日産は可変圧縮比のVCターボエンジンを、次世代のe-POWER用エンジンに採用すると発表した。日産は電動化を推し進める一方で、モーター駆動を支えるICEにおいても開発も進めており、そのうちのひとつとしてe-POWER+VCターボを公表した。
VCターボとは可変圧縮比エンジンのことであり、主に北米で販売する日産/インフィニティブランドの車両に搭載しているガソリンエンジンだ。そのため、国内ではなかなかテストする機会もなかったが、今回日産の追浜にあるテストコースで試乗することもできた。
では、なぜe-POWER用にVCターボエンジンが採用されるのか、という点で現状のe-POWER用エンジンをみてみると、3気筒1.2LのNAエンジンを搭載し、そのエンジンで充電をするシリーズ式ハイブリッドだ。車両はその充電された電力でモーターを駆動し、全速域モーター走行という仕組みになっている。搭載するリチウムイオン電池の容量は車両によって多少サイズが違うものの、1.5kWhや1.8kWhなど、おおむね2kWh以下で、かなり小容量バッテリーを使用している。
モーター走行をするプラグインハイブリッドではあれば10kWh程度は搭載するし、リーフのような電気自動車であれば40kWhほどは搭載している。つまり、小型バッテリーであるため、すぐに電池切れを起こし、充電するためにエンジンが頻繁に稼働する必要があるというのがe-POWERの実態だ。そのため日産はエンジンの存在をでき限り消す努力をしており、静粛性を高め、まるでEV車のような走行フィールを演出しているわけだ。こうした技術努力によって小容量であることを補っていることになる。
そのエンジンに着目すると、3気筒1.2Lエンジンは充電状況が良ければエンジンは停止し、不足すると稼働する。電池消耗が激しい高速運転になるとエンジンは一生懸命充電するという状況になり、小容量のバッテリーを使い切ったあとは、エンジンによる充電能力に依存するわけで、そこには「効率」が求められるわけだ。そこで日産はVCターボに着目し、次期e-POWER用エンジンに採用したということになる。
さてVCターボとは
現在のVCターボはQX55、アルティマなどに搭載され、2.0L 4気筒で出力は272ps/39.7kg-mなので、200kW/390Nmとかなり高出力なガソリンエンジンである。レギュラー仕様でも252ps/38.7kg-mの出力を発揮しているのだ。その仕組は、圧縮比8から14まで可変となる構造で3つのリンクを介したレイアウトになっている。
その動作と構造はアニメーション動画で日産の公式Webサイトに掲載されているので、ご覧いただくとイメージが伝わると思う。
https://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/vc_turbo_engine.html
このエンジンは、過給器(ターボ)を使っているため低圧縮時には高過給でき出力を上げられる。また高圧縮のときはNAのように効率よく動かせるといのがVCターボの基本的な考えだ。マツダのスカイアクティブ-GもNAで高圧縮比なのは、高効率になるからだ。
VCターボでは、そのためアクチュエータを使った3つのリンク構造とし、ピストントップ位置を変更して圧縮比を変えている。最大で6mm高さが変わるという。ピストンはコンロッドでつながるが、これをU-Link(Uppr Link)でピストンとつなぎ、クランクシャフトにつながる手前でL-Link(Lower Link)と繋ぐ。このロワリンクの角度が変わることでストローク量を可変させることが可能になり、圧縮比が変わる構造だ。さらにロワリンクの角度を動かすためにアクチュエーターを使い、そこにはコントロールシャフトとAリンクを介してコネクトしている。
これだけのリンクを使うとシリンダーブロックの大きさや重量といったことが課題になりそうだが、実際は通常の4気筒エンジンには振動を抑えるためのバランスシャフトがあり、この構造にすると振動は抑えられバランスシャフトが不要になる。そのため、重量やサイズは相殺できるレベルに収まっているという。
また、こうした構造によりピストンとつながるUリンクは垂直に上下するため、ピストンがシリンダー内壁に触れるスラスト(摩擦抵抗)が起こらず、通常と比較し1/4程度の抵抗となり、効率よく上下運動ができるメリットもあるという。
さらにLリンクにはテコの原理が作用し、少ない力で効率よく燃焼させるキーでもある。ピストンは爆発力で下に押し下げられるが、このときクランクシャフトにつながるLリンクには、クランクピン荷重が1.9倍の入力荷重があるという。それだけ爆発する力の仕事量を変えられるメリットがあるわけだ。
一方シリンダーヘッド側では各気筒への直噴の他に吸気ポートでも燃料噴射をし、20MPaの噴射圧と3回のマルチ噴射を行なっている。もちろん、技術トレンドである高速燃焼も目指している設計になっている。
そして次期型VCターボ
