【将来のクルマづくりへ インテリジェントモビリティ】e.ダムス監督インタビュー:シリーズチャンピオンを目指すnissan e.damsの実像

フォーミュラEシーズン5 2018/19
雑誌に載らない話vol270
いよいよ今週末の2018年12月15日、サウジアラビアのリヤドで開幕する。第5シーズンとなる今季はマシンが大幅に変更され、ジェネレーション2(Gen2)へと進化。これまで行なわれていたマシンの乗り換えという奇怪な行為もなくなり、いわゆるフォーミュラのスプリントレースが市街地で繰り広げられるわけだ。そこで今季からフォーミュラEに参戦する日産のチームe.dams監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏にインタビューした。

1/3では日産のグローバルマーケティング常務執行役員ルードゥ・ブリース氏にインタビューし、なぜ日産がフォーミュラEに参戦するのか?その意味をお伝えした。そこで、参戦するにあたり、レーシングチームと契約することになり、選ばれたチームはフランスの名門dams(ダムス)で、フォーミュラE部門がe.dams(イー.ダムス)であり、共に戦うことになった。
※関連記事:【将来のクルマづくりへ インテリジェントモビリティ】インタビュー:フォーミュラE参戦体制から見る日産の将来のクルマづくり

e.damsチームのオーナーであり監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏
e.damsチームのオーナーであり監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏

チームへは日産が投資を行ない株式も所有するという濃密な関係を構築し、日産のスローガン「インテリジェントモビリティ」の基幹事業のひとつという位置づけでスタートする。

日産は実績のあるフランスのe.damsチームで参戦

このe.damsチームはかなりのモータースポーツ好きであれば、良く知るチームだろうが、1988年にオーナーであり、監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏によって設立されている。2018年12月で創立30年を迎える老舗名門レーシングチームだ。そして今季のフォーミュラEのドライバーはセバスチャン・ブエミ、オリバー・ローランドの2名とリザーブドライバーに日本の高星明誠(たかぼし みつのり)、そしてシミュレーションドライバーにヤン・マーデボロという体制で挑戦する。

日産e.damsチーム。22号車と23号車を走らせる。左から、オリバー・ローランド、セバスチャン・ブエミ、監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏、日産グローバルマーケティングのルードゥ・ブリース氏、日産グローバルモータースポーツダイレクターのマイケル・カルカモ氏、リザーブドライバーの高星明誠、シミュレーションドライバーのヤン・マーデボロというメンバーで戦う
日産e.damsチーム。22号車と23号車を走らせる。左から、オリバー・ローランド、セバスチャン・ブエミ、監督のジャン=ポール・ドゥリオ氏、日産グローバルマーケティングのルードゥ・ブリース氏、日産グローバルモータースポーツダイレクターのマイケル・カルカモ氏、リザーブドライバーの高星明誠、シミュレーションドライバーのヤン・マーデボロというメンバーで戦う

編集:「これまでe.damsはフォーミュラEにおいても好成績を収めていますが、他のチームに対してどのようなアドバンテージがあって勝利を勝ち取ることができるのでしょうか」

ドゥリオ:「レース界で30年会社が存続すること自体凄いことだと感じています。私は常に情熱を持ってモータースポーツに取り組んできて、『仕事』だと思って関わったことはありません。収入は他の事業からの収益で運営し、あくまでもモータースポーツはパッションを持って勝つためにやってきました。また、勝つための戦略を考えることや、ドライバー、エンジニア、メカニックたちをマネージメントすることが楽しく、その結果として勝利を得てきたと思っています」

e.damsは2014年からフォーミュラEに「チーム・e.dams・ルノー」として参戦している。フォーミュラEが発足してから3年連続でチームタイトルを掴み、またフォーミュラEにおいて最多勝利と最多ポールポジションを獲得という記録も持っている。残念ながら前シーズンはアウディ・スポーツ・アプト・シェフラーのe-tronFE04にシリーズチャンピオンを奪われたが、高い戦闘能力を持つチームであることはよくわかる。

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エネマネとソフトがポイント

編:今年のシーズン5からレギュレーションが変わりマシンも変わります。そしてルノーから日産に変わりますが、チームの戦闘力はどの程度まで整っているのでしょうか?

