【日産】発電特化型エンジンに使われた世界初の技術とは

日産自動車は2025年8月27日、STARCコンセプトを採用した第3世代となる「e-POWER」向け発電専用エンジンに、自動車用エンジンとして世界初となるコールドスプレー工法を用いたバルブシートを採用したと発表した。

「e-POWER」はエンジンを発電専用とし、駆動はすべて電気モーターのみで行なうシリーズハイブリッド・システムだ。モーター走行のため、パワフル、静粛性などのメリットがあるが、高速連続走行での燃費に課題があった。

日産は2016年の「e-POWER」を市場投入以降、その性能は第2世代では可変圧縮比エンジン「KH5T」型を投入するなど改良を行なってきた。2025年7月に英国サンダーランド工場で生産を開始した新型「キャシュカイ」は、5つの主要コンポーネントを一体化した5-in-1電動パワートレイン(第3世代)と、発電に特化した専用の新開発1.5L・3気筒ターボエンジンを組み合わせ、燃費と静粛性を大幅に向上させている。

特に発電用エンジンは、高速走行時の燃費を大幅に改善するため、従来の可変圧縮比エンジン「KH5T」型は廃止され、新設計の「ZR15DDTe」型が投入された。これによりヨーロッパWLTP燃費は22.2km/L、実走行条件で最大16%、高速道路では14%の燃費向上が確認されているという。

STARCコンセプト

発電特化型エンジン「ZR15DDTe」は、STARCコンセプトと呼ぶ日産独自の燃焼技術により42%という高い熱効率を達成している。STARCコンセプトを実現するためには、吸気ポートから燃焼室へ入る空気流の乱れを極限まで抑え、強いタンブル流を形成することを狙い、世界初となる新技術が採用されている。

一般的なエンジンの吸気ポートは、焼結材で作られたバルブシートを圧入する構造のため、形状に制約があり、タンブル流の形成に理想的な形状にすることは困難であった。また、より強いタンブル流を発生させるために吸気バルブシート部に小さな突起を設け、吸気流をポートから剥離させてタンブル流を促進していた。

コールドスプレー加工

今回開発されたコールドスプレー工法を用いたバルブシートは、シリンダーヘッドの表面に被膜を形成するもので、従来のような別体のバルブシートが不要となり、理想の吸気ポート形状を実現している。

従来のバルブシート式の吸気流(左)と新バルブシートによる吸気流

この新しい工法は、アルミ合金製シリンダーヘッドの表面に異種の金属粉末を超音速で吹き付けることで、強固な被膜を形成する。

材料の融点以下で施工するコールドスプレー技術は、材料を溶融することなく異種材を接合できるため、通常の溶融接合で課題となる被膜と基材の界面での金属間化合物の過剰生成や基材が溶融することで発生する微小な空洞形成(ポロシティ)などの現象を抑え、類似工法に比べ高い熱伝導率でバルブ周りの冷却性を向上させ、かつ高い耐久性と信頼性も実現している。

コールドスプレー加工により生成されたバルブシート部分

この技術の適用にあたっては、熱伝導性に優れる銅系材料をベースにしたコバルトを使わない専用材料の開発や、鍛造金型製作の研磨技術を応用した内製のノズルや最新のAI技術による品質保証など、長年にわたり蓄積してきたパワートレイン設計・材料・生産技術の全てが活用され、自動車用エンジンへの適用は世界初となる。

なお、、STARCコンセプトとは「Strong Tumble & Appropriately stretched Robust ignition Channel」の頭文字で、高速の強いタンブル流をギャップの広い点火プラグのリーチ部に最適に導き、着火させることで、再循環された排気ガスを含む混合気の燃焼効率を高めることを意味している。

このシステムのメリットは、大掛かりなメカを使用しないでリーンバーンを実現できることだが、そのためにはより高速なタンブル流を形成することがキーになり、それを支えるのがバルブシート・レスの技術なのである。

なお、この新型キャッシュカイ用のエンジンは、日本市場には新型エルグランド、新型エクストレイルに導入される計画になっている。

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