そして現状のVCターボエンジンをさらに進化させ、次期型が開発されている。そこには2通りの制御があり、ひとつは従来のVCターボをより高効率化したもの、そしてもうひとつがe-POWER向けに開発したユニットになる。
今回はe-POWER用に開発したエンジンの実機はなく、進化型ユニットには試乗することができた。まず、進化型VCターボは3気筒1.5Lとなり、出力は204ps/31.1kg-mで、V6型3.0L並みとなっている。第2世代となったVCターボは新型ローグに搭載されている。
進化したポイントは大量EGRを採用している点だ。圧縮比は従来と同じ8〜14の間で可変しクールドEGRを約20%使用する環境性能を持たせている。一般的に過給域ではEGR量が少なくなるが、アドミッションバルブというスロットルチャンバーを使うことで、過給域でもEGRを供給することが可能になっている。EGR率20%という高い使用比率にすることで、低負荷時でもスロットル開度を大きくし、ポンピング損失を最小化している。もちろん、高速燃焼というトレンドも盛り込んでおり、NOxやPMといった排気ガスクリーンに対応しているのは言うまでもない。
EGRの採用に際しレイアウトは、吸気口→エアクリーナー→アドミッションバルブ→ターボコンプレッサー→インタークラー→エンジンという順番で、EGRはタービン直後の触媒のあとから取り出してコンプレッサーの上流に戻しているので、過給域でもEGRはかかるというわけだ。
こうした仕様で第2世代はまもなくデビューする。そしてe-POWER向けのVCターボの詳細は今回明らかにされていないが、新型1.5LのVCターボユニットとは異なる制御となり、現行のe-POWER用エンジンをより高効率化し、電池の充電状況がよい時には高圧縮で、高効率で運転し、そして充電が急務になる状況では低圧縮で過給し出力を稼ぐという運転ロジックで制御さたエンジンとしてデビューする。
じつは、日産は2021年2月に次期型e-POWER用エンジンの概要説明を行ないSTARC燃焼技術を搭載したガソリンエンジンの開発を発表しているが、実用までにはもう少し時間がかかるということなのだろう。この第2世代のe-POWER用VCターボエンジンには、まだSTARC燃焼技術は採用されていないものの、部分的には採用し、今後の知見を積み重ねて実用化というロードマップだと想像する。
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さて、VCターボの概要をお伝えしたが、実際に乗ってみてどうなのかもお伝えしておこう。
試乗車は2019年に北米・中国で発売しているアルティマで、Dセグメントサイズのセダン。トヨタ・カムリ、ホンダ・アコードがライバルになる位置づけだ。こちらはレギュラー仕様のVCターボエンジンを搭載しCVTが組み合わされている。レッドゾーンは6500rpmであの3つのリンクシステムが高速で回転するイメージを持ちながら試乗した。
2.0L 4気筒ターボで低回転からトルクのある走りができる。エンジン音は6気筒とは違う音でやや太めの音。意外とスポーティなサウンドである点も美点と言えるだろう。3000rpmを超えるとかなりスポーティな走行が可能で、CVTのメリット活かし高回転を維持するとワインディングが楽しくなるようなレスポンスのいいエンジンという印象だった。
そしてハイオク仕様は新型QX55に試乗した。200kW/390Nmというスペックで、目標はV6型3.5L並みとしているが、はるかに凌駕できるレベルに到達している。こちらはアルティマとガソリンの仕様が異なるだけなのだが、エンジン音の印象は少し乾いた音を感じる。車型や車格の違いから静音や吸音といった装備の違いがあるため、単体での比較は難しいが、いずれも心地よいサウンドという印象だった。このインフィニティQX55はアウディQ5やBMW X3とライバル関係にポジションしているので、高級感といった要素もエンジンには求められているということだ。
そして第2世代のVCのターボの試乗車は新型ローグに搭載されていた。こちらは1.5Lターボで3気筒になり、開発目標はV6型3.0L並の出力だが、こちらもそれ以上のパワー感がある走りはできる。特にスポーツモードを選択するとエンジン音が変わり力強さをより感じられるのだ。メーターには圧縮比メーターや過給圧が表示されていたが、正確には読み取れなかったが1.5Barほどの過給が行なわれていたと思う。
つい先ごろEU政府から2035年にICE搭載モデルの販売禁止ということが発表されたが、まだまだICEを必要とする国々は多くあり、また電源構成自体がEU内でも整備できていないこともあり、このまま実施されるか不透明だ。そうしたヒステリックにも思える政策が振りかざされるが、日産はしっかりICEの開発も並行して電動化を進めているということなのだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>