2016年11月2日、日産はノートのビッグマイナーチェンジを行ない、新たに「e-POWER」と名付けられた。この新型ノートe-POWERは、モーター駆動システムを搭載した3グレードを設定している。さて、新登場した「e-POWER」とはどんなシステムなのか?
■e-POWERとはシリーズ・ハイブリッド
「e-POWER」とはシリーズ・ハイブリッド、あるいはガソリン・エレクトリックと呼ばれるハイブリッドシステムで、搭載されているHR12DE型1.2Lの3気筒エンジンは発電専用だ。
ベースモデルに搭載されているミラーサイクルのHR12DE型は58kW(79ps)/6000rpm、106Nm/4400rpmの出力だが、「e-POWER」用はミラーサイクルで58kW(79ps)/5400rpm、103Nm/3600-5200rpmと、低回転、低フリクションの専用チューニングで、発電用に運転されるときは3600~5200rpmと最も効率の高い回転ゾーンを使用する。
通常の駆動用エンジンはより低い回転から使用されるが、発電専用のエンジンのため効率のよいゾーンだけを使用する点がメリットだ。このエンジンには発電機が直結されている。発電機の出力は公表されていないが、最大で約50kWの発電能力と見てよいだろう。
発電された電力は通常は1.5kWhのリチウムイオン・バッテリーに貯蔵され、バッテリーから取り出された電力で最高80kW(109ps)の出力を持つモーターを駆動する。つまりエンジンと駆動モーターは電気的に接続されており、エンジンが直接駆動しないのが特徴だ。
もちろん、エンジン→発電機→バッテリー→駆動モーターという電力の経路では変換損失が積み上がるが、市街地走行で減速回生によるエネルギー回収が行われるため、エネルギー変換損失をある程度補うことができるのだ。
さらに市街地走行では、エンジンの使用頻度が、従来のハイブリッドより少ないので、結果的に燃費性能もより向上させることができる。
逆に、高負荷でアクセルをベタ踏みしているような状態では、バッテリーの電力は消費され、エンジンの全力運転により発電された電力のみで走行することになる。
なおノート e-POWERのJC08モード燃費は、ベースグレード(エアコンレスなどによる軽量モデル)で37.2km/L、上級グレードで34.0km/L。軽量モデルはライバルのアクアの37.0km/Lを上回るクラス・トップの燃費を達成している。
■リーフ用駆動システムの流用
このe-POWERは長い先行開発を経て、2014年頃から量産向け開発が開始されたという。このシリーズ・ハイブリッドは、量産車で世界初となる。またBMW i3のようにEVでありながら発電用のエンジンを搭載したレンジエクステンダーとの区別は、バッテリーの容量にある。レンジエクステンダーは、バッテリーでの走行がメインで、充電設備がないときのために発電用エンジンを搭載するが、通常は充電によりエネルギーを補充する。
これに対してシリーズ・ハイブリッドは、バッテリーの容量は小さく、エンジンによる発電を前提にした走行システムとなっている。そのため充電には対応していない。シリーズ・ハイブリッドは充電の煩わしさがなく、41Lのガソリンタンクを使用し、航続距離は約1000kmとされる。
日産は、電気自動車リーフの駆動用モーター、インバーター/コンバーター、リチウムイオン・バッテリーのセルを使用することでコストを抑えている。またこのEV用の駆動モーター出力は最大80kWで、アクアの54kW、プリウスの72kWより大きく、より強力な動力性能が実現しているのだ。発進加速、中間加速は2.0Lターボ車を上回る加速性能だという。
また、ノートe-POWERは、大出力の駆動モーター、リチウムイオン・バッテリーを採用していることで、より強い減速回生を行なうことができる。そのため、3段階の減速回生力を設定し、アクセル開度特性と組合わせで採用している。
ノーマルでは通常のガソリン車並みの減速、セレクターがBの場合はやや強い減速、Sモード、ECOモードでは最も強い減速となる。通常のガソリン車のエンジンブレーキの約3倍の減速が得られるのだ。アクセルの設定は、Sモードで早開き、ECOモードは遅開き特性となっている。
Sモードでは、アクセルの戻し速度に連動し減速力が変化し、さらにアクセルオフの状態では減速回生力だけで停止することができ、ブレーキを踏む必要がないのだ。つまり市街地走行では、ブレーキを踏むことが圧倒的に少なくなり、アクセルの戻し具合で車速を調整し、停車することもできる。このあたりはBMW i3、ゴルフGTEなどと似ている。また0.1G以上の減速Gでは、ブレーキを踏まなくても自動的にブレークランプは点灯する。
■ショート試乗
この新型ノート e-POWERに市街地で短時間ながら試乗することができた。アクセルを踏み込むと音もなくグイッと加速するのはリーフと同じEVそのものの感覚だ。このため、市街地でのゴー・ストップでもストレスがない。アクセルを深く踏み込んで加速は、プリウスPHVと同等レベルで、モーターと変速機を組合わせたゴルフGTE、アウディA3 e-tronには及ばないと感じた。
そして信号で停止するときもアクセルを戻すだけで減速をコントロールし、赤信号で停止することができるのも便利だ。Sモードでアクセルを全閉にした時の減速は、BMW i3やゴルフGTEでの最大回生減速よりは穏やかだと感じた。
ただ、セレクターBの場合と、押しボタンスイッチでのノーマル、S、ECOの切り替えは、やや煩雑で、減速回生力をコントロールできる統合スイッチ、あるいはパドルなどの方が便利だろうと感じられた。
高速道路での走り、静粛性や乗り心地、ハンドリングなどについては、別の機会に試してみたい。
新型ノート e-POWERはトヨタ・アクア、ホンダ フィット・ハイブリッドと真っ向勝負する役割を持ち、日産はプロパイロットを装備した新型セレナと、このノート e-POWERで、国内市場に攻勢をかける。
ノート e-POWERは、EV的な走り、静粛性などに加え、運転支援システムも充実されており、それでいて価格も従来型ハイブリッドと同等レベルとしているため、コスト・バリューの点でも競争力が高められたといえるだろう。