アウトランダーPHEVは2012年10月に発売されたアウトランダーの追加モデルだが、じつは本命モデルだろう。三菱が選んだ「PHEV」という名称は、「プラグインハイブリッド電気自動車」という意味で、先行したトヨタ・プリウスPHVとは違う存在であることを主張している。
この名称は翻訳すれば「レンジエクステンダーEV」というカテゴリーに入る。つまりメインはあくまで電気自動車で、航続距離を伸ばすためにハイブリッド化させたということになる。
世界で初めてこのレンジエクステンダーEVを実現したのはGMのシボレー・ボルトだった。デビュー当時は、GMは「EV」という表現を使い、メディアはハイブリッドカーではないかと異議を唱えた。言ってみればボルトのようなレンジエクステンダーEVは、純粋なEVでもなくハイブリッドカーでもない、新たなカテゴリーのため、これをどう解釈するかで多少混乱したのだが、GMは以前からEVを開発しており、その延長線上で航続距離を延長させるためのEVとハイブリッドシステムを組み合わせたボルトを創り出した。この経緯は、三菱もまったく同じで最初にi-MiEVを発売し、その後を追ってアウトランダーPHEVを投入した。
三菱の戦略は、軽自動車、コンパクトカークラスは純EV、ミドルクラス以上はプラグインハイブリッドで対応するという。アウトランダーのようなSUVは当然ながらロングドライブの機会が多いことを想定し、航続距離の長さは必須条件なのだ。
EVは市街地など一定条件のもとで使用するのに適しており、長距離を走るためにはEVのハイブリッド化が必要になる。しかし、その一方でEV+ハイブリッドは、いわゆる冗長性が高くなり過ぎる恐れもあり、どのようなシステムを構築するのかが一番の課題になる。
アウトランダーPHEVは、メインとなる駆動システムを前後ともにモーター駆動とし、フロント横置きのエンジンと発電機(ジェネレーター)は直結されている。つまりモーターとしては3個を搭載し、さらにエンジンで前輪も駆動できるようにするシステムを持つ。
搭載するガソリン・エンジンは2.0L・DOHCで4B11型の従来タイプだが、最高出力4500rpmと低速化し、その代わりに効率の良い燃費ゾーンを拡大させた専用チューニングが加えられている。
このシステムはフルタイム4WDなのにプロペラシャフトがない、エンジンで前輪を駆動するシーンもあるにもかかわらずトランスミッションがないという、プリウスPHVやシボレー・ボルトとは大きく違う特徴を持っている。
床下に搭載するリチウムイオンバッテリーは12kWhの容量を持ち、プリウスPHVが4.4kWh、シボレー・ボルトは16kWhで、i-MiEVが同じ16kWh、日産リーフが24kWhで、バッテリー容量は限りなくEV用に近い。言い換えれば、EVと同等レベルのバッテリーのみによる走行ができることを意味する。
アウトランダーPHEVは、こうしたシステムを通常のSUVのパッケージングに合わせてまとめ、スペースユーティリティは標準のアウトランダーと違いがない。またSUVとして必要な、長い航続距離、4WDシステム、さらにはEVらしい静粛さや、モーターによる低速からの強力なトルク、などPHEVならではの走りを実現している。パッケージングの秘密は、リヤのモーター駆動ユニットはコンパクトにリヤアクスル上にまとめたi-MiEV用をそのまま使用し、フロント側はエンジンとジェネレーター、モーターを通常のFF駆動システムのパッケージとしてまとめているということだろう。
もうひとつアウトランダーPHEVの特筆すべき点は、エンジン以外にEV並みの大容量のバッテリー、3個のモーターを搭載したシステムにもかかわらず、価格的にリーズナブルにしていることも評価すべきだろう。
PHEVというシステムは、一見すると複雑に感じられ、どのように走るかを頭で考えるより、自分の使用環境で実際に走って体感するのが一番だが、基本的な走行モードは、「EVモード」、「シリーズ・ハイブリッドモード」、「パラレル・ハイブリッドモード」の3種類だ。
通常の使用条件ではEVモードで走り、バッテリーの充電量が少なくなると自動的にエンジンがかかり、エンジン直結のジェネレーターを駆動して発電し、その電力でバッテリーに充電する。つまり発電用にエンジンは稼動しているが、駆動はバッテリーからの電力供給を受けモーターが担当する。
通常の走行ではこの二つのモードで行われ、実質的にEVとして走行することに違いはない。もちろんこの走行モードでも減速時には回生が行われるため、減速エネルギーを利用しての充電も行われる。
バッテリーが満充電の場合、純EVとしての航続距離はJC08モードで60km、エアコンなどを使用した条件でも45〜50kmの航続距離となる。だから、日常の通勤や買い物などが20〜25km圏内であればEVのみで走行でき、帰宅後に200Vの家庭充電を行うことで、ガソリンをまったく使用しないことになる。ちなみに家庭へのEV、PHEV用の200Vの導入は補助金制度のため5万円以下でできるようになっている。
