2013年5月16日、三菱自動車は今年6月30日にアメリカ・コロラド州で開催されるパイクスピーク・ヒルクライムにワークス体制の新開発EVプロトタイプマシン「MiEV Evolution」で参戦し、総合優勝を目指すことを発表した。
三菱自動車は、昨年のパイクスピークに市販車部品を搭載したEVプロトタイプ「i-MiEV Evolution」で初参戦し、電気自動車クラス2位を獲得。車速・加速度などの実走行データやバッテリーの消費量、モーターの温度など、EVならではの貴重な実戦データやノウハウを収集した。
そして2013年は本格的なパイクスピーク用のEVプロトタイプ「MiEV Evolution」を開発し、EVクラスでトップを獲得するのはもちろん、総合優勝を目指すとしている。また商品戦略・事業化統括部門長、兼 開発統括部門長の中尾龍吾氏はパイクスピーク参戦の意義を、「環境技術としてのEVが意のままの走りや走る楽しさも両立できる技術であることをアピールしたい」と語っている。
「MiEV Evolution」は市販車の量産部品を元に、パートナー企業と先行開発した高容量バッテリー、高出力モーターを搭載。さらに、昨年の参戦経験を元にフロント2個、リヤ2個の4モーターから構成される電動4WDに、車両運動統合制御システム「S-AWC(Super All Wheel Control)」を新たに採用し、さらなる操縦安定性向上を図っている。また、専用ボディによる車両軽量化、空力性能の改善など、走行性能を大幅に進化させている。
ドライバーには、昨年も出場した商品戦略本部・上級エキスパートで車両の開発・評価ドライバーを努めている増岡浩と、これまでパイクスピークにオートバイクラスで出場していたグレッグ・トレーシーを起用し、2カー体制で臨む。
昨年の総合優勝タイムから推測される今年の総合優勝タイムは9分30秒とし、この目標タイムを達成するためには昨年のタイムより45秒のタイム短縮が必要と想定し、動力性能の向上、旋回性能の向上、操縦安定性の向上を図ったという。
このため、「MiEV Evolution」は昨年のマシンが3モーターであったのに対し、4モーターを採用。100kW/200Nmの高出力モーターを4個採用し、合計400kW/800Nmの出力としている。なおフロントは2個のモーターによりLSDを介した左右輪ダイレクト駆動、リヤは左右独立駆動方式の4WDとしている。この明電舎製の新開発モーターは、昨年タイプより高回転側のパワーを向上させている。
バッテリーは、昨年はまったく市販i-MiEV用を採用していたが、今回はより高出力化したリチウムエナジージャパン製LEV50の先行試作品を採用しセル数も増加させている。このためバッテリーパックの軽量化なども行っている。容量は50kWhとi-MiEV用の3倍以上の容量となっている。これらの結果、「MiEV Evolution」の0-100km/h発進加速タイムは3.0秒を切るという。なおバッテリーパックは昨年仕様はコクピットの両側に配置されていたが、今回のマシンでは床下にレイアウトし大幅な低重心化も図られている。
タイヤはレース規則が変更され、スリックタイヤの使用が可能になったため、グリップ力の向上により1秒/km速くなっているという。またパイプフレームの上に架装されるカーボンボディは空力性能を向上させるために風洞試験を繰り返し、特に床下の気流を利用し空気抵抗は昨年のマシン並みで、ダウンフォースは4倍にされている。
またモーターの駆動力は昨年は制御なしであったが、今回の「MiEV Evolution」は4輪駆動力・制動力制御:トルクベクタリングを採用したS-AWDを採用している。すなわちコーナリングに合わせて、左右の駆動力配分制御に加え前後の駆動力配分制御、さらにブレーキ制御も行うことで意のままのハンドリングと高次元の安定性を実現しているのだ。
三菱はパリダカール・ラリーへの参戦を中止して以来、モータースポーツ活動は中断していたが、パイクスピーク参戦は本格的なワークス活動と位置付けられ、同社のモータースポーツ活動が再開されたことを意味している。
今回のパイクスピークは、プジョー・スポールが開発し、セバスチャン・ローブがステアリングを握り総合優勝を目指す875ps/875kgのプジョー208T16パイクスピークを筆頭に、トヨタ・モータースポーツ(TMG)が送り出し、ロッド・ミレンがステアリングを握る400kW/1200NmのミッドシップEV「TMG EV P002」、そして三菱の4WD「MiEV Evolution」、さらには田島モータースポーツのEVプロトタイプ(写真下)などが総合優勝を目指す。激しい戦いが予想され、近年にない盛り上がりを見せている。