パジェロにポスト新長期規制をクリアしたディーゼルエンジンを搭載して登場

マニアック評価vol12
2010年9月2日、三菱自動車はパジェロにポスト新長期規制をクリアした4気筒3.2Lのディーゼルターボエンジンを搭載して発売したほか、3.8Lガソリンエンジン搭載車の燃費を向上させるなどの改良を施した。

01_SUPEREXCEEDフロント1PAJERO

まず、そのディーゼルエンジンだが、世界一厳しい排ガス規制である「ポスト新長期規制」をクリアしているのはメルセデスベンツE350ブルーテック、M350ブルーテック、日産Xトレイル・ディーゼルで、次いで3番目となる。それぞれのエンジンが規制をクリアした排気ガス後処理システムを整理してみると、周知のようにメルセデスベンツは、酸化触媒+DPF(ディーゼル粉塵用フィルター)と尿素水(アドブルー)を噴射してNOxを還元するSCR還元触媒を装備し、日産は酸化触媒+DPFとリーンNOx触媒を採用している。

そしてパジェロでは、酸化触媒→NOx吸蔵触媒→DPF→HC吸蔵酸化触媒という構成をとっている。NOx吸蔵触媒は、硫黄分が吸着しにくくなるように、チタン系化合物を添加した低貴金属触媒を採用し、Nox還元性能のアップを狙っている。過去のNOx触媒は燃料中の硫黄分が触媒に堆積して触媒性能をダウンさせたが、そうした現象を押さえ込んでいるわけだ。また酸化触媒の直前部には、DPFに滞留した黒煙粒子と吸蔵されたNOxを燃焼させるために、燃料を噴射する排気噴射弁も設置され、随時噴射が行われるのだ。これによりNOxは0.08g/km以下、黒煙粒子は0.004g/km(従来型エンジンで達成済み)という数値になり、ポスト新長期規制をクリアしている。

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↑排出ガスシステム図(右)NOXとラップ触媒

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↑(左)DPF(右)酸化触媒

エンジン本体をみてみると、搭載されたディーゼルエンジンは、旧モデルのパジェロにラインアップされていた4M41型を改良し、ポスト新長期規制に適合させている。04年に一旦販売を終了したが、改良を施し、2008年に新長期規制対応として販売している。そして、今回はさらに改良を加え、ポスト新長期対応へと最新世代にアップグレードしたといえる。

これまでの4M 41型は、蓄圧した高圧燃料を各気筒に分配する分配式高圧燃料ポンプ方式で、噴射圧は約130Mpa(1300気圧)、酸化触媒とDPFを装備する仕様であった。それに対し、エンジン形式は変更がなく、同じ4M41型の新型パジェロではコモンレール式に変更し、噴射圧を180Mpa にアップ。インジェクターの噴射孔を8個とし、孔径を0.16mmまで縮小して燃料の微粒子化をはかっている。圧縮比は旧型は17であったが16に変更、メルセデス・ブルーテックが17.7、日産が15.6であるから、その中間的な圧縮比といえる。

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↑コモンレールシステム

そして、使われるインジェクターはピエゾ式ではなく、ソレノイド式だ。しかもソレノイド式でありながら3ステップ噴射を行い、均質な燃焼を促進している。180Mpaで3ステップ噴射を行うという点では、ソレノイド式インジェクターの限界まで攻めているといえる。

また、燃焼で発生するNOxを抑制するために、大量のEGR(排気ガス再循環)が行われるのは従来型と同様で、燃焼温度を下げるためEGRクーラーを備えているのはかわらない。ただし、クーラーの容量はアップしている。

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↑クールドEGRシステム

細部では吸気ポート形状を変更してスワール流を抑制し、充填効率を高めている。またピストンクラウンも深皿形状に変更。さらに、燃焼サプライポンプの駆動ギヤトレインも改良され、ポンプはクランク軸等速駆動となり、ギヤの騒音を低減するためにアイドラーギヤにシザースギヤを採用するなどの変更が加えられている。

