日産自動車と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(本部:東京都千代田区)自動車ヒューマンファクター研究センターは2018年7月5日、共同研究として実施した「ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響」に関する実験結果を発表した。
実験では、アクセルペダルの操作だけで加速や減速を行い、ブレーキペダルへの踏みかえ回数を減らした新しいペダル操作(以下:ワンペダル操作)での運転時の心理状態および脳活動を、アクセルペダルとブレーキペダルの操作で加速や減速を行う従来のペダル操作(以下:ツーペダル操作)での運転時の心理状態および脳活動と比較した。
心理状態については運転後の質問紙調査から、ワンペダル操作での運転時に「運転がより楽しく感じられる」ことが示された。脳活動については、運転中に計測した脳波から、ワンペダル操作での運転が楽しさの重要な要因の一つである運転への集中状態を自然に引き出しうることが示された。
つまり、従来のペダル操作に対し、踏みかえ回数を減らしたペダル操作のほうが“より運転を楽しく感じる”ことを科学的に検証されたということになる。
【研究概要】
研究期間:2018年1月5日〜3月14日
場所:茨城県内の一般道路(細くうねった道路、混雑・渋滞のある市街地・駅前道路、跨線橋、カーブが連続する自動車専用高架道、などを含む、一周約11.3 kmのコース)
実験参加者:12名(男女各6名、平均年齢43.4歳、最低年齢22歳、最高年齢55歳)
使用車種:日産「ノート e-POWER」
主な内容:各実験参加者が、二つのドライブモード(ノーマルモード(※1)、及びSモード(※2))で、交互に12回ずつコースを運転した。運転中に脳活動(脳波)を計測し、運転後に心理状態(質問紙)を計測した。主に運転の「楽しさ」の観点から、ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響を解析した。
※1 ノーマルモード:アクセルペダルを戻した際の減速度がガソリン車と同等のモード(文中:ツーペダル操作)
※2 Sモード:ノーマルモードに比べ、アクセルペダルを戻した際の減速度が強いモード(文中:ワンペダル操作)
【研究結果】
質問紙調査の結果、ツーペダル操作に比べ、ワンペダル操作での運転時に、「運転が楽しかった」の項目に対する評定値が統計的に有意に高かった。
脳波計測の結果、ツーペダル操作に比べ、ワンペダル操作での運転時に、注意状態を客観的に評価する方法の一つである課題非関連プローブ法(※3)における聴覚N1成分(※4)が統計的に有意に減衰した。
これまでの研究から、この課題非関連プローブ法における聴覚N1成分の減衰が、楽しさの重要な要因である運転への自然な集中(運転に配分される注意資源量(※5)の増加)を反映することが示されている。
なお、これらの質問紙調査および脳波計測で観察された効果は、実験の前半から後半まで一貫して生じていたことから、ワンペダル操作が実験参加者にとって新規なものであったため、あるいはワンペダル操作に対する慣れが不足していたために生じた効果とは考えにくい。
これらの結果から、ワンペダル操作での運転が、運転者にとってより楽しいこと、ならびに楽しさの重要な要因である運転への集中状態を自然に引き出すことが示された。
※3 課題非関連プローブ法:作業者に対し、作業とは関係のない音刺激(プローブ)を呈示し、プローブに対する脳反応の大きさから注意状態を推定する方法。作業者が作業に集中するほどプローブに対する脳反応は小さくなる。
※4 聴覚N1成分:音刺激の呈示直後の脳波を平均化することで算出される聴覚誘発電位の一成分で、主に聴覚野における音の情報処理を反映する。
※5 注意資源量:心理的エネルギーのことであり、私たちが行う様々な作業はこのエネルギーの配分をうけて実行されると考えられている。例えば、一つの作業に集中すると、作業とは無関係な音は耳に入らなくなる。私たちが日常的に経験するこの現象は、利用可能な注意資源の総量には限界があり、ある作業に多くの注意資源が配分されると、音の処理に配分できる余剰の注意資源が減少するからだと説明される。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 自動車ヒューマンファクター研究センター
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