【日産】プレミアムセダンを目指すスカイラインGT再生計画

マニアック評価vol1

V36型スカイラインに乗る機会があった。最近マイナーチェンジを受け、4WDモデル以外の全機種に7速ATが採用された。エンジンはV6・2.5Lと連続可変バルブリフト(スロットルバルブレス)機構のVVELを装備した3.7L。タイプS、タイプSPには4輪操舵システム+スポーツチューンド・サスも装備する。またスカイラインは、本流のD+セグメントのFR4ドアセダン、スポーツクーペに加え、クロスオーバーもシリーズに加わっている。

V36型スカイライン

カルロス・ゴーンによるスカイラインの再生計画

スカイライン・シリーズは、もともとプリンス自動車の時代に高性能セダンとしてスタートを切っているが、月販が2万台に達するなど成功した時代があることと、国内専用モデルという制約が課せられ、高性能スポーツセダンという根本はともかく、実際の開発コンセプトが大きく蛇行したことでも有名だが日産を象徴するクルマであることは間違いない。

しかし2001年に登場したV35型スカイラインからは、大変革を遂げている。開発コンセプトは「スカイライン・リボーン」(再生)であった。

実情をいえば、従来のスカイライン・シリーズはR34型で終焉を遂げていたといえる。その一方で、アメリカでの戦略車種として次世高性能セダンXVL、つまりインフィニティGシリーズの開発企画が進められていた。先行開発は98年にスタートし、コンセプトモデルのXVLは99年の東京モーターショーに出展。

しかしこの当時は日産の経営体制は大いに揺らいでいだ。結局1999年にルノーの支援を受け、経営統合を行ないカルロス・ゴーン氏が最高経営責任者に就任。このため、従来の事業や開発はすべて見直しを受けることになり、XVLの開発の成否も不透明になった。

XVL開発にかかわっていたメンバーは成り行き不安視していたが、ゴーン社長は世界戦略車としてのXVLを承認した。ルノーには存在しないD+セグメント、FR駆動方式が評価されたのだ。

また開発担当副社長のぺラータ氏は、今後の開発の目標を、ブランド力は「メルセデスのブランド力」、品質については「アウディの品質」と、きわめて具体的なわかりやすい方針を示した。このためXVLの開発に当たってはアウディの研究、特にサスペンション構造や品質に直結する生産方法、つまりモジュール組み立てが研究された。

新たにシリーズに加わったクロスオーバー

フロントミッドシップというパッケージ

VXLの開発は近年では珍しい白紙からの開発となり、プラットフォームからすべてを新たに設計している。そして謙虚にもアウディに学ぶという、ある意味で志の高いクルマ造りが模索されたのだ。

規模の大きさでは比較にならないが、トヨタの「マルエフ」、初代レクサスLS(セルシオ)に通ずるところがあったといえる。マルエフというコードネームで呼ばれたレクサスは、愚直なほどメルセデスEクラスを研究し、そのために50台ものEクラスを購入したのだ。

XVLでは先行開発の段階で、FFかFRかという検討から行なわれた。単純にキャビンスペースを考えればFFが有利だ。Dセグメントの上級セダンであることを想定すると、操舵感が滑らかで上質であることやスポーティなドライブ・フィーリング、静粛さなどを総合するとFRが有利だ。

ただ、運動性を高めるためのフロントミッドシップ・レイアウトと、室内の広さやトランクルームの広さを両立させるのはなかなか難しいのも事実で、DセグメントのFFセダンという選択肢もあるのだ。XVLは結局FRにこだわり、しかもFRの持つ欠点の壁を突破するために、超ロングホイールベースと全高を高めにするという着想、そして、運動性能を高めるためにエンジンをフロントミッドシップに搭載するというFMパッケージを決定した。

