世界累計販売が1500万台超と、今やトヨタの基幹車種の1台に成長したたカムリが、2011年9月5日に日本国内でも9世代目に突入した。今回最大のニュースはご承知のように、国内向けモデルがハイブリッド車オンリーになったこと。しかも新開発されたエンジンとの初めてのコンビネーションでの登場だ。今回は売れてるクルマの底力と、ブランド&セダン復権に向けての意気込みを感じさせてくれる試乗となった。
初代セリカ・カムリの登場は1980年。当時を知るファンなら、きっと忘れられないキャッチコピーが「男30、GTアゲイン」。2ドアのセリカは難しくても、同じメカニズムを積む4ドアのカムリなら、結婚して子供ができても…というニュアンスだったと記憶している。しかしながら、わずか2年後の1982年にFFとなったカムリは、ファミリー向けのアッパーミドルセダンへと変身して今日に至っている。
国内1%未満は衝撃。先代にHVありは初耳!
このカムリが一番売れている国は、もちろんアメリカだ。ホンダのアコードやフォードのトーラスといったライバルの追撃をかわして、2002年から9年連続のベストセラーに輝いている。直近のデータではその北米で52%、中国で22%、中近東で11%、アジア6%、オーストラリア5%、ロシア3%…というシェアを足し算すれば明白だが、日本市場向けは残る1%以内に収まってしまうという、驚きの状況なのだ。
そのカムリのラインアップに、実は先代から北米や中国市場向けにはハイブリッド車が存在していた。国内現行モデルのSAIやレクサスHS250hと同様に、2.4Lの2AZ-FXEエンジンを中心に据えたハイブリッドシステムを搭載。しかしながら価格面でのハンディもあって、北米市場でのシェアは1割未満にとどまり、ハイブリッドが浸透していなかった中国市場ではほとんど売れなかったというのが真相のようだ。
しかし、時代は変わった。フォードのフュージョンやヒュンダイのソナタなど、欧州で言うDセグメントのこのクラスにもハイブリッド化の波は確実に押し寄せてきている。トヨタとしてはハイブリッド車のフロントランナーとして、またベストセラーの座を維持していくためにも、今度のカムリはハイブリッド車として成功を収める必要に迫られた。だからこそ、1%に満たない小さなマーケットでも、ハイブリッドでは世界でもっとも先進的な日本市場に最初に投入してきたのだろう。逆に8月から新型に切り替わった北米向けには、当面の間はガソリン車のみとのことだった。
国内初登場の2AR系エンジンとの組み合わせ
新型カムリのハイブリッドシステムはリダクション機構付きのTHSII。基本的にはSAIやレクサスHS250hの延長線上にあるものだが、搭載されるエンジンは排気量2362ccの2AZ-FXEではなく、新開発された2493ccの2AR-FXEに換装された。これによりエンジンの最高出力は160ps、最大トルクは21.7kgmと、SAIを10psと2.6kgm上回るスペックを獲得。3.0Lクラスのガソリンエンジン車に匹敵する動力性能を発揮しながら、その余裕を燃費にもフィードバック。10・15モードが26.5km/L、JC08モードで23.4km/Lというデータを実現。これはSAIと比べて10・15モードで3.5km/L、JC08モードで3.6km/Lも優れている。

実際に走らせての第一印象は、1500kgを超える重量級のセダンとは思えないほどの発進からのトルクの力強さだ。とくにノーマルモードにした場合の発進加速は思わず「鋭い!」と表現したくなるほどで、小気味よかった。エンジニアによると低速側のトルクを20%以上も向上させたとのことで、市街地での走行では常に余裕が感じられる仕上がりとなっていた。エコドライブモードにすると、当然ながらマージンは少なくなるが、流れに乗ってドライブする限りはまったく問題はない。
話は少し戻るが、ドアを開けてドライバーズシートに収まった時に、感じたことがふたつあった。ひとつめは「あれ、これってハイブリッドだったのか?」という、いい意味での普通っぽさ。もうひとつは、ドライビングポジションの自由度だ。まず前者は従来のカムリのオーナー層(ハイブリッド車に乗ったことのない人が圧倒的多数と推測される)に配慮したもので、ゲート式のシフトレバーや指先で直接タッチするトヨタ方式のタッチパネルなど、従来のオーソドックスなデザインやレイアウトを踏襲している。
後者はチルトステアリングの調整幅が10mm増えて40mmになり、運転席の高さ調整幅が15mm増えて60mmに拡大したメリットだが、とくにハイトアジャスターが秀逸だった。筆者は座高が100cm超とかなり突出して高いハンディを抱えており、シートの上下が調整できるクルマで下限以外にしたことは今まで一度もなかった。ところが新型カムリでは初めて、一番下では低すぎたために少しだけ上げるのがベストポジションだった。自分の体格が調整の範囲内に収まり、ささやかな幸せを感じたことを告白させていただく。このあたりは日本人より体格で勝る、アメリカで売れているクルマの副産物かもしれない。
静粛性は特筆レベル。タイヤとのマッチングには課題も…
再びクルマを走らせてのレポートに戻る。市街地から高速道路に乗り入れても、新型カムリのトルクフルな走りは変わらない。高回転まで回した時のエンジン音質が少し気になるくらいで、室内空間はきわめて静粛に保たれる。このあたりは2AR-FXEエンジンへのバランスシャフトの採用や、風切音を低減する高遮音性ウインドウシールドガラスをはじめとした対策が実った部分と言えるだろう。さらにダッシュパネルの防音処理やドア下のシール性能強化など、乗員に近い場所での地道な努力も効果的だと思われる。
乗り心地の面で唯一気になるのは、中低速域で路面の継ぎ目通過時に感じるショックだ。とくに試乗車のレザーパッケージでは強めに感じたことを製品企画の担当者に告げたところ、「ファブリックシートの方をお試しください」との回答を得た。確かにその通りで後日、別の機会に試乗したファブリックシートのGパッケージでは、ショックを拾った時の当たりがソフトに感じられたことをご報告しておく。なお標準車には1インチ小さい16インチのタイヤが装着されるが、そちらを試すチャンスは残念ながらなかった。いずれにしても、ある程度まで速度域が上がってしまえば乗り心地はフラットになり、快適と言えるレベルだ。

