日産の新たなフラッグシップEV「ARIYA・アリア」に試乗してきた。これまでに経験したことのない、いくつかの体験をしたのでお伝えしよう。
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まず、アリアのポジショニングだが、日産のマーケティングチームは最先端でありながら、機能重視で知的なモデルと位置付け、輸入車のEVは同様に最先端ではあるものの見た目重視で派手なモデルであるという。平たく言えばアリアは実用性を次世代に合わせたモデルというポジショニングだ。
ボディサイズはMクラスで全長4595mm、全幅1850mm、全高1655mm。ホイールベースは2775mmでエクストレイルと比較して全長は-95mm、ホイールベースは+70mmという大きさ。これに19インチないし20インチの大径タイヤを装着したモデルだ。
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ラインアップにはB6(66kWh)とB9(91kWh)があり、電池容量違いだ。そして駆動方式はFWDとAWDが双方に用意されている。ちなみに航続距離はFWDのB6が470km、B9が610km。AWDのB6が450km、B9が580kmでリーフe+の航続距離が458kmと比較しても、長い走行距離であることがわかる。
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さて、試乗したのはB6のFWDモデルで、もっともベーシックなモデル。AWDのe-4ORCEモデルは少し先になるということだ。このB6のFWDはメインの売れ筋モデルになるだろう。またラインアップにはヒエラルキーはなく、ユーザーの使い方でバッテリー容量、駆動方式を選択するというスタンスのラインアップになっている。
日産のIntelligent Mobility
日産の次世代に向けた取り組みにIntelligent Mobilityがある。内訳はIntelligent Driving、 Intelligent Power、そしてIntelligent Integrationであるが、アリアに当てはめたプレゼンテーションを受けた。
Intelligent Driveでは快適性と心地よさ、広々としたインテリア、上質で快適なラウンジのような空間、先進運転支援技術による先進性があり、Intelligent Powerでは背中を押されるようなGの加速ではなく、滑らかにスムースに加速する走りの提供を謳っている。そしてIntelligent IntegrationではボイスアシスタンスやAmazon Alexa、リモート充電、ドアtoドアナビなどとなっている。
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乗って最初に感じるのはフラットなフロアによる居住空間の広さだ。そして先進的だと感じるインパネまわりのデザインで新鮮さを感じる。インパネや可動式コンソールに設置されたスイッチ類は静電式なので物理的な凸凹がなく、映し出されているスイッチが必要なときだけ現れてくる。
走り出してみると、これまでに体験したことのない加速フィールで、雑味のまったくないヌルッとした感触というのか、しっとりとした加速感を味わう。ドライブモードは「sport」 「normal」 「eco」があり、e-4ORCEには「snow」がプラスされる。さらにワンペダル走行ができるe-Pedalのオン/オフがそれぞれのドライブモードで選択できるので合計6パターンのモードから選択できる。
それのどのモードで走行しても雑味のない加速感があり、先進性を強く感じる。e-Pedalを使ってみるとecoモードではコースティングをするので、ますます雑味が消える。空気抵抗と転がり抵抗だけが存在する走行になるが、その空気抵抗もSUV形状は不利でありながらトップレベルのCd値ということで、スピードはなかなか落ちてこない。かなりの電費節約を実感する。
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また遮音性が高く、遮音ボディの開発や遮音ガラスの採用などで、路面のツブ・ザラから綺麗な路面になった場合でも室内に入り込む音に大きな違いが感じられないほど静粛性が高い。
もっとも、開発の狙いであるラウンジのような快適さを謳っているわけで、そのためには静粛性はプライオリティの高い位置にある開発目標だったことが理解できる。
さらにヌルッとした加速フィールは新規開発したモーターに秘密があるように感じた。それは巻線界磁式モーターとすることで、低速であまり磁界の入らない時には電気を抑え磁界が少なくなることが影響しているように感じるのだ。モーターからの磁界が大きくなると音はそれなりに大きくなってくるが、磁界を抑えることで走行フィールにつながっていると感じた。
