マニアック評価vol120
2012年5月にビッグマイナーチェンジが行われたスバルの新型レガシィでは、エンジンに2.0L水平対向4気筒の直噴ターボを搭載した「2.0GT DIT」が新たにラインアップに加わった。フィーリングはいかがなものか、早速、試乗レポートをお送りしよう。
フェイスリフトされたスバル・レガシィのドライビングシートにまずは腰かけてみた。すぐに気付いたのは、コクピットの操作系に手が加えられていることだ。電動式のパーキングブレーキスイッチがコンソールのシフトセレクトレバー手前に移動し、引き上げ式のサイドブレーキと同じ感覚で操作できるようになった。
さらにコンソール上にあった「SI-DRIVE」のセレクトダイヤルがステアリング上に移動。従来のレガシィよりも操作性が向上し、いちいち目視しなくともステアリングから手を離さずに感覚的に操作ができるようになった。使い勝手は格段に向上している。
人間工学にかなった人に優しいコクピット。ちょっとしたことのように思えるが、スーパーGTに参戦するドライバーの意見として、このような操作性向上の変更はよりドライビングに集中できるようにレースの世界では当たり前のように行われていることなのだ。
メーター類の視認性も良くなった。「S#、S、I」と3種類あるSI-DRIVEの制御モードは、メーターパネル上の速度計と回転計の中間にセットされた3.5インチのカラーディスプレーに、曲線グラフとともに表示される。SI-DRIVEのパワー曲線ともトルク曲線ともとれるグラフ表示が、それぞれのモードの体感フィールと一致しているところが面白い。
今回のレガシィの改良点で一番の注目したいのはドライブトレーンだ。2.0GT DITに搭載される直噴ターボ・ボクサーエンジンはフォレスターやインプレッサに搭載されているFB20ではない。基本的にはBRZに搭載されるユニットとも同じと考えてよいのだが、BRZはトヨタの技術によるポート噴射とダイレクト噴射の2段構えなのに対して、2.0GT DITは100%ダイレクト噴射(直噴)となっている。しかもターボチャージャーによって過給を行う。つまり流行りのダウンサイジングの考え方を取り入れたものと考えて良い。
ダウンサイジングとは、燃費をターゲットにしたエンジンの小排気量化だ。小排気量化によってエンジンを軽量コンパクト化でき、ピストンなど回転マスに関連するパーツを小型軽量化できることでフリクションを低減し燃費を稼ごうという考え方だ。小排気量化によって失われる低速トルクやパワーは過給機(ターボ)によって補う。
スバルの開発陣が通常のダウンサイジングでは満足していないことが走りだしてはっきりと感じられた。今回の2.0GT DITに搭載されるエンジンは世の中一般にいわれるダウンサイジングとは違っていたのだ。
まず高回転域での抜けるようなレスポンスがある。ふつう、ダウンサイジング過給機ユニットは中低速の厚みにターゲットを置く。しかし2.0GT DITの場合は高回転域で気持ちが良いのだ。そう、今はもう昔の笑い話となったあのドッカン大径ターボの持つ、盛り上がる過給感と抜けるような加速感を持っていた。これは今となっては新鮮で、レガシィでその味を出してきたことにスバルらしさを感じる。
では、低速域はどうなのか?心配はいらない。リニアトロニックとのコラボレーションが威力を発揮するのだ。
09年のモデルチェンジで新たに採用されたリニアトロニックCVT。これまでCVTの常識だった金属ベルトによる駆動をチェーン式にしたもの。そのメリットは巻き掛け径といって、プーリーに巻き付けたときのRを小さくできることだ。これによってプーリーを小型化できるのと、限られたスペースの中でよりギヤ比を大きくすることができるのだ。
高トルクへの対応にも柔軟性がある(ケースの肉厚増などで対応可能)。従来のベルト式だとベルト幅を広くして高トルク対応を図れるが、同時にプーリー幅も増大するので重量増加を招くというデメリットがある。一方、チェーン式のデメリットといえばノイズが大きいことだ。しかし、今回リニアトロニックではチェーンのピッチを小さくすることでレスノイズ化を達成したという。確かに、以前は聞こえていたシャーというチェーン独特の音がしない。
