【日産】ツークラッチ、トルコンレスでフーガハイブリッドデビュー

マニアック評価vol21
2010年10月26日、日産自動車は以前から開発していたフーガハイブリッドを正式発表。11月から発売を開始する。価格は577万5000円で、標準車のフーガ370GTに比べ約120万円高くなっている。

これまで、日産は2000年にティーノ・ハイブリッドを限定発売したり、2006年にはアメリカ市場で、トヨタのTHSIIシステムを搭載したアルティマ・ハイブリッドを、やはり地域限定で発売するなど実証実験を行ってきた経緯はある。がしかし、一気にハイブリッドカーの量産へと突き進まなかったのは経営的、政策的判断だった。ハイブリッド以外にEV、ダウンサイジング・ガソリンエンジン、スーパークリーンディーゼルを展開するというピュアドライブ戦略を練った上で、日産のハイブリッド戦略が構想された。一気に小型車までハイブリッド車を展開しようというトヨタやホンダとはかなり異なる戦略といえる。

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日産のピュアドライブ戦略では、ハイブリッド車は大型FR車に搭載するという方針が採用された。これはドイツのメーカーも同様で、ハイブリッドシステムの価格を吸収しやすく、燃費だけではなく、高性能を追求できるセグメントを選択したといえる。

ツークラッチハイブリッド

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フーガはFRモデルであるため、エンジン、トランスミッションは縦置きのFRレイアウトとなり、ジャトコ製7速ATユニットを利用しながらモーター、2個のクラッチを一体化した。このATミッションは、ケースやギヤ部分は通常のAT7速とまったく共通で、トルコン部分にクラッチとモーターを組み込んでいる。変速ギヤ後部にはNo2クラッチを配置している。おそらく、ジャトコ7速ATは開発時からハイブリッドシステムを組み込む前提であったのだろう。

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↑ジャトコ製7速ATとHV専用3.5Lエンジン

ハイブリッドシステムは、エンジンとモーター兼ジェネレーターの間にNo1クラッチを置き、7速トランスミッション後部に発進や変速時に作動するNo2クラッチを配置している。1モーター/2クラッチタイプのパラレル・ハイブリッドとなる。モーターは、エンジンアシストをする働きと、エンジンを停止させたモーター単独によるEV走行、そして減速エネルギー回生を受け持っている。

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モーターとクラッチを組み込んだトランスミッションには、トルコンを採用せずエンジン、モーターの駆動力はクラッチを介してダイレクトにつながるところに最大の特徴がある。つまり、フーガは発進時・変速時にトルコンではなく半クラッチ状態を油圧制御によって作り出しているというわけだ。

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↑通常トルコンがある箇所にモーターとクラッチを組み込んでいる。9cmの戦いだったと開発者は話す

先行したメルセデスやポルシェのハイブリッドはZF社のトルコンATを利用したシステムになっており、こちらはトルコンを持つので、発進時や変速時のトルク伝達がスムーズという特徴がある。

日産方式はトルコンのスリップによるエネルギーロスを排除できるが、その一方でエンジントルク、さらに瞬時に、最大トルクが立ち上がるモーターのトルクをコントロールしながら断続するクラッチ制御と、エンジン、モーターの駆動トルク全体の制御には相当に高度なチューニングが求められたはずだ。

ホンダのハイブリッドは、エンジンとモーターの間にクラッチを持たないため、走行中に気筒休止させるホンダ方式より摩擦抵抗の少なさでフーガのほうが有利であり、2個のモーターと大容量のバッテリーを積むトヨタのTHS?より合理的という判断をしたものと考えられる。

モーター出力は68ps(50Kw)、270Nmと強力だ。そしてエンジンは標準車の3.7Lではなく3.5L・V6が選択された。この3.5Lエンジンはハイブリッド用の専用エンジンとされているが、出力は306ps、350Nmと高出力タイプである。動力性能的には3.7LのVVELエンジンをはるかに上まわり、4.5LのV8エンジンを搭載した旧モデルに匹敵するという。

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↑モーター単体で68ps/270Nmという強力なパワーを持っている

その一方で、10・15モード燃費は19.0/km/Lで、ベース想定車に対する燃費向上率190%はプリウスに匹敵するレベルになっている。トヨタの同等クラス車との比較では、RX450hが19.4km/L、GS450hが14.2km/L、クラウンハイブリッドが15.8km/L。レクサスLS600hは12.2km/Lである。

