先日、三菱ふそうトラック・バス株式会社が栃木県喜連川にある研究所で、開設30周年記念フェスティバルを行った。イベントの主催主旨は、地元住民との交流を目的とし様々な体験イベント、見学会などを行うというものだ。
↑高速周回路の同乗体験やトラック手押し競争など地元住民との交流がはかられた
喜連川研究所は、研究所という性格上、外部からの接触が容易にはできないようになっている。当然、周囲も樹木や壁で覆われ研究所内が覗けないように造られている。付近の住民からすれば「何をやっているのか?」という疑問を持っても不思議はない。そこで、この日は研究所施設を一般開放し、高速周回路の見学やトラック・バスの技術展示、歴史などが学べるようなイベントが行われた。
↑開会式で挨拶をする開発本部アイケ・ブーム副社長
また、三菱ふそうトラック・バスの社員を中心に総勢29名の有志により、歴代のトラックがレストアされている。今回展示されたのは2代目キャンターをはじめ3台であったが、レストア活動「ふそう名車復元プロジェクト」が発足し、今後計15台のレストアを行う予定ということだ。
↑レストア完成車は現在3台。計画では15台のレストア車両が誕生する
喜連川研究所は新型車をはじめ、エンジン、トランスミッションをはじめ、あらゆるコンポーネンツの技術開発・研究している場所である。施設内にはテストコースもあり、全長3.6km最大幅28m、最高速度220km/h(乗用車の試験速度として)に対応したトラック・バス専用としては、世界最大級の高速周回路をもっている。そして、三菱ふそうトラック・バスすべての耐久走行試験も行われている。
トラック・バスの試乗会
イベント前日にはメディア向けの試乗会も実施され、準備された試乗車は小型トラックから大型観光バスまで、全ラインアップを試乗することができた。
中でも注目なのは、ハイブリッド車とポスト新長期規制に対応したディーゼル車だ。乗用車への技術は、トラック・バスからのフィードバックも多くあり、特に、ディーゼルに関した技術はトラック・バスのほうが先行しているケースもあるので、それぞれ簡単に特徴をみてみよう。
まず、キャンターエコハイブリッド。システムはパラレル式でエンジン、モーターの両方で駆動が可能なタイプ。とりわけ、発進時にモーターだけで動くことも可能。また、巡航時にモーター駆動に切り替わることもあり、ハイブリッドに乗っているという感覚が味わえる。さらにブレーキ回生も行われているので、かなりの省燃費性があるモデルだ。また、エンジン始動もセルモーターを使わずモーターで始動することもできるので、深夜の住宅街などへの配送業者から喜ばれているとのことだ。
↑キャンターエコハイブリッドはパラレル式ハイブリッドで写真はモーター部とエンジン
搭載されるエンジンは3.0Lの直噴DOHC16バルブ・ディーゼルエンジンにインタークーラー付きVGターボを装着。このタービンはエンジンの低回転、高回転による排圧の変化によって排気タービンのタービンブレード角度が変化し、開口面積を可変させることで、全回転域で最適な過給が行えるというタイプのものだ。
中型トラックファイターはポスト新長期規制に対応したモデルで、ブルーテックを採用している。三菱ふそうトラック・バスは現在、ダイムラー社のトラック・バス部門であるから、メルセデスベンツで採用されているブルーテックの名称でアドブルー(尿素水噴射)技術がトラックに投入されたというわけだ。
ブルーテックには排出ガス後処理システムとして、尿素水溶液を使った装置が搭載されている。尿素中のアンモニアNH3がNOxをN2とH2Oに還元する反応を利用したもので、尿素SCR方式と呼ばれている。そして使用される尿素水アドブルーの補充に関するインフラも整備できているという。
つまり、メルセデスベンツEクラスの場合、約1000kmで約1L消費する。タンク容量は24Lだから一般的な乗り方であれば、車検時に補充しておけば不足することはない。がしかし、業務用のトラックは10年150万kmといわれるように、走行距離は乗用車の10倍以上。それだけにアドブルーの補充回数も多くなる。そこで、販売店での補充はもちろん可能だが、複数台所有する事業者が直接購入し管理することができる、ということなので管理が簡単になるというわけだ。
↑ポスト新長期規制に対応したファイターはブルーテック技術が採用され、アドブルーのタンクが見える
大型トラックのスーパーグレートには12速のINOMAT-IIというAMTが搭載されている。AMTとはオートマチック・マニュアル・トランスミッションのことで、マニュアルモード付きATとは異なる。構造的にはMTをベースにクラッチ操作とエンジンの回転を合わせる操作を自動で行うものなので、トルクコンバーターはない。このイノマットAMTは自動変速モードも備えているため、変速ショックも少なく、省燃費にも貢献している。ちなみに、中型ファイターには6速のAMTが使われている。このスーパーグレートにもブルーテックが採用され、ポスト新長期に対応しているモデルだ。
↑大型トラックのスーパーグレートもブルーテックが採用されている
実はこの日に実車はなかったのだが、三菱ふそうトラック・バスでは独自にデュアルクラッチ式のトランスミッションを既に開発しているのだ。小型トラック用としてオリジナルに開発されたもので、「DUONIC」と名づけられている。次期小型トラック・キャンターに搭載される予定だ。
さらに、この小型トラック・キャンターのエンジンは、本Webでもお伝えしたFTP(フィアット・パワートレーン・テクノロジー社)が開発したマルチエア・ディーゼルエンジンを搭載する。もちろん、ブルーテック技術も投入され、ポスト新長期に対応するモデルとして登場してくる。このように、実はトラック技術にも目が離せないのである。
最後に大型観光バスエアロクイーンについてだが、車両本体で約3000万円。運転した感触は高級車のフィーリングで、とても豪華で優雅な気分にしてくるものだった。申し分けないが、バスを運転したのはこの日がはじめてで、とてもインプレなど語ることはできない点をご容赦いただきたい。そしてブルーテック採用のポスト新長期対応モデルであることを付け加えておく。
↑大型観光バスエアロクイーン
↓おまけ動画 豪華エアロクイーン運転風景
文:編集部 高橋明
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