今回の試乗では市街地と都市高速までしか足を伸ばせず、操縦性に関してはその範囲でのチェックにとどまるが、とくに問題だと感じることはなかった。シャシーは基本的に先代をキャリーオーバーしているものの、サスペンションの取り付け剛性を高めたり、ショックアブソーバーの減衰力も上げて、動力性能の向上に対応させている。電動パワーステアリングも進化してリニアな操舵フィーリングだが、あえて注文を付けるなら「気持ち軽いかなぁ…」と思う局面もあった。なお、提携するラジオ番組の取材で箱根までテストドライブしてきたモータージャーナリストの津々見友彦氏によると、「ワインディングでの走りも合格。後はタイヤとのマッチングをもう少し煮詰められたら…」とのことだった。
圧倒的な室内の余裕。実用燃費にも手応えあり
新型カムリはホイールベースは先代と同じだが前席を7mm前方へ、後席を8mm後方へリセットしている。さらに後席膝元のスペースは、前席シートバックの薄型化も貢献して46mmも広がっている。元々広さが自慢のクルマだが、新型ではさらに余裕たっぷりとなった。今回は試乗会場がお台場のメガウェブだったため、SAIやプリウスなどと交互に乗り降りしながら比較してみたが、カムリのアドバンテージを実感できた。またトランクスペースもゴルフバッグ4個を収納可能な上、トヨタのハイブリッド車として初めてのトランクスルー機能を装備したことも便利だ。


最後に気になる実用燃費についてだが、短い試乗時間の中でもエコドライブモードにすると瞬間燃費計は20km/L台を表示。とくにエコドライブにこだわらず、渋滞にも巻き込まれたが15km/L台をマーク。前述の津々見友彦氏も特にエコにこだわらずに試乗した結果、東京都内からの箱根往復で16.8km/Lだったとのこと。この車格でこの燃費ならば、300万円台のプライスタグも決して高すぎるとは思わない。事実、発売1カ月で月間目標の13倍になる6500台のオーダーを受け、さらに11月末時点では1万1000台を超えたという。主査の米田啓一氏は、「マークIIからプリウスに流れたお客様がずいぶんいらっしゃるはずです。その中から特に子離れした層の方に、セダンに戻ってきていただければ本望なのです」と語った。世界のベストセラーの変身が、セダン復権の糸口となるかもしれない。

■カムリ“レザーパッケージ”主要諸元
●ディメンション:全長×全幅×全高=4825×1825×1470mm/ホイールベース=2775mm/車両重量=1550kg(※1) ●エンジン:2AR-FXE型/直列4気筒DOHC/排気量=2493cc/最高出力=118kW(160ps)/5700rpm/最大トルク=213Nm(21.7kgm)/4500rpm ●モーター:最高出力=105kW(143ps)/最大トルク=270Nm(27.5kgm) ●システム合計最高出力:151 kW(205ps) ●燃費性能:JC08=23.4km/L/10・15モード=26.5km/L ●トランスミッション:電気式無段変速機 ●サスペンション(前/後):ストラット/ストラット ●ブレーキ(前/後):Vディスク/ディスク ●タイヤサイズ(前/後)=215/55R17(※2) ●車両本体価格=380.0万円(※3)
※1:Gパッケージと標準車は1540kg。※2:標準車は215/60R16。※3:Gパッケージは317.0万円、標準車は304.0万円(いずれも消費税込み)
文:石田 徹/写真:本田正隆(編集部)