【三菱】Specialist海外試乗記 求められたニーズへの回答、それが新型ミラージュだった レポート:佐藤久実

マニアック評価vol105
2012年3月下旬から4月初旬にかけて開催されたバンコクモーターショーで三菱のグローバル・コンパクトカー「ミラージュ」がワールドプレミアを飾るということで、さっそく取材してきた。

三菱新型ミラージュの画像
バンコクモーターショーでワールドプレミアされたグローバルコンパクトの新型ミラージュ

タイは自動車大国

バンコクといえば、タイの首都だが、2011年、タイの洪水被害は記憶に新しい。このニュースによりタイで部品や製品を生産している日本メーカーがいかに多いか、ということを改めて知った方も多いだろう。今では日本の自動車産業にとってタイは輸出の拠点であり、自動車&部品メーカーが集積する重要なエリアにまでなっている。そして国を挙げての積極的な工場誘致や税金面での施策もあり、東南アジア一の生産台数を誇る「自動車大国」にまで成長しているのだ。

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

タイにおける2011年の新車販売台数は約80万台。洪水の影響で、販売台数の数でこそインドネシアに譲るが、それでも生産台数は東南アジア一のポジションを保っているというのが現状だ。そのタイで、一昨年、日産マーチが現地生産車として誕生し、2012年は三菱自動車も、タイを日本に次ぐ第2の輸出拠点と位置付け、新たに第3工場を建設している。そこで生産されるのが、グローバル・コンパクトカー「ミラージュ」である。このような流れは、日本車でありながら「輸入車」、というスタンスとなり、マーチのときに最初は違和感を覚えたが、コストや効率を考えグローバル展開することを考えれば、当然といえば当然のことなのだ。

その新型ミラージュはタイ国内を皮切りに、ASEAN諸国(東南アジア連合)、日本、ヨーロッパ、オーストラリアに販売を展開していくという。つまり、新興国におけるエントリーカー、成熟国における環境対応車という2つのニーズを満たすモデルとして開発されたわけだ。

三菱新型ミラージュのバンコクコンパニオン画像三菱新型ミラージュのコンパニオン画像

三菱新型ミラージュの画像

コンパクトカー需要が拡大

私自身、5〜6年振り、3度目のバンコク訪問となるが、取材で行ったのは初めて。バンコク近郊を走っているクルマを見ると、新しいクルマが多いのが印象的だった。そして、日本車も多い。新車販売のなんと9割を日本車が占めるというのだから凄い。自家用車の普及が進んでいるからなのだが、日本メーカーのお家芸ともいえるコンパクトカーが、タイの市場にいち早く対応したのが人気となった理由のひとつだろう。

従来、タイではピックアップ・トラックがメインマーケットだった。それは業務用と自家用を兼用できるという利便性が高いという理由からだ。しかし、近年、Bセグメントとよばれるコンパクトカーの需要が伸びてきている。その理由は、かつて自家用車の価格は70万バーツ台(約180万円)からだったが、今は30万バーツ後半(約78万円)からという、手の届く価格帯で購入できるようになってきたからだ。この価格帯で販売されるのはコンパクトカーセグメントであり、このことで市場が活性化し拡大、普及しているわけだ。

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

またコンパクトカーの普及は、国策に因るところも大きい。つまり、単にクルマを売るだけでなく、海外の自動車メーカーの生産・輸出拠点としてタイの産業を発展させる狙いもあるのだ。そのため、エコカー認定の制度が導入をしている。それは大前提として、海外の自動車メーカーは5億バーツ(約13億円)以上の投資を行い、エンジンパーツをタイ国内で生産しなければならない。そして5年後までに年間10万台以上生産しなくてはならない(輸出も可)、といった生産段階での条件が設けられている。

その上で、ガソリン・エンジン車は1.3L以下、ディーゼル・エンジン車は1.4L以下で、燃費は20km/L以上、CO2排出量は120g/km以下という、モデルそのものに対しての条件も課せられている。これらの条件をクリアすればエコカーの認定を受け、優遇措置が得られるのだ。そして、現在、タイのエコカー認定を取っているのは日産・マーチ、ホンダ・ブリオ、スズキ・スイフト、そして今回の三菱・ミラージュと、いまのところ日本のコンパクトカーのみだ。さらに、タイ政府によりユーザーも直接支援され、昨年から今年の末までの間で、初めてクルマを買う人には10万バーツ(約26万円)を上限に国から補助金が支給されるそうだ。ただし、ピックアップもしくは1.5L以下のクルマという制限はある。

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

一方税金の点ではタイ国内生産車、もしくはASEAN(東南アジア連合)からの輸入車の場合の税金は0%だが、それ以外の国からだと80%もの税金がかかる(日本からタイへの輸出はそれに相当)。さらに、それらのクルマを購入する際にはエクストラタックス、いわゆる贅沢税が課せられる。乗用車30%、ピックアップ3%、4ドアは12%といった具合だ。だから必然的に人気となるのは1.2L以下クラスのタイ産、もしくはASEANからの輸入車が中心となり、品質の高い日本車(タイ産)は売れるわけだ。

