2012年7月に登場したノートが4年を経てビッグマイナーチェンジを受け、新たに「e-POWER」と名付けられたシリーズ・ハイブリッド方式の3モデルが追加された。ノートが属する日本のBセグメントのクラスでは、アクア、フィット・ハイブリッドの2強がマーケットの主流になっているが、新登場のノート e-POWERはその構図をひっくり返すことができるだろうか?<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
日産はノートe-POWERを、従来の駆動方式とは一線を画する新しい電動パワートレインで、100%モーター駆動であることを強調し、シリーズ・ハイブリッド方式、つまりハイブリッド車であることを前面に打ち出していない。その理由は、ハイブリッドといえばトヨタ、ホンダという既成イメージができ上がっているので、それを超える電気モーター駆動車=e-POWERという商品戦略上の理由だ。
シリーズ・ハイブリッド、つまり内燃エンジンで発電機を駆動し、発電された電力でモーターを駆動するシステムの元祖はフェルディナント・ポルシェが当時在籍していたローナー社で設計・開発し、1900年に発表されたローナー・ポルシェだ。何と100年以上前から存在したこのシリーズ・ハイブリッド方式は、日産では2007年から先行開発のスタートを切り、2014年から量産化の開発がスタートしているという。
まさに満を持して発売したe-POWERだが、その特徴は既存の電気自動車、リーフの駆動モーター、インバーターなどパワーコントロールユニットを使用してまとめ上げていることだ。そのため、駆動モーターの最高出力は80kW(109ps)と大出力だ。さらにブレーキ回生に有利なリチウムイオン・バッテリー(1.5kWh)を搭載する。
ハイブリッド・システムは、トヨタのTHSⅡがシリーズ・パラレル式、ホンダはパラレル式で、いずれもエンジン駆動が併用されるのに対しノートe-POWERはモーターだけで駆動するのが特徴で、これにより電気自動車と同等の走行フィーリングを実現しているわけだ。
強力なモーターで駆動するということは発進加速で大トルクが発生し、エンジン車を上回る加速性能が得られることと、静粛に走ることができるのが特徴だ。
JC08モード燃費は、アクアが車重1080kgで37.0km/L、フィット・ハイブリッドは燃費訴求の軽量モデル(車重1080kg)が36.4km/L、それ以外は33.6km/Lだが、ノートe-POWERは、エアコンなどを装備していない軽量モデルの「S」(1170kg)が37.2km/L、それ以外のX、メダリストは1200kg台で34.0km/Lとなっている。なお標準のガソリンエンジン車と比べてe-POWERは約170kg重くなっている。
新型ノートはマイナーチェンジであるため、既存車にe-POWERを搭載しているため車体側での軽量化ができず、その一方で他社のハイブリッドを上回る燃費性能が商品戦略的に求められたため、燃費訴求モデルとして軽量化された「S」が設定されている。この「S」はエアコン・レス仕様車なので、実質的な販売モデルは「X」、「メダリスト」であることは言うまでもない。
■試乗レポート
スタートボタンを押すと、システムが起動し一瞬エンジンが始動する。しかしバッテリーに電力が溜まっていればすぐにエンジンは停止し、バッテリーの電力を使用してモーターだけで走り出す。このモーターの加速力は強力で、少なくとも市街地走行では既存のハイブリッド車はもちろん、エンジン車を上回るフィーリングだ。
振動がなく、滑らかで力強い加速は、モーター駆動の最も得意とするところだ。走行モードは、Dモードと、スイッチの切り替えによりSモード、Ecoモードを選択することができる。加速で最も強力なのがSで、Ecoは加速が最もマイルドだ。
さらに、これらの走行モードは、アクセル・オフの時の減速、つまり回生ブレーキ力も変化する。回生ブレーキが最も強くなるのはSとEcoで、この走行モードではワンペダル・ドライブ、つまりアクセルペダルを踏むと加速、アクセルペダルを戻すと一般的なガソリン車の3倍ほどのブレーキがかかり、そのまま停止することもできる。ブレーキペダルを踏まなくても市街地を走ることができるのだ。次ページへ
もちろん0.1G以上の回生ブレーキの減速では、ブレーキペダルを踏んでいなくてもブレーキランプは自動的に点灯するようになっている。こうした加速、回生ブレーキによる強めの減速、停止は少なくとも従来のハイブリッド車にはなかった新しい体験だ。そして回生ブレーキで停止し、ブレーキペダルをわずかに踏むとクリープが発生するようになっている。
