三菱自動車のディーゼル開発 次なる一手とは

マニアック評価vol17
先日、パジェロ・ディーゼルがポスト新長期規制をクリアしたというニュースは、当Webで既報したが、今回エンジン設計開発部、責任者の竹村純氏に話を聞くことができ、三菱のエンジン開発における次の一手の様子が見えた。

まず、ポスト新長期規制は車種や大きさによって適用対象時期に違いがあるものの、おおむね乗用車でいえば、新型車はすでに2009年10月からの適用で、継続生産・輸入車については2010年9月から適用される。

そして、この世界一厳しいポスト新長期規制と従来の新長期規制との大きな違いは、NOx(窒素酸化物)の排出量を半分にするというハードルだ。もちろん、排気ガス全般をクリーンにする必要はあり、CO2もPM(粒子状物質)も減らすことは必要である。しかしディーゼルエンジンのCO2はもともとガソリン車よりも一般的に20%〜30%程度は少なく、対策の中心となるのはNOxとPMの低減ということになるだろう。ただ、このパジェロの4M41型ディーゼルエンジンは新長期規制に対応とした時点でPM値は0.004g/kmで、すでに基準値をクリアしており、いわばNOxを減らすだけでよかったともいえるが、さらなるクリーン化を目指すために多くの改良が行なわれているのだ。

それは燃焼技術と後処理システムの双方を改良し、ポスト新長期規制に対応したという。ポイントを挙げるとすれば、燃焼技術面では圧縮比を下げるというトライを成功させ、後処理技術面では排気噴射弁とNOxトラップ触媒の採用というのが目立つポイントだろう。

竹村氏

↑三菱自動車エンジン開発 部長の竹村純氏

「圧縮比をこれまでの17:1から16:1に下げました。本音ではもっと下げたいですね。もっと下げれば燃焼もよくなり、出力もだせる、しかも排気ガスもきれいになる、という良いことが増えるんです」と竹村氏。日産エクストレイルのM9Rが15.6:1であり、ベンツのブルーテック642型が17.7:1であるからパジェロはちょうど中間になる。とはいえ、このパジェロに搭載される4M41型は1999年に登場してから今回までずっとキャリーオーバーしてきたエンジンであり、革新的な燃焼システムを持つエンジンに変更するには、コストがかかりすぎることが想像できる。

「それでも吸気ポートの変更や噴射弁の変更はしています」と竹村氏は付け加える。圧縮比が下がると、燃焼しにくくなるが、燃焼しやすい吸気ポート形状、燃料の吹き方を改良したことで対応し、デンソー製のソレノイド式1800barのマルチ噴射(パジェロは4回)するインジェクターを採用している。これは、低圧縮で問題となってくる低温始動性が、ネックとならないぎりぎりの圧縮比なのかもしれない。

一方の後処理システムでは酸化触媒→NOx吸蔵触媒(トラップといういいかたもある)→DPF(ディーゼル粉塵用フィルター)→HC吸蔵酸化触媒という仕組みで、三菱独自の後処理システムである。そして独自の方法として、酸化触媒の前段に燃料噴射弁がつていることもポイントだと思う。

酸化触媒

↑酸化触媒

これはHC酸化触媒と関連するのだが、HC(炭化水素ハイドロカーボン)は、いわゆる燃え残りガスで、それを再燃焼させるために燃料が必要となるからだ。

DPF NOxトラップ触媒

↑左がDPFのカットモデル。右がNOxトラップ触媒

一般的に酸化触媒はHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)をひとつの触媒で酸化・還元させるが(三元触媒)、排気ガス規制が厳しいために、酸化・還元しきれない排気ガスのために、さらに触媒を追加していると考えていい。そのなかでもHCの処理方法としては再燃焼という方法がとられ、そのために燃料が必要となり、排気噴射弁が装備されているわけだ。

「そのために燃焼行程においてもポスト噴射(燃焼行程後の噴射)をして、HCが残るようにしています。燃えないままのHCは排気管をとおり、そこで還元剤として機能させ、燃料を触媒に送ることで、燃焼し、DPFの温度を600度C程度まで上昇させ、高温を保つための役目も兼ねています。そうすることで後処理のコントロールがしやすくなるんです」

