マニアック評価vol30
日産セレナは1991年の初代発売から4代目となるフルモデルチェンジを受けて登場した。セレナは広い室内空間、運転のしやすさ、多彩なシートアレンジという特徴が継承され、小型ミニバンクラスで09年からトップセールスを3年連続記録している人気モデルでもある。
モデルバリエーションは、2WDと4WDがあり、エンジンは2.0L直噴NAの1種類である。ミッションも全グレードCVTで、あとは装備によってグレード設定がされている。今回試乗したモデルは2WDのハイウエイスターで、コースは高速道路と市街地を走行してきた。
クルマに乗り込み最初に感じるのは、運転席からの視界の広さだ。フロントウインドウが大きく、Aピラー部に三角窓を採用することで、パノラマチックな視界が確保されている。死角の少ない広い視界が開放感をつくり、ドライバーの安心感へとつながるものだ。
走り出しでは、ハンドルが非常に軽いという印象を受ける。しかし、「低速域でも直進安定性は確保され、またハンドルのセルフアライニング・トルク(切ったハンドルが自然にもどろうとする力)もキチンとあるので、ハンドルが軽すぎてキョロキョロしてしまうなどの不安はない。ハンドルのセンター付近でのニュートラルもしっかりある」とジャーナリストの松田秀士氏。
↑ジャーナリスト松田秀士氏
これは、多くのユーザーが車庫入れなど、微低速でのハンドル操作は7割から8割の人が軽いものを好む、という日産のデータに基づいたものだそうで、クルマに乗り慣れている人ほど重い操作感を好むというデータもある、ということだ。セレナというクルマの性格上、ママさんドライバーも多くいるわけで、できるかぎり軽い操作感が必要であるわけだ。しかし、中速域から高速域へと車速があがるにつれて、この操作感も車速に比例して重くなり、高速走行ではちょうどいいと感じる重さになるように設定されていた。ハンドルを少し切った小舵角時の反応でも、クイックに反応することもなく、おだやかに方向を変える。
乗り心地は、「ハイウエイスターということもあり、高速では少し突き上げ感がありますね」と松田秀士氏。このグレードにはハイスピードダンピングコントロール・ショックアブソーバーが採用されており、走行安定性を高めるダンパーに変更されている。
新型セレナにはエコというキーワードをもとに、新たな機能がいくつか追加されている。そのひとつにアイドルストップ機能がある。実際の市街地走行でも信号で停止する度に停止した。ひとくちにアイドルストップといっても、各社の性能には差があり、いくつかの条件が整わないと機能しない場合がある。セレナのアイドルストップ頻度は高いほうだろう。そして、何秒間停止し、何リッターガソリンを節約できたかという数値がモニターに表示されるために、ありがたみも増す。
エンジンの再スタートは、マーチと同じくステアリングを少し動かすだけでも再スタートできる。交通量の多い交差点内でエンジンが停止しているのは、どことなく不安になるものだし、その際に、ブレーキから足を離すことなく再始動してくれると安心感につながる。また、再スタートの始動にはセルモーターのクランキングがなく、日産独自の技術であるECOモーターを利用して再始動する。この聞き慣れないECOモーターはオルタネーターを利用した仕組みで、ギヤが飛び出してクランキングするセルモーターと違い、オルタネーターにかかるベルトでダイレクトにクランクシャフトをまわす仕組みを持っている。
「室内空間がこれだけ広いと、セルの音は室内に広がると思うけど、ECOモーターだと静かだよね。これなら振動や音で、寝ていた子供が目を覚ますなんてことがないと思うよ」松田秀士氏談。
もうひとつの機能に、ブレーキ回生エネルギーを利用したバッテリーの充電を行うシステムがある。これまで、捨てられていたエネルギーを利用したエコ機能だ。この機能でエンジンにかかる負担を軽減でき省燃費につながるものだ。もちろん、エンジン本体も先代モデルのポート噴射式から、筒内噴射という直噴エンジンに変更されており、エンジン自体での省燃費性能をあげ、パワー&トルクも向上させることに成功している。
加速性能ではCVTとのマッチングが非常によく、違和感なくなめらかに加速していく。とりわけ、「低速域のトルクが先代モデルより太くなっているため、市街地でのストップ&ゴーではなめらかに、スムーズに走ることができた」と松田秀士氏は高評価している。
車載能力もこのクラスには求められる重要なファクターだが、2名乗車で26インチ自転車が4台収納できる大きさを持っている。また、3列目後方のラゲッジスペースには大型のアンダーボックスがあり(エルグランドにも採用)B型ベビーカーやゴルフバッグ1本がすっぽり収まるスペースがある。
シートアレンジも自慢のひとつで、14バリエーションの多彩なアレンジが可能だから思い通りの使い方ができる。そして、小物などが収納できるポケットやボックスを数多く配置しているので、車内整理にひと役かってくれるだろう。
エクステリアでは、従来の四角いデザインからなめらかな流れを意識したデザインとなっている。さらにフロントバンパーやリヤコンビランプなどの形状を工夫することで、従来モデルより約8%の空気抵抗を減らすことができ、燃費性能を向上させている。
ドア開口部などは環状構造とし、ねじり剛性をあげる工夫がされ、走行安定性など安心できる運転感覚に寄与している。とはいえ、両側スライドドアの開口部は802mmと先代モデルより拡大され、乗降性の向上と使い勝手の向上も見られる。
このクラスのミニバンも販売激戦区であり、ライバルとなるノア/ボクシー、ステップワゴン、デリカD5などと比較し、使い勝手のよさ、室内空間の広さ、乗り心地のよさ、そしてエコ度などがいかにライバル車より優位であるかを、どこまでアピールできるかがポイントとなるだろう。
文:編集部 高橋明
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