2014年3月13日、日産と日産アークは、リチウムイオンバッテリーの充電、放電時の正極材中の電子の動きを直接観測し定量化できる世界初の分析手法を開発したと発表した。この分析手法をバッテリー材料の研究開発に適用することにより、高容量、長寿命のバッテリーの開発が可能となり、将来のEVの航続距離の拡大やさらなる耐久性の向上につなげることができる。
これまでリチウムイオン電池の内部での電子の動きを正確に把握することは困難とされてきたが、日産の100%出資会社である日産アークは、東京大学、京都大学、大阪府立大学と共同で、リチウムイオンバッテリーの充電、放電時に正極材を構成する元素のどの元素から、どのように電子が放出されたかを正確に把握することが可能となる分析手法を開発した。
日産自動車常務で日産アーク社長の浅見孝雄氏は、「この分析手法の開発は、高容量の次世代リチウムイオンバッテリーの開発に欠かせない、非常に重要な基盤技術となります。この手法を研究開発に適用することで、ゼロエミッション車のさらなる航続距離の拡大に大きく貢献するものと期待しています」と語っている。
高容量、長寿命のリチウムイオンバッテリーを開発するには、電極活物質にできるだけ多くのリチウムを蓄え、多くの電子を発生できる材料の設計が必要で、そのためにはバッテリー中の電子の動きを把握することが重要となるが、今までは直接電子の動きを観察することができなかったため、電極活物質のマンガン、コバルト、ニッケル、酸素などのどの元素からどの程度電子が放出されているのかを定量的に識別することができなかった。
今回開発した分析手法は、L吸収端(X線のエネルギー:波長を変えた際に、X線の吸収量が急激に増えるエネルギーの値。電子のいる軌道により、内側からK吸収端、L吸収端などと呼ばれる)を用いるX線吸収分光法とスーパーコンピューター「地球シミュレーター」を用いる第一原理計算(実験値を使わずに理論的に電子状態を計算する手法)を併用した新しい方法を採用。これまでもX線吸収分光法を用いたバッテリーの解析は行なわれていたが、K吸収端を利用したものが主流であったため電池反応に直接関与する電子ではなく、原子内に束縛された電子(原子核に近く、原子核から離れにくいため充放電に関与しない電子)しか観測できなかった。今回の分析手法では、L吸収端を利用したX吸収分光法を用いることで、電池反応に関与する電子の流れを直接観測できるようになった。さらに、「地球シミュレーター」を用いた第一原理計算を組み合わせることで、今まで間接的に推定するにとどまっていた電子移動量を高い精度で得ることが可能となったという。
今回の開発は、長年の課題である、充放電時に流れる電流の起源を明らかにしながら、定量的に把握する、という手法を世界で初めて可能としたこと。これによって電池内部で起こっている現象、特に正極材に含まれる活物質の挙動を正確に把握することができ、より高性能、長寿命を可能とする電極材料の設計が可能となったわけだ。
日産アークは、この手法を使用してこれまでの容量の約1.5倍となる高容量正極材料の有力候補として期待されているリチウム過剰系高容量正極材料に適用し分析したところ、高電位状態で酸素に帰属する電子が充電反応に寄与していること、また、放電時にはマンガンに帰属する電子が放電反応に寄与していることを明確にとらえることができた。これらの分析結果は、この新しい正極材料の実用化、さらなる高容量、長寿命のバッテリー開発に向けた大きな一歩となるとしている。