【日産】新中期計画「日産パワー88」で攻勢姿勢を明確に

雑誌に載らない話vol30

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http://www.nissan-global.com/EN/REPORT/110627-02.html

日産自動車の株主総会に先立つ2011年6月27日、横浜市のグローバル本社にてカルロス・ゴーンCEO自らが同社の新しい中期経営計画「日産パワー88(エイティエイト)」を発表した。この計画は2011年度から2016年度までの6年間にわたる、事業計画のいわば公約なのだ。

6週間に1車種の新型車を投入予定

その概要は以下だ。

1. 平均して6週間に1車種のペースで新型車を投入。6年間の計画終了時には66車種を揃えて、世界のマーケットにおけるセグメントの92%をカバーするフルラインアップ体制を整える。
2. ゼロエミッション、ピュアドライブというふたつの環境戦略のもと、低燃費技術を取り入れた車種ラインアップを拡充し、ルノーと日産を合わせ5年間で150万台の電気自動車を販売する。
3. エントリー市場、新興国市場をターゲットにした新型車、小型商用車を投入する。
4. 90以上に上る先進技術を実際に商品に搭載する。年平均で15件の新技術投入になる。

このようなビジョンのもとで、2016年度までにグローバル市場占有率を8%(2010年度で5.8%)に、そして売上高営業利益率を8%(2010年度で6.1%)に引き上げるとしている。

この計画は、6年間での戦略目標を明確にし、さらに3年ごとの数値化した重点目標を設定して推進するという。そして世界シェアの拡大、特に成長市場でリーダーになることを目指すわけだ。

まず商品ラインアップは、日産ブランドとインフィニティブランドの車種重複を解消しながら車種の増大を図る。現在の64車種に対して13車種を削減し、15車種を新投入し、2016年度には66車種にする。たとえば次期アルティマとティアナ、エルグランドとクエストの統合を行うのだ。

そして、2011年度からは6週間に1台の割合でモデルチェンジを含む新型車を発表し、2016年度までには51車種の新型車を投入することになるという。
その中で、特に重視されているのが新興国市場などで成長が見込まれる新型ティーダ。さらにアルティマ、ティアナ、キャッシュカイとされている。

インフィニティブランドは、現在の7車種&36市場を10車種&71市場に拡大強化し、プレミアムブランドのシェア10%を達成するという。そのために、インフィニティJXクロスオーバー(2012年春投入)、インフィニティEV(2014年投入)の投入が予定されている。

ブランド戦略ではインフィニティを強化する。

さらに車種的には新興国向けの車種の拡大(日産/ルノー共同開発のVプラットフォーム=Bセグメント/FF用を拡充する)と、ニューヨークの次期イエローキャブがNV200に決定したことに象徴される小型商用車の拡大が重点目標とされる。

5年間でEV150万台の販売を目標に

こうした88計画の実現を支えるのがブランド、セールス、クオリティ、ゼロエミッションにおけるリーダーシップ、事業の拡大、コストリーダーシップという6本の柱としている。

1. ブランド戦略では、カスタマーファーストの徹底。
2. セールスにおいては、販売ネットワークの拡大とカスタマーロイヤリティの向上。
3. クオリティ向上の面では、日産は商品品質を高めてグローバル自動車業界のトップグループを、インフィニティはラグジュアリーブランドのリーダーを目指す。
4. ゼロエミッションにおけるリーダーシップでは、2016年までに日産とルノーで150万台のEVを販売するとともに、社会全体でのゼロエミッションライフ化のリーダーとなる。
5. 事業拡大の側面では世界シェア8%を目標にするとともに、インフィニティ事業の拡大、小型商用車事業の拡大、ブラジル/インド/ロシア/アジア5カ国でのシェアと存在感の拡大。
6. コストリーダーシップ。ここでいうコストとはクルマの開発・生産のみではなく輸送、販売コストも含み、車種統合、プラットフォームの効率的統合、部品の現地調達化などを含めて年間約5%のコスト低減を行う。

