自動運転って何だ? 言葉の一人歩きで混迷 事故ゼロが目的のはずだが・・・

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モービルアイ社の技術を搭載した自動運転実験車。ドライバーはモービルアイ代表のアムノン・サッシュア博士

最近では、テレビ、新聞からWEBニュースに至るまで多くのマスコミで自動運転の話題が取り上げられている。自動運転というテーマは、本来かなり専門的なはずで、多くの自動車メーカーは、自動運転そのものは、ひとつの手段であり、最終的な目的は交通事故ゼロなのである。

■自動運転という言葉が一人歩き

しかし、一方で社会的な話題として完全自動運転のGoogleカー、人工知能(AI)などがマスコミに大きなインパクトを与え、新しいクルマとして認識されたことで、自動運転という言葉も定着してしまった。

Googlのセルフドライビングカー。完全自動運転を目指し、本来はハンドルもペダルもないが、公道での実証実験のためにはドライバーが乗り、ハンドル、ペダル類を装備
Googlのセルフドライビングカー。ドライバーなしの完全自動運転を目指し、本来はハンドルもペダルもない。が、公道での実証実験のためにドライバーが乗り、ハンドル、ペダル類を装備。マスコミはこれこそ未来のクルマと報じた

さらに、自動運転という言葉の普及を加速させているのが、アベノミクスの第3の矢とされる、「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の11分野の一つとして「自動走行システム研究開発計画」の存在だ。平成25 年に閣議決定された「世界最先端IT 国家創造宣言」では、「2018 年を目途に交通事故死者数を2500人以下とし、2020年までに世界で最も安全な道路交通社会を実現する」という宣言が掲げられた。そして、内閣府が主導して「クルマの自律系システムと車車間、路車間との情報交換等を組み合わせ、2020 年代中には自動走行システムの試用を開始する」という政策プログラムが作成された。

このプログラムを実現するための予算も獲得しているため、自動車メーカーだけではなくサプライヤー、電子機器業界など広い分野でにわかに注目されるようになり、マスコミに自動運転という言葉がさらにあふれる結果となっている。

そして、自動運転に関連した事件も少なくない。2013年10月にはトヨタが先進技術のデモンストレーションとして、首都高速でハンドル手放し運転で走行している状態がテレビで放映され、国交省や警察が激怒した事件もその一例だ。しかし時系列で見ると、SIPが策定されるや、官側の対応は大きく転換した。

2013年9月には日産が自動運転実験車の公道走行用ナンバーを取得し、2014年秋にはコンチネンタル社が日本での自動運転実験車のナンバー取得。当然これらのクルマは公道上でハンドルの手放し運転を継続的に行なっている。

そして2015年秋にはテスラが自動運転(オートパイロット)と呼ぶシステムが、アメリカ本国、日本でも認可を受けた。このシステムでは高速道路だけでなく市街地でも15分間以上ハンドル手放しで自動運転できるのだ。

■自動運転車が事故!?

その一方で、アメリカの市街地で実証実験を続けているGoogleカーが接触事故を起こしたことがニュースになった。また、2016年5月7日にはフロリダ州で自動運転中のテスラ・モデルSに乗るドライバーが大型トレーラーと衝突し死亡し、大きなニュースになった。

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テスラ モデルSの衝突事故。青の大型トレーラーが左折中に、側面に赤のモデルSが衝突。大型トレーラーの下面を潜り抜け大きくコースアウトしている(出典:ワシントンポスト)

2016年7月13日に行なわれた日産の新型セレナが採用する「プロパイロット」技術の発表会でも、新聞記者の質問はテスラの事故の件に集中した。と同時に「プロパイロット」は日本初の自動運転車だとするニュースがWEB、テレビニュースで駆け巡っている。

なおテスラの事故を受けて、国交省・自動車局は7月6日に、「テスラ社製のオートパイロット機能を含め、現在実用化されている「自動運転」機能は、運転者が責任を持って安全運転を行なうことを前提とした運転支援技術であり、運転者に代わってクルマが責任を持って安全運転を行なう、完全な自動運転ではありません。このため、運転者は、その機能の限界や注意点を正しく理解し、機能を過信せず、責任を持って安全運転を行なう必要があります」という注意喚起のコメントを発表している。

