この機能は前進・後退時に壁や建物などに衝突する危険がある場合など、衝突被害の軽減効果が見込めるもの。C-HRは車両価格のわりに初期段階から作り込んできたクルマであることは分かるけど、他車種が持ち合わせている技術で救われる事故があると考えれば、今後の展開に期待したいところ。
■非日常の開放感あるロングドライブで
次に、郊外に出掛けるシーンを想定して、伊豆半島にロングドライブに出掛けてみることに。高速道路の料金所を潜って本線に合流。アクセルペダルを踏み込むと、エンジンのパワーにモーターのアシストが加わって、ラクに車速を上げていけます。
必要な速度に達してアクセルを緩めると、時折エンジンを停止しながらそのまま巡航。減速エネルギーはバッテリーに回収して再利用する仕組みなので、実用燃費にも効果がありそう。欲を言えばエンジンは高回転でもう少し伸びを感じさせてくれたら気持ちが良さそうだけど、加速力が必要な回転域ではクルマを押し出す頼もしさを発揮するので、フラストレーションは少ないのかも。エンジン回転の伸びを期待するなら、エンジンのみで走るモデルがオススメです。
不快な揺れを感じさせない走行フィールは同乗者にも優しくて、長距離移動のストレスが少ないみたい。もちろん、ドライバーがリラックスしてクルマを走らせることができれば、目的地に向かう道のりで友達や家族との会話が弾んで、楽しい思い出として記憶に刻まれていくはず。快適なのに運転が楽しくて、おまけにハイブリッドモデルなら低燃費も期待できるというオマケ付き。
帰途について、この日のドライブで走った距離は231.6km。平均燃費は20.1km/L。ワインディングの走りを思う存分満喫した割には優秀な数字といえそう。
日常から遠出までを共に過ごしたC-HR。乗り手の個性を際立たせるスタイリングもさることながら、必要充分な居住スペースと荷室の実用性を備えながらも、運転する喜びを満喫させてくれるモデルに仕上がっていました。「若者のクルマ離れ」と言われて久しい世の中ではありますが、C-HRはクルマが単なる移動手段ではなく、現実的なスポーツカーとして楽しめるだけの懐の深さを備えたクルマ。様々な切り口でこのクルマを選んだとしても、「一人でも多くのユーザーがドライブすることの喜びに目覚めてくれたらいいなぁ」と期待感を高めてくれたのでした。
■グレードと価格
併せて読みたい関連記事
C-HR開発者インタビューはこちら
トヨタのハイブリッド車1000万台突破
FMヨコハマ「ザ・モーターウィークリー」のC-HR特集
■C-HRでニュル24時間レース出場の佐藤久実氏が語る
■古場主査出演ラジオ番組「ザ・モーターウィークリーでC-HRを熱く語る」
■DJ藤本えみりの「有頂天レポート・エコカーカップにC-HRで出場しちゃいました」