将来のクルマづくりへ インテリジェントモビリティ

ドゥリオ:「シーズン5は45分+1周でレースが開催され、マシンの乗り換えはなくなります。またバッテリーは全チーム同じマクラーレン製が供給され、タイヤもワンメイクです。その中でもっとも重要になるのがエネルギーマネージメントとソフトウエアです。そこが勝利の分かれ道でしょう。我々は2018年3月から日産と一緒にマシン開発を行なっていて、最初はルノーと日産では哲学が違うので、日産の人たちに適応していく必要がありました。当初はよくわかりませんでしたが、今ではお互いをよく知るようになり、お互いベストな環境となるように取り組んでいます。それでうまくいっていると思います」

「マシン開発のテストはルールで15日間と決められているので、その多くを新しいパワートレーンの開発に集中しました。シーズン4のマシンとはすべてが異なり、100%別のパワーユニットです。と同時に、ソフトウエアの開発もやり、最後にシャシーに搭載してセットアップするという順番でした」

編:シミュレーターについてお聞かせください。

ドゥリオ:「エネルギーマネージメントがポイントになるのですが、シーズン4まではそれほど複雑な計算は要らなかったんです。ですが、今季からはあらゆる可能性をシミュレートし、どれだけのエネルギーが使えるのかを即座に算出しなければなりません。レースではFIAからレースの2~3時間前に使用できるエネルギー量の通達があるので、それに対応したモデルを組まなければなりません。レース時間の50分、55分といった時間で最後までたどり着くにはどうしたらいいのか?という戦術です。エネルギーを使い過ぎては失格となるわけで、どれだけエネルギーマネージメントができるのか?という勝負になります。ですからシミュレーションとソフトウエアが重要になってくるわけです」

将来のクルマづくりへ インテリジェントモビリティ

編:それはシーズン4までの乗り換えをしていた時代とは、比べられないほど複雑なのでしょうか?

ドゥリオ:「その通りです。とても複雑でシーズン4とは、比較になりません。これまではそうしたエネルギー消費のソフト開発は進んでいなくて、クルマとして進化させるには、フォーミュラEのようなレースの中でソフトやシステムを開発して、より高度化していく必要があると思います。おそらくリーフというクルマもいろんな人に乗ってもらうためには、高度化したものが必要になるし、いいクルマに進化してもらう必要があるからだと思っています」

次世代モビリティ開発の最先端

編:ところでレースでは、どこのチームが強力なライバルだとお考えでしょうか?

ドゥリオ:「シーズン5はカーメーカーもメガサプライヤーもあり、どのチームが・・・というのではなく、みんな強豪で強力な技術を持っています。重要なのはパワートレーンのエネルギーマネージメントとソフトウエアの開発。そしてシャシーのセットアップがあり、ドライバーがポイントになります。週末、サウジアラビアのリヤドにみんなが集まって、同じコースを走り始めるまで誰が強豪なのか見えづらいです。いまだパワートレーンに苦しんでいるチームもあるでしょうが、週末までには修復し戦うことになります。今回からはBMWもメルセデスもシトロエンもそしてシェフラーやZF、そして日産も参戦します。繰り返しますが、もっとも重要なのはレースのためのソフトウエア、エネルギーマネージメントのセットアップ。そこがキーになります」

左)日産グローバルモータースポーツダイレクターのカルカモ氏と監督のドゥリオ氏
左)日産グローバルモータースポーツダイレクターのカルカモ氏と監督のドゥリオ氏

2018/2019のシーズン5は全13戦が予定されており、すべて市街地でのレースになる。マシンも一新され、共通の空力ボディ『Gen2』マシンで戦う。レース中の出力は200kW(272ps)で走行し、今季から新たにアクティベイトゾーンと呼ばれる走行区間が追加され、そこを走行するときは225kW(306ps)まで出力を上げられる。またオンライン投票によるファンブーストも継続して行なわれ、人気投票の上位3名のマシンはレース中に1回だけ予選時と同様の、最大250kWに出力を引き上げることができる。なおバッテリー容量は52kWhで市販のリーフが40kWhほどなので、近似値として参考になる。

そして、タイヤはミシュランの18インチタイヤで、市販タイヤへのフィードバックを含め、タイヤ開発の為に参戦し、溝のあるタイヤで走行する。ミシュランとしてみれば市販タイヤに即フィードバックできる知見があるといことだろう。またフォーミュラEのエネルギーマネージメント、ソフトウエア開発も市販車輌へのフィードバックが多数あるという。したがって、自動車メーカーにとどまらず、参戦するすべての企業にとって、次世代車両の最先端技術がフォーミュラEという戦場だということだ。autoprove読者の多くは、このフォーミュラEというモータースポーツは、非常に興味深いレースということになるだろう。

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