新型アウトランダーPHEVは劇的に進化し、量販モデルのCセグメントプラスサイズのSUVでありながら、プレミアムな領域へと足を踏み込んだ仕上がりになっている。進化のポイントとして環境性能、エクステリア、インテリアデザイン、そしてS-AWCに代表される走行性能の進化という3つのポイントを中心にお伝えしよう。
関連記事:三菱 新型「アウトランダーPHEV」たっぷり詳細解説
なぜここまで大幅な進化を遂げたのか、関係者の話によると、先代のアウトランダーPHEVは欧州において、プレミアムモデルからの乗り換えユーザーが多くいたという。そのため、そうしたユーザーを満足させるにはもっと改善すべき点があると分析し、その改善を施したのが今回の新型アウトランダーPHEVということなのだ。
言い換えれば先代のアウトランダーPHEVの環境性能は、欧州でも高く評価されていることがわかる。プレミアムSUVといえばBMWやメルセデス・ベンツ、アウディのC、Dセグメントといったモデルからの乗り換えだろう。
確かにこれらのプレミアムモデルには、当時はまだPHEVがラインアップしていなかった。環境意識の高い富裕層からすれば、アウトランダーPHEVの環境性能は大きな魅力に感じたというわけだ。ただ、そうしたユーザーを満足させるだけの高級感や所有欲を満たすだけの魅力があったのか?という課題は残り、今回の昇華へとつながったわけだ。
存在感あるデザイン
エクステリアデザインはダイナミックシールドのデザイン言語はそのままに、ひと目でアウトランダーと分かる顔になった。そして力強さやSUVとしての走破力をイメージさせるデザインで、ボディサイズも先代と同様Dセグメントに迫る大きさがある。全長4710mm、全幅1860mm、全高1740mm、ホイールベース2705mm。
インテリアでも質感は向上し、高級レザーを使ったシートや内張りなど、手の触れる場所、見た目の高級感はきちんと訴求されている。 アウトランダーPHEVのコンセプトは「威風堂々」であり、まさに存在感を高め、ゆとりある室内空間を確保し、細部まで作り込まれたインテリアはまさにプレミアムな価値を感じさるレベルまでに良くなったのだ。
意のままにできる走行性能
一方、走行性能では、2021年11月にプロトタイプを袖ヶ浦フォレストレースウエイで試乗し、ダイナミック性能の進化をお伝えした。そして今回の試乗は一般公道とオフロードコースでの試乗をし、より具体的な進化の確認ができたのだ。
関連記事:三菱アウトランダーPHEV試乗記(2.4L+ツインモーターPHEV)曲がる概念が変わる
7つのドライブモードは、路面状況に合わせて4つの最適モードを設置し、また走行環境によっては3つのモードから選択できるようになった。路面状況では、SNOW、MUD、GRAVEL、TARMACがあり、走行環境ではECO、SPORT、NORMALがある。この7つのモードはセンターコンソールにあるロータリー式のドライブモードセレクターを回すだけで容易に設定変更ができる。
PHEVシステムのパワートレーンは、ご存知のようにEV走行、シリーズ、パラレル方式での走行、そしてエンジンだけの走行が可能で、最適なモードを自動で選択して走行する。ドライバーはエンジンでの充電を望んだときのチャージモードとEVモードだけはマニュアルで選択できるが、あとはクルマ側で、もっとも環境性能に優れた走行をする。このあたりが欧州での高い環境性能評価に繋がるわけだ。
実際に走行してみると、市街地を走行しているときは非常に高い静粛性と滑らかな走行をし、高級感たっぷりだ。20インチという大径サイズのタイヤを装着しているとは思えないほど、ゆったりとした乗り心地である。この感触はオフロード走行でも発揮され、ストロークの長い乗り心地の良さを見せてくれた。また高速道路や今回の試乗会場のオフロードコースのような場所ではSUVとしての高いスポーツ性と、高速安定性を見せるのだ。
試乗テスト
このオフロード試乗では、走行時にグラベルやマッドを選択すると、滑ってしまう心配は微塵もなく、舗装路を走行しているかのように普通に走行できる。マッドとグラベルの違いは、マッドはホイールの空転を許容する制御で、ぬかるみなどで空転させながら脱出するような状況で有効だ。グラベルはトルクがリヤ寄りになるため、ドライバーがコントロールしやすいモードということができる。