そのため一般的なDレンジは、強い回生ブレーキに慣れていない人向けの走行モードで、回生ブレーキはガソリン車のエンジンブレーキ・レベルだ。そのため従来のハイブリッド車と同様のBにシフトすると適度な回生ブレーキが得られる。しかしe-POWERに慣れてくると、SやEcoモードでワンペダル・ドライブを駆使することができるわけだ。
図表のような回生ブレーキのレベルが設定されているが、正直に言えば回生ブレーキ力の強さを切り替えパドル・スイッチがあればもっと単純で分かりやすく、操作しやすいのではないかと思うが、日産はモータードライブに慣れていないユーザー層をメインに想定して、これまでのハイブリッド車のシフトセレクターと、モード切替ボタン式の併用を選んだという。
各モードを試してみて、市街地での走行でワンペダル・ドライブをするにはEcoモードが一番だと感じた。加速も普通のクルマ並みで、アクセルを緩めると強い回生ブレーキがかかり、ブレーキペダルを踏む必要がないのだ。
慣れれば信号で停止する地点に合わせてアクセルペダルの戻し速度を調整することができるようになり、まったくブレーキペダルを踏まずに停止、再発進ができる。これは確かに新しいドライブ感覚で、これがノートe-POWERの大きな魅力のひとつになっている。
また60km/h以上の車速では、どのドライブモードでも回生ブレーキ力は一般的なエンジン車のエンジンブレーキ程度となるように設定されており、ワンペダル・ドライブは市街地走行のために考えられていることが分かる。
市街地走行では、減速によるエネルギー回生が頻繁に行なわれ、エンジンがかかっても2000~3000rpm付近の回転のため静かで、エンジンの始動、停止による室内の音の変化もよく抑えられているのでわずらわしさは感じない。
エンジンが始動するのは40km/h以上とされ、バッテリーの状況に合わせて充電されるが、さらにアクセルを踏み込んで60km/h以上ではどうか。アクセルを大きく踏むほどエンジンの回転は高まる。つまりバッテリーに蓄えられた電力以上に駆動もモーターが稼動するので、エンジンは発電のために連続運転となるのだ。もちろんアクセルを緩め、バッテリー残量があればエンジンは停止する。また高速道路での追い越し加速といったシーンではエンジン回転は5000rpmを超える状態となる。
こうした高速での追い越しなどでは、アクセルの踏み込み具合と連動してエンジン回転が高まり、あたかもエンジンで走っているような錯覚を感じる。ちなみに最高速はエンジンによる発電と駆動モーターの消費電力がバランスするポイント、145km/hだという。また、モーターの特性として発進加速時の大トルクの加速感とは異なり、高速域ではトルクの頭打ちにより伸び感がなくなってくるのもこのクルマの特徴だ。
言い換えれば、このe-POWERのシステムは市街地走行で回生ブレーキを有効活用し最も効率が高く、高速走行はやや効率が落ちるという性格なのだ。そのため、平均速度が低い日本市場に特化したシステムで、事実海外には輸出されない。
走りのフィーリングは、ベースのガソリン車より170kgほど重いこともあって、どっしりとした安定感のあるフィーリングだ。試乗した「X」グレードは本来は185/70R14サイズのブリヂストンB250だが、試乗車はメダリスト用の185/65R15サイズのB250を装着していた。このOEM専用タイヤは燃費指向で、ステアリングの接地感が薄めで、路面との当り具合も固めの印象だ。もう少しグレードの高いタイヤを装着すれば印象は変わるかもしれない。
しかし加速時のトルクの力強さとシームレスな加速状態や市街地走行での室内の静かさ、クルマのどっしりしたフィーリングは確かにBセグメントの常識を打ち破っており、それがこのクルマの価値だともいえる。
同セグメントのハイブリッド車との比較では、発進加速や市街地での追い越し加速はこのノートe-POWERが勝り、高速走行での加速ではやや劣る気がする。また市街地走行での回生ブレーキを使ったワンペダル・ドライブという新しい運転感覚は、このノートe-POWERならではの魅力といえる。
そういう意味で、電気自動車の入門車的な性格を持つと考えることもできる。充電不要で1回のガソリン補給で約1000kmの航続距離を持つ実用性や、従来のハイブリッド車と同等の価格を実現できたことと合わせ、今までにない新たな魅力を持つクルマということもできるだろう。
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