現在では、このように高効率燃焼をさせても、まだまだ、触媒にかかる負担は大きい。しかし、次に目指すものは、さらなる高効率燃焼するエンジンであり、触媒レスの実現だろう。

このことについて、竹村氏によれば「デュアルEGRということが考えられています。通常、EGRはインマニ部に入り、新規の吸気と混合されていますが、DPFの下流からターボの上流に戻すことが考えられています。これはNOxを減らすのに非常に有効な手段で、各メーカーが研究しています」という。

つまり、現在のEGRはそのままに、あらたにDPF通過後のEGRをタービンへ戻すというもので、2系統のEGRをつくり排気ガスのクリーン化をするというものだ。今のままではEGRは排気ガスであるから、汚れの問題もあり、タービンに戻すことは現実的ではない。が、クリーンな排気ガスとなれば、その考えも可能となるということだ。

しかし、そうなるとEGRの容量はどうやって計算されていくのだろうか? 現在のEGRシステムは、新規の量はエアフロセンサー的なもので空気容量を計測し、インマニの体積からその容量を引いたものがEGRの体積として計算されているが、このデュアルEGR式になると、どこで容量を見るのか、エアフロ的なものなのか・・・制御の上ではポイントになるだろう。

こうしたテクノロジーにより、冷却を含めたデュアルEGRやマルチ噴射の高密精度燃料噴射、低圧縮、可変動弁系、そして排圧の変化に対応する過給器の最適化などでよりクリーンな排気ガスとなるが、それでも触媒は必要となる。しかし、これまでのような触媒が負う負担よりは少なくなるだろう。

今回は幸いにも新長期対応の前モデルのパジェロに試乗ができ、比較することができた。そして実際に試乗してみると、低回転から中回転域でのトルクの太さの違いを感じることができる。前モデルにマイナーチェンジした時点で、アイドリング時の振動やエンジン音は改善されており、その影響もあり、ディーゼルであるネガな部分はますます、小さくなったことを感じた。ディーゼルの得意な低回転から中回転域での走りはトルクフルで実に魅力的であり、ディーゼルマニアが求めているのは、このフィールではないか?と思う。是非、試乗してみることをおすすめする。

ニュージェネレーションのディーゼルは欧州で実証済み

さて、もうひとつ気になるディーゼルがある。三菱自動車では、現在欧州で走るRVRに搭載されている4N13型、4N14型ディーゼルで圧縮比が14.9というエンジンがあり、竹村氏のいう「より低圧縮なディーゼルエンジン」は既に開発済みなのである。これは1.8L、2.2Lでありパジェロの3.2Lとは排気量が違うので、スライド搭載とはならないが、技術的にはすでに完成しているといえる。

4N13 mmc_4n14

↑4N13型ディーゼル。右は東京モーターショーにも展示されていた4N14型

「ガソリンでもディーゼルでも圧縮比が14〜15あたりが、理想的で最も適しているのではないかと考えています。そうなればエンジンブロックは共通に使うことも可能となりますね」と竹村氏。

この4N13型、4N14型は圧縮比14.9で運転されており、欧州では既に市販されている。しかも非常に好評だという。竹村氏によれば、低温始動性の問題には、可変動弁機構をつけることで解決しているという。「吸気側を早閉じにして、ピストンがまだ下がった状態のときから圧縮が始まり、排気バルブを遅開きにして実圧縮比をあげています。ミラーサイクルの逆ですね」つまり、この可変動弁機構によって、実圧縮比を上げシリンダーの燃焼温度が下がるのを防ぎ、低温始動性の問題をクリアしているということだ。

そしてこの4N13型、14型は現在欧州の環境基準ユーロ5に対応しているが、ユーロ6となっても、三菱では後処理技術でこの規制を簡単にクリアすることができる。だからこそ、次なる一手としてデュアルEGRが考えられており、このエンジンが更なる進化をして、環境にやさしいユニットとして導入されるのは間違いないだろう。できれば国内にも導入してほしいが、それはわれわれユーザーが購入するという後押しが必要になるだろう。

文:編集部 高橋明

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