こうしたモード設定の基本的な考えは「ドライバーの意図することを助ける」ということで、クルマをドリフトさせたり荷重コントロールできる腕があるドライバーなら、制御系はあまりしゃしゃり出てこない。逆に一般的なドライバーであれば、姿勢制御をナチュラルに行ない、ドライバーの思った通りに走ることができるというわけだ。
そのキーテクニックは、アクセルオンでは前後のトルク配分、オフでは回生力を変化させ、そこのバランスの取り方が各モードで違っていることだ。ここが重要なポイントだ。
車両運動性能の哲学
前後の駆動力配分を変えると前輪と後輪の同じスリップ角に対する横力の出方が変わってくる。例えば前輪だけにトルクをかけると、コーナリング時にフロントのグリップは立ち上がらなくなり、舵が効きにくく、対してリヤはシッカリしているので回頭性が落ちる。いわゆるアンダーステアが強い状況だ。また、回頭性を上げるためにフロントへの駆動力を全部抜いてリヤだけにすると、回頭性は上がるものの手応えがなく、ふらつくことになる。
つまり前後の駆動力配分には最適値があるということだ。その最適値が分かれば、修正舵は減りクルマの挙動は安定するというのがキーテクノロジーだ。
じつは、加速させる時に似たような体験を我々はしているのだ。例えばレスポンスの悪いエンジンで加速したとき、スロットルの反応が鈍く加速しない時がある。だからさらに踏み込んで加速させようとする。するとそのアクションより遅れて、あとから加速が始まるのでアクセルを戻すことになる。これと同じことがコーナリングでも起きているというのだ。
ステア量に対して最適な前後トルク配分をすれば、ステア操作はシンプルになり安定したコーナリングになる。だが最適値を外すと切り増しや切り戻しが必要になり、不安定な走行になるというわけだ。さらに、ピッチやロールを制御するという考え方でもなく、タイヤに最大の仕事をさせる方向で制御すると、結果的にピッチやロールも抑えられ、クルマは安定するというのだ。
具体的に市街地走行で試してみると、ノーマルモードとスポーツモードではダンパーが可変したかのようなシッカリ感を感じる。これはだれもが感じるほどの違いなのだ。これと同じことが例えば低ミュー路でトラクションコントロールが稼働すると、ステアリングのシッカリ感が出てくることも我々は体験している。これは横に曲がるときのグリップ力が高まるため、ステアリングへのフィードバックがしっかりする理屈と同じだと、開発の澤瀬氏は説明する。
他の走行場面でもこの技術を応用している。それは高速走行時にリヤタイヤへわずかにトルクを流しているのだ。そうすることで直進性が高まり、ドライバーは安心感を得られるというわけだ。
長年のS-AWCの研究と電動化されたことで、その制御領域が広く、そして深くなり、より人間の思った通りにクルマが動くという領域に進化しているのだ。
パワートレーンの進化
一方でバッテリーやモーター出力も変更している。これもプレミアムモデルユーザーを満足させるためだという。それは、インテリアにマッサージ機能などの付加価値を加え、20インチタイヤなどで存在感を増している中で、それに見合うパワートレーンが必要だと考えたからだ。
バッテリーは20kWhへと容量を増やしているが、それは滑らかでシームレスな加速を長く、そして加速性能を上げるためにバッテリー出力を上げている。その結果バッテリー容量も増やしているのだ。もちろん、そのためにモーターの出力も上がっている。
とどのつまり、見た目の外観、内装がプレミアムモデルの領域に踏み込み、市街地や高速では滑らかで高い静粛性を持ち、高級感のある乗り心地があり、一方でサーキットやオフロードのようなハードな場面ではスポーツSUVへと変身する。さらに燃費も踏まえた環境性能は向上し、カーボンニュートラルの観点からもアウトランダーPHEVの選択というのは魅力的なモデルと言えるのだ。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>
価格
諸元表