このような背景もあり、タイでは1.2Lクラスの販売が伸びていることに納得。従来、三菱はピックアップの「トライトン」、トライトン・ベースのSUV「パジェロ・スポーツ」が主流で、コンパクトカーを持たなかったが、今回ミラージュを、人気、かつ激戦区であるBセグメントに投入した。高いニーズのあるマーケットがあるわけだから、まずはタイから販売が開始されるというのも当然といえる。

1.2Lエンジンに5MTとCVTを搭載

さて、宿泊先のバンコク市内からモーターショー会場まで、毎日クルマで通ったが、市内の渋滞がものすごい。バブル期の日本以上の混み方だ。これは、パーソナルカーの普及が進み保有台数が増えるのに対して、道路環境の整備が追いついていない実情を実感する。

バンコクモーターショーは、「展示即売会」の意味合いが強いという。各メーカーのブースには、所狭しとテーブルとイスを並べたスペースがあり、パソコンやFAXといったオフィス機器まで揃っている。三菱自動車ブースのメインステージにはもちろんミラージュが陣取り、それ以外のスペースにもミラージュが数多く展示されている。タイマーケットへの意気込みが感じられるディスプレイだ。ボディカラーも8色用意されるが、これも珍しいという。

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

↑1.2Lエンジンに5MTとCVTが組み合わされる。日本には1.0Lが導入。ボディにはハイテン材が使われ、軽量・高剛性ボディが量産される

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

「ミラージュ」は、かつては1.6Lターボエンジンを搭載するハイパワー・ハッチバックモデルで、ワンメイクレースも開催されるほどスポーティなモデルだった。しかし、今回発表されたコンパクトカーの新生「ミラージュ」は、以前とはまったくセグメントもキャラクターも異なるクルマとして誕生している。だが、ネーミングはユーザーに馴染みのある名前の方が浸透しやすい、ということで車名は継承されている。

三菱新型ミラージュの画像三菱新型ミラージュの画像

ミラージュには新開発の1.2Lエンジンに5速MTかCVTが組み合わされる。車種は3グレードあるが、内外装はみな同じで、装備が異なる程度で、スチールホイール、ホイールキャップ、アルミホイールといった違い。内装では、ナビなどエンターテイメントシステムの有無など装備の違いになる。

新型ミラージュは、コルトよりひと回り小さいボディサイズながら、荷室容量はコルトより広く実用性を高めている。ちなみに三菱が新設したタイの第3工場は最新設備も備えるため、ハイテン素材も使えるようになり、新型ミラージュはコルトより重量比で7%軽く、車両重量850kgと軽量化が図られている。当然、軽量であることは燃費にも反映され、タイ仕様で22km/L(欧州モード計測)を実現している。

あらゆる世代にとって運転しやすいミラージュ

モーターショー会場に隣接する駐車スペースで試乗の機会を得た。コンクリートの路面は、継ぎ目が多く、ホコリっぽく、決してコンディションが良いとは言いがたい環境。パイロンで作られた特設コースは、加速、フルブレーキ、スラローム、レーンチェンジを試せるレイアウトになっていた。

まずは実用域のスピードで走らせてみると、従来の三菱車とはかなり印象が異なり、やさしくソフトな乗り心地に仕上がっている。ストローク感が豊かで、連続する継ぎ目をまたいでもイヤな突き上げは見られない。加速時こそエンジンががんばっているサウンドが響くが、一般道の巡行スピード域では静粛性も保たれている。

テスト佐藤久実

ややペースを上げてスラロームやレーンチェンジを試みたが、限界域まで穏やかな動きが続く。14インチのエコタイヤを履き、路面のμ(ミュー)の低さも手伝って、ステアリングに伝わる手応えとしてはそんなに強烈なグリップ感があるわけではない。がしかし、限界域までかなり粘る。グーンと大きくアウト側にボディが沈み込むロール感はあるが、挙動は安定していて、唐突に破綻するような動きもなかった。

ドライバーシートからの視認性も良く、最少回転半径4.4mと小回りも利く。リヤシートは大人2人が乗っても窮屈さは感じられない。若い人のエントリーカーとして、あるいは富裕層のセカンドカー、そして50〜60代のピックアップからのダウンサイジングとして、あらゆる世代にとって、ミラージュは操縦しやすく、運転しやすいクルマであると思う。

Fシート リヤシート

また、上級モデルは装備の充実度も高い。一般的に2.0L以下のクラスにナビが標準装備されるケースは少ないが、ミラージュGSL Limitedには、エコカーセグメント初となるナビゲーションシステムが標準装備される。ナビを必要としない人だとしても、映像を見たり音楽を聴いたりするためのモニターニーズは高い。また、若い女性の間では、リヤビューモニターの需要も多いそうだ。

さらに、フロントエアバッグやキーレスオペレーションシステムなど、安全から快適装備に至るまで、高い付加価値を求めるユーザーニーズにも対応している。

この新型ミラージュの気になる日本デビューは夏頃の予定だ。日本仕様は3気筒1.0Lエンジン+CVTのパワートレーンを搭載し、アイドルストップや減速エネルギー回生システムも装備され、現状のコンパクトモデルの最高燃費を上回る燃費を狙っているという。実用性、環境性能に優れたミラージュの発売が楽しみだ。

佐藤久実
モータージャーナリストの佐藤久実さん

 

三菱自動車公式サイト

ページのトップに戻る