レガシィのリニアトロニックで注目すべきはS#モード。スバルによって創り出された全く新しいCVTモードだ。ご存知のようにCVTは連続可変のギヤ比を持つことが他のトランスミッションに対するアドバンテージだが、いわゆるスポーツ走行モードにおいて固定のギヤ比ではないことによるダイレクト感の希薄さがデメリットでもある。
アクセルON時では固定ギヤ比よりも連続可変ギヤ比の方が加速力に優るのだが、アクセルOFFの減速時にはエンジンブレーキのダイレクト感が連続可変ギヤ比によってスポイルされる。じつはレガシィではS#-DRIVEモードではDレンジを選択すると8速の固定ギヤ比が適用される。
つまりS#-DRIVEモードではDレンジ(AT)であろうがMレンジ(マニュアル)であろうが8速の固定ギヤ比による走行となる。さらにS#-DRIVEモーの8速トップギヤはS-DRIVEモード及びi-DRIVEモードでMレンジを選択した場合の6速(トップ)のギヤ比と同じ。ギヤ比を8速に細分化してクロスさせているのだ。
S#-DRIVEモードをセレクトしDレンジで走らせてみよう。アクセルを踏み込んで加速させていくと、ツインクラッチトランスミッションのようにギヤがシフトされる段付き感がある。同時にメーターパネルのインジケーターにはその時点でチョイスされているギヤが表示され、次々とシフトアップされるのだ。確かにクロスしたギヤ比によって連続したアップシフトはまるでF1マシンのようにスポーティだ。しかし驚くのは加速から減速に移った時だ。ブレーキングと同時にダウンシフトが始まりそのままギヤを維持したままコーナーリングに突入するのだ。速度域にもよるが、その時のエンジン回転数はほとんどの場合4000rpmを越えていた。
高回転域でもオートシフトアップさせず、レスポンスの優れたエンジン回転域でコーナーリングさせることが可能なのだ。つまり、エンジンブレーキをしっかりと使いながらコーナーに進入できる。シンメトリカルAWDの持つバランスの良さと、リヤセクションに心地良いグリップがあるから、シャープなハンドリングでコーナーに飛び込める。Dレンジでスポーティな走りを可能にしているところに感動する。スバルではこれをステップシフトと呼んでいる。
2.5iは玄人受けするハンドリングに
次はレガシィ2.5iの話をしよう。アクセルを踏み込んだ瞬間にグッと加速させる低速域の力感がある。発進加速等の低速域からの扱いやすさでは2.5iが上だろう。多人数、多積載の用途が考えられるワゴンモデルなら2.5iがベストチョイスではないだろうか。走りもしっかりと押さえているところがスバルらしいのだ。
こちらは2.0GT DITのようにビルシュタインダンパーではないのだが、サスペンションのストローク感が強く玄人受けするハンドリングを持っている。そこに低速域からの立ち上がり加速。NAなのでピックアップのレスポンスがDITのターボに比べて良く、エンジンブレーキのフィーリングもダイレクト感という意味ではDITより上だ。
アイサイトにアイドリングストップ機能が新たに連携した新設計のリニアトロニックを装備。2.5iのリニアトロニックは軽量化を達成している。燃費面でも大きく進化したことを実感。実用性の高さで2.5iの進化ぶりには非常に興味をそそられる。
ハンドリングとサスペンションのフィーリングはシャープで締まりが出ている。フロントスタビライザーがこれまでSパッケージで25mm径だったものよりも太く26mmと強くなった。さらにアームのブッシュ内にリングを追加してバネ乗数を上げている。これに伴いバネ&ダンパーの設定も変更。安定感のあるリヤサスペンションはというと、DITのみ16mm径が18mmにアップされているのだ。またサスペンションアームのブッシュ類もしかり。他にもリヤサスペンションではリヤサポートアームと呼ばれる剛性向上のためのアームが追加されている。
今回のレガシィのビッグマイナーチェンジで、エンジンやトランスミッションまで手を加えた大規模なものだが、そうした中身の進化に大いに感動させられた。