雑誌に載らない話vol20
2011年1月20日、三菱自動車は2011年度から2013年度までの3年間にわたる新たな中期経営計画「ジャンプ 2013」を発表した。
世界的な経済混乱で激しく変貌する世界の自動車需要に対応するため、今後さらに重要性を増す新興国市場と環境対応に経営資源を集中させ、同時に大幅なコスト低減を行いながら生き残りを目指す。ちなみに三菱自動車は2010年の生産台数は117万台であった。国内生産が66万台、海外51万台で、前年比97.9%となっている。
販売先ではアジア、ヨーロッパ、アメリカで好調な伸びが記録されたが、国内は苦戦が続いている。こうした前提を踏まえた上での中期経営計画である。
新型車では、EV=電気自動車を2015年度までに計8車種投入するという。さらに燃費向上技術として2013年度からハイブリッド車も市場投入するという。これはプラグインハイブリッドと見られる。また、従来の地域専用車を廃止し、特に新興国での需要が見込むことができる小型車やSUVといった、世界戦略車に経営資源、開発を集中するとしている。
今後、大幅な需要増加が見込まれる新興市場向けには、市場ニーズの高い小型・低燃費・低価格の世界戦略車(通称「グローバルスモール」)やSUVのラインアップを強化し、2013年度の販売台数を2010年度見通しに比べ28万台増とする計画としている。
一方、緩やかな回復が期待される成熟市場では、環境対応車や小型車を投入し、2010年度対比で9万台増とすることで、2013年度の世界販売台数は137万台(2010年度は117万台)を目指すとしている。そして重点市場である新興市場を中心とした需要増に応えるため、新興国での生産能力増強を行う。具体的にはタイに第三工場を建設し、日本に次ぐ第二の輸出拠点と位置付ける。中国でも新合弁会社を通じて生産増強を行い、ロシアでは新型SUVの生産を開始するというものだ。
つまり、円高が継続する中で新興国における現地生産能力を強化するわけだ。その一方、日米欧の生産拠点においては、販売台数計画に沿って生産能力を適正化する。これは生産を縮小することも想定されることになる。 米国拠点では北米販売に加え、輸出も行う新生産モデルの投入も行うという。
欧州拠点では、欧州地域専用車である『コルト』の後継車投入を取り止めることを決定。これはベンツ社との合弁計画の見直しを意味する。 また、国内は日産自動車への軽自動車供給により、国内生産台数の増加と効率化を狙う。
そして状況が大きく変化する中、抜本的なコスト構造を改革するため、コスト低減を強力に推進する社長直轄の組織を立ち上げる。円高環境の中で最適なグローバル調達体制を構築するなど、2013年度の購買費を2010年度に比べ約900億円低減する計画としている。
事業提携では、これまでPSAプジョー・シトロエン社と業務提携を進めているが、今後は、日産自動車とも業務提携を拡大。今後も個別事業でメリットの期待できる提携、協業は積極的に推進し、収益の増大と収益力の強化につなげていくとする。
三菱とPSAプジョー・シトロエン社との資本提携は、このほど見送られることが決定した。PSAプジョー・シトロエン社は2010年度が赤字で、財務内容の建て直しが先決とされた。三菱自動車は、2013年度に売上高2兆5,000億円、営業利益900億円(2010年は約450億円)を目標とするとしている。
また三菱自動車は「ジャンプ 2013」に合わせて三菱自動車グループの環境取組の中期計画である「三菱自動車環境行動計画2015」を策定し発表した。これまで推進してきた環境行動計画2010に続く2011年度から2015年度までの中期環境取組計画である。
すでに公表している「環境ビジョン2020」の中で、2020年までにEVとプラグインハイブリッドの生産比率を20%以上にする、クルマの走行時のCO2排出量を、世界全体平均で2005年度比50%低減することとしており、また生産分野では、生産1台あたりのCO2排出量を同じく20%以上低減する目標を掲げていた。
これらの長期目標を前提とし、「環境行動計画2015」では、2015年時点での中間目標として、EVの生産比率を5%以上とし、走行時のCO2排出量を25%低減、また生産時のCO2排出量を15%低減することとしている(いずれも2005年対比)
具体的にはEV(電気自動車、プラグインハイブリッド)の本格的普及を目指して、商品ラインアップの充実や販売地域の拡大を進めるともに、性能向上を目指した技術開発や使用済み電池のリサイクル・リユースに向けた体制整備にも取り組む。また、ハイブリッド車、次世代MIVECエンジン・アイドルストップ機構などの燃費向上技術を積極投入するとしている。
三菱自動車は、日産自動車との業務提携を展開することで日本の市場をカバーしながら、EV、プラグインハイブリッド、クリーンディーゼルなどを重点的に開発し、マーケットとしては新興国を狙うという戦略が明確にされた。
最近の動きとしては、2010年秋以来からのi-MiEVヨーロッパ市場への投入、同じく10年11月のロサンゼルス・オートショーへのアメリカ向けi-MiEVの出展がある。このアメリカ向けモデルは、全長3680mm、全幅1585mm、全高1615mmと従来のi-MiEVよりひとまわり大きなボディで、タイヤの空気圧モニターやASC(ESC)を標準装備するなどアメリカ市場用の装備を備えている。
↑アメリカ市場向けにサイズが拡幅されたi-MiEV
そして、3月に開催されるジュネーブショーには、小型、低価格、低燃費を追求したコンセプトカー、コンセプト・グローバルスモールを出展することを発表した。このコンセプトカーは、すでにタイの第3工場での生産が決定されているグローバルスモールカーのデザインコンセプトモデルとされているが、デザインは量産モデルに限りなく近いと考えてよいだろう。ラインアップにはコルトの後継となり、サイズ的にはコルトより小さめと予想される。
エンジンは1.0〜1.2L、トランスミッションは副変速機付きCVT、アイドルストップとブレーキエネルギー回生を備え、ボディを徹底的に軽量化することで、CO2排出量は90g/km台の半ばとされている。
↑2011年3月に開催されるジュネーブショーに出展されるコンセプト・グローバルスモール
文:編集部 松本晴比古