事業の拡大について、マーケット別に見ると、中国市場は10%(現状は6.2%。日本車ではトップ)のシェア拡大を目標に、日産とインフィニティの2ブランドのラインアップ拡充に加え、ロングホイールベース版など専用車種の投入、合弁事業を展開している東風汽車の自社ブランド、ヴェヌーシアの共同開発も行う。21012年初旬には生産能力は現在の2倍に当たる120万台体制にするとしている。

北米でもさらに生産能力を高め、メキシコではトップメーカーの座を守ることをコミットメント。

ブラジルは現時のシェア1.2%を2016年度に5%以上に高めるため、新工場を建設し年間20万台の生産体制を固める。

ヨーロッパではアジアブランドで最大の販売台数とすることが目標だ。

またロシアでは2016年度までに日産のシェアを7%とするとしている。実はロシアは、アフトワズ(AVTOVAZ)社のブランド、ラーダはすでにルノーと日産が2008年以来支援しており、さらに今年中にはルノーがラーダの母体であるアフトワズとも提携を結ぶことで、日産単独のシェアと合わせるとロシアではルノー&日産で40%にもなるシェアを占めることになるはずだ。
ルノーF1チームがアフトワズと関係が深いというロシア人ドライバー、ペトロフ選手を起用しているのも深謀遠慮だったのだ。いずれにしてもロシアにおけるルノー&日産は、他のメーカーにとっては脅威となることは間違いない。

インドではアショクレイランド社と提携・合弁し、チェンナイ工場で新型車5車種を生産する計画だ。
またインドネシアではジャカルタ近郊の工場で年産5万台から10万台に増強。アジアのハブ工場であり戦略拠点となっているとなっているタイ日産の生産拡大を合わせ、アジア5カ国(フィリピン/ベトナム/タイ/マレーシア/インドネシア)でシェアを6%から15%に引き上げる。

ゴーン社長は、「日産パワー88」は今後の世界経済の動向にも大きく左右されるので必達目標ではないとしながらも、「ハードルは高いが、この目標は達成できると信じている」と語っている。

実はゴーン社長にとっては、この日産パワー88がグローバル市場に向けての初めてのきわめて積極的な攻勢計画となるのだ。ゴーン社長はルノーと日産が提携した段階では日産の復興が緊急課題となり、これを成功させた直後からは不振に陥ったルノーのてこ入れに追われた。

これにメドが付いた現時点で、初めて日産・ルノー連合による世界市場に向けての成長戦略を描くことができたと言える。
日産・ルノーの有利な事実として、急成長する中国では日産が日本車としてナンバー1としての地位を固め、ロシアではルノーが大きな成功を収めようとしている。さらに日産・ルノーは4月にダイムラーと提携し、ヨーロッパ市場、インフィニティで大きなメリットを引き出す計画が進行している。両社は3.1%ずつの株式を持ち合うという戦略的な提携なのだ。

現在のところ、次世代スマート・フォートゥーとルノー・トゥインゴの協業、およびそのパワートレインの共同開発、共有、ダイムラーのインフィニティ向けV6エンジンの供給、小型商用車での連携などについて交渉が煮詰められているが、ゴーン社長の説明ではダイムラーからのV6エンジンの供給がほぼ確定していると考えられる。

↑インフィニティ・エッセンスの市販型には、メルセデス製エンジンの搭載も現実味を帯びてきた

インフィニティにとっては最新技術の高性能V6エンジンが入手でき、ダイムラーにとっては高コストのエンジンの生産数を上げることでコスト削減をはかることができるという、まさに双方にメリットのある戦略的な提携と言える。もちろんスマートとルノー・トゥインゴの協業もお互いに大きなコストダウン効果が期待できる。

ゴーン社長は、「日産とルノーの提携はもっとも成功した事例ですが、ダイムラー社との提携もお互いにメリットをもたらす提携となる」と、大いなる自信を語っている。
今回の計画発表時にゴーンCEOは、「日産はEVだけにエコ技術を集中しているわけではない。EVは先頭を切ったことで当分の間リーダーシップを確保できるが、燃料電池車なども開発している。そしてそれはダイムラーと協業することで大きなメリットを引き出すことができる」と語っている。ルノー・日産とダイムラーの提携は、かなり大きなインパクトを持っていると断定してよさそうだ。

文:編集部 松本晴比古

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