さらに、アリアのプラットフォームはEV専用に開発していることも影響は大きい。徹底的な遮音ボディの開発や会話明瞭度へのこだわりからも音や振動に気を遣っているという。ポイントはモーター音、ロードノイズ、風切り音の3つであり、モーターは今説明した界磁式に、ロードノイズは遮音ボティと遮音ガラス、吸音タイヤの装着、穴を塞ぐなどで、さらに風切り音は空力ボディとすることで、静粛性を高めている。
乗り心地でも滑らかさを感じる。搭載するバッテリーはフロアに搭載しているが、ボディ骨格の一部という考え方でバッテリーパック内にクロスメンバーを通し剛性をあげている。そのバッテリーパックをフロアに敷き詰めプラットフォームの剛性を上げる役目を担っているわけだ。ちなみにフロア剛性はエクストレイル比で75%もねじり剛性がアップしているのだ。
こうしたことから上質で高級車の走りを体験でき、ラウンジにいる快適性も感じられるというわけだ。
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先進性と快適性
ダイナミック性能ではステアリングの手応えが気持ち良い。今回ラック式EPSを採用したということで、瞬間的な大トルクにも対応するEPSだ。さらにプロパイロット2が稼働しているときはクラッチによりステアリングコラムが切り離され、ステアバイワイヤで走行しているのだ。
同一車線内ハンズオフが可能なプロパイロット2では、路面の傾斜でステアリングが操舵されると手を添えてないドライバーや同乗者からは違和感に感じる。わずかな傾斜であればハンドル操作していないように見えた方が良いという判断もあったと想像する。
コーナリングではダイヤゴナルロールは小さく、ロールは抑えられている。重量配分が53:47という理想的な配分、さらにロールセンターもセダンレベルまで下げているということからも、そうしたクルマの動きにしていると想像できる。さらに高応答の大径ダンパーの採用などですっきりと曲がれる乗り味になっていた。
インテリアの快適性では、先進性と合わせて数々の新しいものが飛び込んでくる。薄型のインパネやさきほど説明した静電スイッチの採用、そして統合型インターフェイスディスプレイなどが新しさを感じさせ、さらに高級素材による上質なインテリアというのも快適性に一役買っている。
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インターフェイスではボイスコントロールで「ハローニッサン」で起動し、AIによる会話型のコミュニケーションが可能になっている。さらにAmazon Alexaの搭載もある。Alexaに対応する家電などがあれば、アリアからの操作で動かすことができる。が、まだクルマの操作領域には入り込めていない様子で、室温を上げるとか、オーディオを操作するという車両機能に関しては、ニッサンの音声認識AIを利用することになる。つまり2種類のボイスコントローラーが搭載されているわけだ。
ラウンジのような快適性には可動式センターコンソールの存在が大きい。これは150mm電動で前後にスライドでき、肘掛けとして使うために、どんなシートポジションでも対応できるようになっている。ここにドライブモードのスイッチもあるので、可動式なのは実用性が高く使いやすい。
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プロパイロット2に関してはスカイラインに搭載している機能と同等だが、精度はより上がっている。また追加機能としてリモートパーキングを装備した。車外からの操作で駐車する機能で乗降ができないような狭い場所での駐車などで利用できる機能だ。
そして後席も前席もフロアがフラットなのはインパクトがある。専用のプラットフォーム設計だからこそ可能にしたもので、フロアがフラットというだけで、これほど広く感じるものだというのを実感する。実際MクラスのアリアがLクラスの室内空間を持ち、Bセグメントレベルの小回りが効くという実用性も高く評価できる。
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Intelligent Mobilityを掲げ、開発されたアリアは、これまでのシーマなどに代わり、EVのフラッグシップとして位置付けられ、電動化を加速させるモデルとして期待できる新しい価値観のクルマという印象だった。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>
価格
試乗車車両本体価格:B6 FWDモデル539万円(税込)