目指すのはプレミアムセダン

エンジンをフロントミッドシップに配置するということは、トランスミッションがキャビン内部に入り込む形になるが、それはドライバー席と助手席をそれぞれパーソナルな空間を生み出すことにもなる。また、FRにこだわった理由は、商品企画的にいえば運動性能(ドライビング・クオリティ)、プレミアム性重視の価値観を追求したからだ。プレミアムな価値観とは、ステアリングを握った時の質感の高さや心地よさ、本物らしさ、心に響く満足感などである。つまり企画としては世界に通用する21世紀のプレミアムセダンである。

目指すのは、4.7m以下のサイズでフル4座席のセダン。エンジンは2.5Lと3.0L(後に3.5Lに変更)、BMWでいえば3シリーズと5シリーズの中間というポジションである。走りは、フラットライドをめざし、FRとして理想的な前後重量配分52:48の実現。日本車として初の2重構造フロント・バルクヘッドの採用、適正化された重量配分の恩恵である優れたブレーキ、床下のエアロダイナミックスの重視と空気抵抗低減を両立させた低抵抗+ゼロリフトの空力特性、世界トップレベルの衝突安全性、80度の開角を持つリヤ・ドアや4リンク式トランクリッドなどが追求された。

それ以外に、生産時の大幅なモジュール組み立ての採用、樹脂製ラジエーターフレーム、アルミ製サブフレームやリンクとし、フロントにはダブル・ボールジョイントを使用したたサスペンション、大径タイヤの採用などを採用した。樹脂製ラジエーターフレーム、製造ライン外でのモジュール組立、フロント・ロアのダブルジョイント式ダブルウイッシュボーンなどはアウディの影響が大きい部分と言える。XVLは、アメリカではインフィニティGシリーズ、日本ではスカイラインGTの名称を受け継いだが、従来のスカイラインとは完全にリセットされている。

商品ターゲットは、従来のスカイラインを取り巻くマニアックな雰囲気を消して、より高い年齢層を狙っている。そのため、乗り心地はソフトで、ラグジュアリー感を強調した。この結果、志は高いものの、従来のスカイラインGTとはイメージが違いすぎ、自動車ジャーナリスト受けはよくなかったが、アメリカでは成功した。

スポーツクーペ
スポーツクーペ

アメリカでの成功

2006年秋にスカイラインはモデルチェンジし、V36型となる。FMプラットフォームは、FR-Lという名称に変わり小改良を受けた。またアウディ流のダブルジョイント式フロント・ダブルウイッシュボーンはシングルジョイントに変更。またV35型の途中で採用されたエクストロイダルCVTも廃止された。CVTはコスト的に成立しないためであり、ダブルジョイント・フロント・サスペンションは、完全なアウディ式にできなかったため、中途半端なフィーリングであったためだろう。

そして基本的なコンセプトに変更はないが、V36型はよりスポーティな走りを求めてGTテイストを強調するなど、走りのイメージはかなり方向転換している。V36型の途中から、7速AT、3.7Lエンジンに連続可変リフト機構(VVEL)を搭載。333psという高出力を実現している。

しかし、高出力に固執するあまり高回転型となり、7速ATならではの2000回転以下の常用域でのトルク感が薄く、アクセルを踏み込むといきなりエンジンが反応するといった点はクルマのコンセプトと合致していない。またせっかくの7速ATとエンジンとのマッチングもいまひとつだ。

ピッチングが少なく、フラットライドであることや高速域でのしっかり感、リニアで安心感のあるブレーキなど見るべきものはあるが、常用域での走りのしっとり感、重厚感、滑らかさやリニアリティなどの点でバランスの悪さを感じてしまう。本来の志の高さや、個々のユニットの性能が優れていることは認めるにしても、細部の熟成不足や全体のまとまりはどうなんだろうか。それは実験部門の細分化の影響なのだろうか。

バリエーションを乗り比べると、250GTが最もバランスがよく感じる。フロント可変ギヤ比、リヤにアクティブステアを配した4輪アクティブステア式のクーペの走りなどはスポーツに特化され、確かに日産らしさを感じるのだが、シリーズ全体では少し方向を見失っているような気がする。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

COTY
ページのトップに戻る