日産・三菱連合のNMKVが送り出したeKスペースは、軽自動車各メーカーの中では最後になるスーパーハイトワゴンだ。後出しジャンケンなのだから、完成度が高くて当たり前ということになるが、そのできばえはどうか?
スーパーハイトワゴンはいずれも全高が1700mmを超える高さだが、eKスペースは1775mmでホンダのN BOX(1780mm)と並んで背高である。スーパーハイトワゴンは、子供が室内で立ったまま着替えができる、リヤシートを畳めば子供の自転車を積載できる、リヤシートで寝ている乳児や子供の着替えを配慮してシェードとプライバシーガラスで目隠しできる、主としてドライバーを担当するママの日焼けの心配がない、フロントシートに座った親がリヤシートの子供の世話がしやすい、汚れに強い撥水シート生地を装備する…などが重要な用件となる。これはメインユーザー層である子育て世代の要望に応えるためだ。
それ以外に、スーパーハイトワゴンは軽自動車の中でも高価格ゾーンにあるため、小型車からダウンサイズしたユーザー層にアピールするために、室内空間の広さはもちろん、静粛性や安心感のある走りの性能なども高めることが求められるわけだ。
NMKVは商品企画の段階でキャビン内で子供が立ったまま着替えできるように室内高を140mmとトップレベルとし、もちろん余裕を持って自転車が積載できることも実現している。またワンタッチ電動スライドドアとリヤ両側スライドドア、eKワゴンでも採用されたバックモニター付きルームミラー、UVカットガラス、ロールサンシェード、ティッシュボックス収納スペースなどももちろん採用している。またリヤ席の左右分割ロングスライドシート(スライド量260mm)も実現している。
リヤ席の分割ロングスライドは、リヤ席に子供を乗せた場合、運転するママとの距離を縮めるために使用できるなど、実際の使用シーンを想定した作り込みが行なわれていることがわかる。
さらにeKスペース独自の装備として、前後引き出し式助手席下の収納ボックス、リヤサーキュレーターなども新装備している。リヤサーキュレーターはBピラー部の天井に取り付けられた空気循環ファンで、室内用容積が大きなスーパーハイトワゴンでリヤのエアコンの効きを向上させたり、室内の上部の気温の上昇を抑える役割を果たすものだ。助手席シートバックテーブルは、飛行機のテーブル状だが、コンビニフックも備え、さらにカップホルダーのサイズはマグカップが入るサイズとするなど、企画段階で細かな煮詰めが行なわれていることがうかがわれる。
このように見ると、軽自動車スーパーハイトワゴンとして手抜きなく装備が充実されていることが分かり、子育て世代にアピールする要素をたくさん備えていると言える。
車種は主婦層をメインユーザーにした標準モデルとダウンサーザーを意識したカスタムの2種類で、グレードは、標準モデルが廉価版のEとG、カスタムはGとTで、Tがターボモデルというシンプルな構成。それぞれのグレードに4WDも設定されている。デザインは、eKワゴン同様にボディサイドにやや強めのプレスラインを採用し、ヘッドライト周りの処理と合わせて、ダイナミックな個性を表現している。また室内空間の広さを演出するためにキャビンのサイドドアガラスの位置を低めていることもアクセントになっている。
eKスペースカスタムは、内装がダーク基調である以外に、フロントマスクが三菱のミニバン系共通のメッキグリル+縦スリットになっているのが特徴で、デザイン的な存在感を強めている。
使い勝手では、左右分割式のリヤシートがそれぞれ独立して2段式にダウンし、リヤシート部までほぼフラットなラゲッジスペースを生み出すことができるのが特徴だ。もちろん自転車を1台積載する場合は、リヤの片側シートだけ折りたためば積載できる。
フロントシートはほぼベンチシート形状で、左右のウォークスルーもできる。座り心地はクッション感があり、しっかりしていた。走りはどうか。まず標準モデルのNAエンジンに乗ると発進加速は良好だ。スロットルはかなり早開きになっているというが唐突な出足感もなくスムーズに加速できる。ただ、3500rpm近辺で少し加速感が鈍る領域があり、中間加速時にもこの回転数付近で少し加速力が鈍る。もちろんそれを超えるか、巡航状態であれば問題はない。言うまでもなくeKワゴンより車両重量は重いのだが、エンジンの改良とCVTとの協調制御によりeKワゴンとほとんど同様の走りと言える。
一方、ターボモデルは滑らかでトルクフルな加速で、高速道路の追い越し加速も十分だ。乗り心地は、かなりよい。タイヤも極端な空気圧ではない。なおNAモデルのタイヤは155/65R14で、ターボモデルのみは165/55R15サイズとなるが、15インチタイヤはグリップ感は強めだが舗装状態によってはざらざら感が発生した。室内の静粛性も十分あり、高速道路の巡航でも普通に会話できるレベルで、軽自動車ではトップレベルの静かさだと言える。
少なくともターボモデルであれば郊外や高速道路での使用も含め、コンパクトカークラスと同等の走りが実現していると思う。
ステアリングは軽目だが安定感があるため、安心感があると言える。もちろんスーパーハイトワゴンで重心も少し高めになるため、スタビライザーが装備され、スプリング/ダンパーも強化されているという。そのためもあってステアリングを操作してもぐらつき感や不安定感はなく、やや強めの風が吹く高速道路でも安定感は十分だと感じた。
なおNAモデルはアイドリングストップとブレーキエネルギー回生用ニッケル水素電池を搭載したシステムで、ターボはこれらは設定されていない。NAモデルのJC08燃費は26km/Lでライバル車よりやや劣るが、加速性能とのバランスを考慮すれば、実用燃費では特に大きな差はないだろう。
走り、静粛さ、安心感といった走りの性能と、便利装備の充実という点ではeKスペースは高い競争力を持っているといえる。あとは衝突回避・軽減ブレーキが欲しいところだがASC(ESP)がGグレード以上に装備されており、そう遠くない時期に設定されると予想できる。