ジュネーブ条約
運転中のドライバーの義務が定められたジュネーブ条約

このことから分かるように、国交省も自動運転に関しての認識が混乱していることを実感していることを伺うことができる。

■自動運転という考え方

注目の日産の「プロパイロット」は、プレスリリースでは「新型セレナに自動運転技術 プロパイロットを初搭載」と記されている。さらに、「プロパイロットは、革新的かつ安心して使用できる高速道路の単一車線での自動運転技術です。渋滞走行と、長時間の巡航走行の2つのシーンで、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御し、ドライバーの負担を軽減します。高度な画像処理技術によって、道路と交通状況を把握し、ステアリン グを正確に制御し、人間が運転している感覚に近い自然な走行を実現します。今回、新型セレナへプロパイロットを搭載するにあたっては、日本の高速道路での使いやすさを徹底的に追求した開発を行ないました。なお、渋滞時のハンドル、アクセル、ブレーキすべての自動化は、日本の自動車メーカー初の技術です」と書かれている。

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前走車に追随して走行するプロパイロットを搭載した新型セレナ
新型セレナが装備する単眼カメラ
新型セレナが装備する単眼カメラ
追従走行中の新型セレナ
追従走行中の新型セレナ。手はハンドルに軽く触れる

しかし、開発したエンジニアに確認すると、「プロパイロットはドライバー支援システムです」という答えが返ってきた。だから、プレスリリースの正確な意味は、「将来の自動運転の技術につながるプロパイロット」ということになる。

自動運転概念1
国交省の考える自動運転の位置付け
SAEインターナショナルの定義
SAEインターナショナルが定義した自動運転レベル

自動運転についてはヨーロッパ、アメリカなどで様々な定義があるが、アメリカのSAEインターナショナルでは、次のように定義している。

レベル0:すべて人間が操作
レベル1:一つの機能が自動化(ACC/車間自動コントロールや自動緊急ブレーキなど)
レベル2:二つ以上の機能が自動化(ACCとステアリング制御/車線逸脱自動修正など)ドライバーは常に交通を監視し、いつでも手動運転できるようにスタンバイする
レベル3:半自動運転で、ドライバーは交通状況の監視をせず、リラックスできる。問題がある場合はドライバーがシステムから引き継いで手動操作する(高度ドライバー支援システム=ADASと呼ぶ))
レベル4:完全自動運転
レベル5:SAEによる定義の無人運転

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ボルボが開発中のレベル3の高度ドライバー支援システム。支援システムの作動中には、ドライバーは運転操作はもちろん、交通の監視義務がなく、運転以外の行為が許される

この定義に当てはめると、日産のプロパイロットも、テスラの自動運転も、ヨーロッパ車に搭載されているシステムもすべて「レベル2」である。レベル3が、半自動運転、あるいは高度ドライバー支援システム(ADAS)と呼ばれ、2020年頃に実現することが目標とされているのだ。

■ 日産プロパイロットとは?

日産のプロパイロットは、正確には2.0L・ミニバン初となるドライバー支援システムで、レーンキープのための自動操舵機能とアダプティブクルーズ制御機能を持ち、アダプティブクルーズの車速の初期設定は30km/h~100km/hで、渋滞時の前車自動追従機能(ハンドル、アクセル、ブレーキの自動制御)を持つ。取扱説明書では、自動車専用道、高速道路で使用するよう記載されているが、機能的には車線がある一般道でも使用できるというのが特徴だ。

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自動運転の公道での実証実験車は、ハンドル手放しが許されている

ただし、ハンドルの手放しが許容されるのは10秒間ほどで、10秒後には警告、さらに警報によりドライバーに注意を喚起し、無視するとシステムが自動キャンセルされるようになっている。つまり車線キープのための自動操舵機能は持っているが、ハンドル手放しは許容しないということだ。

日産のプロパイロットが評価できる点は、モノクロ単眼カメラ1個でこうした機能を実現していることで、従来より、高精度に物体や道路標識を認識し、同時に専用のECUで高速演算を行なうことでシステムを作動させる。そのため、前走者との間に割り込み車が侵入しても瞬時に割り込み車を追従走行の対象車として認識できる。つまり低コストのシステムでありながら、性能を高めることで量販車種での普及を促すという戦略だ。

なおこのモノクロ単眼カメラは、実は日産エマージェンシーブレーキのためのカメラと同じもので、自動ブレーキを市場導入した2013年からこのカメラを利用したプロパイロットの開発をスタートしているのだ。

そのため商品名称としては、エマージェンシーブレーキと今回のプロパイロットは機能的に2本立てとなっているが、実質的には一つのシステムなのである。なおこの単眼カメラによる物体の形状認識と、距離の把握は、イスラエルのモービルアイ社の技術と日産の日本の道路の環境下で技術蓄積の成果ということができる。なお、モービルアイ社の画像認識技術は各社のほぼすべての単眼カメラによるドライバー支援システムに搭載されている。

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