フーガの燃費は、強力な低速トルクを生かしたハイギヤードな最終減速比(2.611.標準車は3.357。7速のギヤ比は同一)や、モーター走行の多用といった制御の設定にあるのだろう。モード燃費だけではなく実用燃費面でも、信号停止時はもちろん、巡航中は即座にエンジンを停止させ、モーターのみで走行するモードを多用することを想定すると、比較的モード燃費との差が少ないのではと思われる。さらに高速走行中でも160km/h以下であればモーター走行が可能だという。

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バッテリーはオートモーティブエナジーサプライ社製のリチウムイオン電池で、8セルを1モジュールとし、12モジュールで電池パッケージとしている。当然ながらパッケージの容積は、トヨタハイブリッドのニッケル水素電池のおよそ半分だ。1セルは3.6Vの電圧出力で、総電圧は346V、最高出力は50Kwと公表されている。

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↑バッテリーはリチウムイオン電池でトランク下に積まれる。

車載されるリチウムイオン電池はトランクスペースの床下に配置され、インバーターはエンジンルームにある。このため、既存車種へのハイブリッドシステム搭載でありながらスペース効率は悪くない。車両重量は1860kgで、3.7Lの標準車より110kgほど重くなっている。

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↑インバーターはエンジンルーム内にある。

オートモーティブエナジーサプライ社製の電池は薄型ラミネート型セルで、正極はマンガンスピネルタイプ。同社は同じラミネート型でもハイブリッド用と、EV用の2種類の設定があり、ハイブリッド用は高出力型、EV用は高エネルギー密度型と区別している。つまりフーガハイブリッド用とリーフ用は異なるタイプの電池ということになる。

欧州式のハイブリッド化戦略

なおハイブリッド化にともない、パワーステアは電動油圧式に、そしてエアコンコンプレッサーも電動化された。電動油圧式パワーステアは、専用の12V電動ポンプで操舵量に応じて油圧を発生させ、油圧でステアリングラックを左右にスライドさせるタイプになっている。操舵時だけ電動ポンプが作動し、操舵フィーリングも純電動パワーステアより自然なフィーリングになっているという。純電動パワーステアの場合は、操舵用モーターは42Vとより高電圧で大型のタイプが必要となり、DC-DCコンバーターも装備するため、日産はコスト、システムの合理性から電動油圧式を選択したという。

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↑電動アシストされる油圧式パワーステアリング・システム

専用ブレーキはブースター部分に小型の高精度モーターとECUを内蔵し、油圧ブレーキと回生ブレーキを協調制御することで、ブレーキ踏力のフィーリングを自然にしている。つまりそのために、ブースター内部の高精度モーターが、想定ブレーキ力と回生ブレーキ力をバランスさせるように油圧を微調整しているシステムと考えられる。

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↑ブレーキブースターにはECUが内蔵。回生ブレーキとの協調制御が行われる

ダンパーは、ハイブリッド車専用の周波数感応式ダブルピストン式が採用されている。つまりゴツゴツした高周波振動時(細かい振動)には、油圧を逃がすオリフィスを持つタイプを採用することで油圧を下げ振動を吸収している。通常の微低速バルブ付きダンパーの場合は、少量のオイルをピストンにバイパスさせて逃がすが、ダブルピストン式では専用のバイパス路を持つピストンバルブを通すことで、バイパスするオイル量の増大とバイパス応答性を高めているのだ。このため、低速での小さな凹凸の乗り越えでは減衰力を下げることができ、全体の減衰力特性ではよりリニアになるのだ。

装備では、低速でモーター走行時に歩行者に車両の接近を通報するスピーカー、モーター走行時とエンジン走行時の騒音落差を埋めるためのANC(アクティブノイズコントロール スピーカー)が特徴的だ。

日産はフラッシップであるフーガ(インフィニティ)にハイブリッドを設定することを選択した。ハイブリッドシステムは当面は上級車向けとし、小型クラスはEVとダウンサイジング・エンジンの投入という日産の戦略はある意味で手堅いといえる。ハイブリッド化に一気に舵を切ってしまったトヨタとホンダは、軌道修正にやや時間を要するのではないだろうか。

フーガハイブリッド 2WD VQ35HR+HM34 7M-AT VIPパッケージ 630万円(税込み)

フーガハイブリッド 2WD VQ35HR+HM34 7M-AT 577万5000円(税込み)

文:編集部 松本晴比古

日産自動車 公式Web

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