なお、ガソリンを使用しないこうした走行パターンで乗り続けた場合は3ヶ月に1回、自動的にエンジンが起動してガソリンタンクから発生する蒸発ガスを燃焼させるようになっている。
こうした使用状況ではガソリン消費は事実上ゼロで、充電用の電気代がかかるだけだということになる。一方、長距離を走った場合のハイブリッドカーとしての燃費は、16km/h程度はいくらしい。しかし、長距離走行時でもこまめに充電すれば、燃費ははるかに向上することはいうまでもない。このあたりが従来のハイブリッドカーと大きく異なる所だ。
エンジンを駆動力として使用するのは、急加速でアクセルを深く踏み込んだ時と、高速道路でバッテリーが一定以下のレベルになった時だ。このような時はクラッチが接続され、エンジンの駆動力が前輪に伝達される。この時のエンジンは5速ギヤに相当するギヤ比、つまりオーバードライブの状態で駆動する。もちろんこの状態でもエンジンは駆動だけでなく、発電も行っている。
エンジンが駆動用として作動している場合は、エンジン音が車速によって変化することが伝わってくるが、クラッチの断続のショックは感じられないので、ドライバーは走行モードなどはほとんど気にならないはずだ。
ドライバーが選択するのは、シフトセレクターの直後にある「チャージ」、「セーブ」のスイッチと、パドルまたはシフトセレクターの「Bモード」の選択だけだ。
「チャージ」は走行中、停車中でも強制的にエンジンを起動し、バッテリーに充電させるモードで、目的地に到着段階でバッテリーの充電レベルを高めておきたい場合や、日本では可能性が低いが、長い登り坂が続くような高速道路を走行する場合に使用する。このスイッチはアメリカの有名な長い登り坂を速度を落とさず走るために設けたという。
「セーブ」は、常時ハイブリッド走行を行うモードのことで、バッテリーの充電レベルを高めに維持し、目的地周辺でEV走行、またはバッテリーを外部電源用として使用したい時に使用する。
アウトランダーPHEV独特の取り扱いが「B」モードの使い方だ。Bはブレーキを表し、通常のクルマでのエンジンブレーキに相当する回生ブレーキの強さを表すモードだが0〜5までレベルが選択できるのだ。
シフトセレクターで選択する場合はB3、またはB5のいずれかを選択することになる。一方、パドルシフトを使用するとBモードは0〜5まで6ステップとなる。0は回生なしの状態、つまり無動力・無抵抗の状態になる、いわゆるコースティング(滑空)モードだ。1からは回生ブレーキが作動するが、イメージ的には1〜3はかなり弱い回生ブレーキで、3からは減速感がやや強まり、5で最大となり、フィーリング的にはガソリンエンジンのクルマで2〜3速のエンジンブレーキといった感じだ。
現実問題として、パドルで6段階を選択するのは煩雑な操作といえるが、習熟すればカーブの大きさに合わせ、パドルでうまく選択すればフットブレーキを使用することなく走ることができるという特徴がある。ただし、実際には0、3、5という3段階があれば十分という気もする。
今回の試乗は、登録前の車両のためショートサーキットにおける短時間の走行で、公道での走りや使い勝などトータルな評価は別の機会となる。走り出しのフィーリングはEVらしいトルク感や滑らかさがあり、静かに加速して行く感じは上質感がある。
走行フィールをもう一度確認すると、バッテリー容量が次第に少なくなってくると、アクセルペダルを半ばまで踏み込むような中程度の加速で、エンジンが始動するようになる。もちろんこれは充電のためのエンジン作動である。アクセルを一杯に踏み込んでの急加速では、エンジンが駆動アシストをし、この時は駆動用のクラッチが接続されているが、その作動によるショックや振動感は感じられず、駆動全般の制御は巧みに行われていると感じられた。
ステアリング操作は軽く、乗り心地もこのショートコースで乗る限り問題なかったが、車両重量が1.8トン近くあるSUVというキャラクターを考えると、もう少しどっしり感、重厚感のある乗り心地のほうが好ましいような気がした。
アウトランダーPHEVは前後に駆動用のモーターを備え、前後の駆動トルク制御と4輪の独立ブレーキ制御(ブレーキAYC)を行うことで「S-AWC」と名付けられ、車両安定制御が緻密に行われるのもモーター駆動ならではといえる。また滑りやすい路面では「4WDロック」ボタンを押すことで擬似的に前後輪直結状態を作り出し、最大限の駆動力を得ることもできる。
こうしたツインモーター駆動ならではの駆動制御の能力は、相当に奥が深いのだが、このあたりはじっくり使い込まないと真価を実感できない。
アウトランダーPHEVは、これまでのハイブリッドカーとは違う新たなクルマの使い方ができ、燃費に対する考え方も燃費+電費、あるいは電費だけという多用な面を持つクルマだと実感でき、これまでの純EV、あるいはハイブリッドカーという二つの概念とは違う、新しいカテゴリーのクルマの時代がやってきたことを肌で感じることができた。