雑誌に載らない話vol10
今度の新型プレマシーは、「NAGARE」デザインコンセプトの第一弾でグローバル戦略車としてデビューした。欧州市場を強く意識したつくりはCd=0.30という優れた空力性能にも現れ、そして、マツダ自慢のからくりシートの使い勝手のよさを継続アピールしている。そのクルマ造りは「統一感」をポイントに開発し、ミニバンではあるが、ハンドリングも良好な結果となった。とりわけ、モーターじゃナリストの桂伸一氏は、メーカーのクルマ造りに対する姿勢も含め絶賛していている。その具体的な理由を桂氏に語ってもらった。
「統一感」のクルマ造りが期待を膨らませる
ボクはマツダが提唱した「統一感」を非常に高く評価しています。マツダが大事にしているスポーティネス(運転の楽しさや軽快感)とミニバンとしての快適性(高速での安心感、市街地での扱いやすさ、同乗者の快適性)を両立することを目標としたテーマが「統一感」というキーワードで、その中で、特に走りにおいてその「統一感」を具体的に感じました。
それは、減速、旋回、加速という走行の動きの中で、ブレーキをかけた瞬間から減速Gと荷重移動が起こり、続けてステアリングを操作すれば横Gと旋回が始まる。そして、前後の荷重移動から左右の荷重移動と同時に姿勢が複雑に不安定な姿勢へと変化する。そこに今度は加速が加わると、左右の荷重移動から再び前後の荷重移動へと変化する。
減速からひとつのコーナーを抜けるまでには、アクセルやブレーキ、ステアリングの操作があり、その時に起こるクルマの姿勢変化に“つながりや連続性”があるのか? そこをボクはいつもクルマ評価の基本として見ています。それが今回のプレマシーはよくできている、と言えるわけです。
これまではブレーキはブレーキ、ステアリング操作による旋回は旋回という操作に対して、個々に独立していてバラバラな動きをする。だから操作に対してクルマの動きが不自然でぎこちない。そこが自然で滑らかになったのです。実は先代のプレマシーを含む日本車に多い現象で、しかし欧州車、特にドイツ、イギリスのクルマはそこがキレイに決まる。“つながる”から、乗りやすいし気持ちいいという違いはあります。
だが、日本車には滑らかなクルマは少ない。その原因は発売に向けて時間に追われた煮詰めの甘さでしょう。人が感じる官能評価がおろそかなのかも知れません。ブレーキはブレーキ屋、アクセルはエンジン屋が制御を担当するのか、少しの踏み込み量に対して、急激に飛び出し感を演出するエンジン特性。わずかな操作で鋭い反応を示すものの、結果、直進性が疎かになるステア特性。ブレーキは、ペダルストロークや踏力に対する変化が大きく、抜きを含む減速Gのコントロールが難しい。どれも人工的な味付けが多く、リニアリティとか、自然な操作フィール、という点からかけ離れてしまうのです。
でも、メーカーはそういったことは、もちろんわかっている。しかしそれがなかなかできない。日本の道路事情にそこまで細かく要求する必要は無い、と考えているようだし、顧客が要求しないと、片付けられることもある。それでは日本車はアジア車と変わらない。例えば、ドイツのサスペンション担当エンジニアは、もちろんサスが生む操縦性や乗り味について、コメントを求めると即答で返す。その同じ人に、エンジンのことを何気なく聞くと、『自分は担当外なので詳しくないが・・・・・・』としながらスラスラと燃焼効率まで解答する。クルマのすべてに精通しているな、と感じさせる場面だし、同時に自身で乗って確認しているということが言葉尻からわかる。
一方日本では、いちいち担当者を呼んでコメントさせる。それはより正確に答えようとする日本人の律儀さもあろう、しかし、じゃあ、乗っているかと聞くとテストドライバーの話の受け売りも多い。さらに言うと、ドイツ人が多いメーカーは、クルマに乗れるエンジニアが多いこともある。テストドライバーか? と思えるほど凄腕のエンジニアが多い。だからよほど“自信”がなければ、うかつにハンドリングを指摘できない。
しかし、新型プレマシーは、メーカー側の姿勢として『統一感』を重視してクルマを造ったと言った。まずはそのような評価をしていることを“評価”する。と同時に、本当にメーカーが主張するように仕上がっているのか、興味深かった。それで、乗ってみると確かに“そうだった”のだ。だから今後のマツダ車には、こういう一貫した考え方で通してほしいと訴えた。マツダのクルマ造りが変わるかも知れない、との期待が膨らむ。
不安感のない安心したハンドリング
具体的に体感したことというのは、背が高いミニバンなのに低重心感があるということ。頭からグラッと倒れこむようなロール姿勢にならず、腰で横Gが感じられ、セダン感覚のコーナリングをする。だからまったく不安がない。硬さと柔らかさのバネレートが絶妙で、突き上げる硬さはなく、乗り心地に傾倒し過ぎた柔らかさもない。安定性のためにサス・ストロークを規制した感じもなく、ストロークさせながらダンパーが減衰して動きを収束する、という当たり前のことが、日本車としては目が覚めるほど見事に仕上がっている。
装着されているタイヤは15インチから17インチ。17インチは直進状態から、こぶしひとつ分切り込んだとき、予想以上に早い切り込み方をするので、少し敏感すぎるかも知れない。旋回中のサスとタイヤの横方向の剛性感は、4名乗車ということを考えると実に高い安定性は確実にある。16インチはよりマイルド、自然に近いが、それでも基本的に敏感な部分は残っていて、そこをタイヤ特性というか性格がマイルドに和らげているようだ。
こうしてオーバーオールに見てみると、言っていることと、クルマの動きが重なり合う。つまり身のある進化をしている。やたらと敏感な操縦性だった従来のプレマシーやMPVなどから、ひと山乗り越えたと思う。それでも、まだまだ、やることはあるとは思うが、「統一感」という意味に含まれる人とクルマのつながりに関わるクルマ造りの方向性は正しい。今後のマツダの全車にこのコンセプトを広げてくれることを願う。
文:桂伸一(AJAJ:日本ジャーナリスト協会、COTY:日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員)