ターボは2008年の新長期規制対応の時からVGターボとなり、低速から高速までレスポンスと排圧低減の両立をはかっている。VGターボはエンジンの高回転、低回転による排圧の変化によって、排気タービンのタービンブレード角度が変化し、開口面積を可変させることで、全回転域で最適な過給が行えるとうタイプのものだ。またスロットルバルブは従来どおり電子スロットルが採用され、オルタネーターには充電制御も行われている。

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↑VGターボ

出力性能では、旧型4M41 型を大きく上まわり、最高出力で12%向上し140Kw/3500回転、最大トルクは441 Nm/2000回転となっている。排気噴射弁も備えているため、燃費面では不利だが、NOx吸蔵触媒、DPFを備えて旧型と同等レベルであり2015年規制をクリアしている。

このように、4M41型ディーゼルは、ある程度コストを抑制しながらポスト新長期排ガス規制にパスする性能を達成したことが評価できるが、このエンジンの登場によりパジェロのディーゼル復権はなるか興味深いところである。

ガソリンエンジンモデルは制御の最適化

そしてもうひとつのエンジン、3.8Lのガソリンエンジン搭載車だが、こちらはエンジン制御の最適化をはかり、10・15モードで+0.6km/L向上させ、グレードのスーパーエクシードは8.2km/L、VR-IIは8.5km/Lとなり、平成22年度燃費基準を+5%達成している。

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↑MIVEC3.8L V6ガソリンエンジン

また、全車にブレーキオーバーライドが装着された。走行中にブレーキペダルとアクセルペダルを同時に踏んだ場合、ブレーキを優先するシステムで、ペダルの踏み間違い防止などにも役立つ装備だ。

その他の変更点として、グリルがメッキ処理を施したものとなり、アルミホイールのデザイン変更、ボディカラーの追加としてクォーツブラウンメタリックが新色となっている。また、スーパーエクシードのハンドルには、本木目、本革巻ステアリングを専用装備とする変更が加わっている。

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↑スーパーエクシードインテリア

次世代ディーゼルはすでに欧州へ投入

そして、もうひとつ発表したのは、次世代乗用車用ディーゼルエンジンで、ヨーロッパ向けアウトランダーに搭載している1.8L、2.2L の乗用車用ディーゼルターボで、今年に入ってからすでに欧州市場投入している。

三菱は古くからディーゼルエンジンを重視しており、時代に合わせた技術開発を行ってきたが、この新開発乗用車用ディーゼル(4N13 型/4N14型)は、世界一低い圧縮比14.9とし、MIVEC(可変バルブタイミング&リフト機構)を組み合わせて吸気片弁低リフト、吸気早閉じなどの吸気コントロールを行うことで燃焼を改善している。200Mpaのピエゾインジェクター、可変VGターボ、オフセット・クランクシャフトなどを採用した意欲策だ。ただ、このエンジンはヨーロッパのユーロ5規制に適合させているが、当然今後はユーロ6に対応できるポテンシャルが与えられている。

↓グレードと価格

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AutoProveのひと言

三菱自動車としては、国内にも、はやくニューディーゼルエンジンを市場投入したいところだろうと想像できる。つまり、4N13型/4N14型エンジンだ。搭載はアウトランダーやランサー(ギャラン)、デリカD5などが考えられるが、国内市場の需要が不透明なだけに積極的にはなれない。確実に売れる欧州市場への投入が先行しているわけだ。(規制のタイムラグも多少影響するが)一方、われわれ国内の購入者側としては、車両価格がガソリンエンジン車と同等の価格であり、加速性能、静粛性など遜色なければ、燃費性に優れ、燃料代も安いこと、また、今であれば減税対象になることなどから、その優位性は理解されるだろう。個人的にはディーゼル愛用は知的なイメージも持っているのだが・・・

文:編集部 松本晴比古

三菱自動車 公式Web

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