レクサスの新しいクロスオーバーSUVのNXは2014年7月に欧州と日本で発表、発売されたが8月上旬に夏休みで賑わう軽井沢周辺で公道試乗会が行なわれた。
◆ポジショニング
ボディサイズは全長4630mm×全幅1845mm×前高1645mm、ホイールベースは2660mmでC、Dセグメントの中間サイズになる。ポジショニングは当然プレミアムクラスでありライバルはBMW X1,&X3、アウディQ3、さらにレンジローバー・イヴォークなどが考えられる。
エクステリアはレクサスのアイコンであるスピンドルグリルでその存在感を示し、ひと目でレクサスとわかる顔つきをしている。サイドビューでは線の強いアクセントラインと小さめのサイドウインドウが目を惹く。またルーフラインのピークが後席の頭上にくる独特のデザインとし、さらに傾斜したリヤウインドウや大型スポイラーなどでスポーティさを強調している。また、リヤビューにもスピンドルグリルをモチーフとしたデザインを取り込み全体のまとまりとしている。
インテリアはレクサスに共通する水平基調のデザインで構成してあり、骨格の現われる部分には金属の質感を、人の触れる部位には革の質感、そしてステッチをあしらう演出などで高級感を創出している。スイッチ類やメーター類には情報が多く、また小ぶりなスイッチが多く配され、見方によってはスポーティなデザインといえる。
搭載するパワーユニットはハイブリッドと2.0Lガソリンターボの2種類。ハイブリッドはトヨタのHEVシステムTHSⅡで2.5Lガソリンエンジンにモーターを組み合わせ、電気式無断変速機を搭載している。JC08モード燃費はFF標準車NX300hでクラストップの21.0km/Lとなっている。ハイブリッドモデルの価格は492万円から582万円(税込み)となっている。
◆ ダウンサイジング2.0Lターボ 新エンジン
注目は新規エンジンとなる2.0Lターボ。ダウサイジングコンセプトを取り入れたレクサス次世代エンジンである。またターボエンジンはレクサス初でもある。この8AR-FTSと名づけられた新エンジンには、数々の新技術が投入されている。このエンジンの詳細は2014年秋に論文発表される予定のため、詳細記事はもう少し待つことになる。
とは言え気になる人へ、明かされている範囲でレポートすると、低燃費高熱効率を目指し、V6型エンジン並みの性能、理想の加速G曲線を描くことを目標としたエンジンである。過給器エンジンとしては36%という高い熱効率性能を持っている。またFF、FRにも対応でき生産面でもグローバルに生産できるような配慮もされているという。
シリンダーヘッドには初のターボとの組み合わせとなるD-4ST燃料噴射で、低負荷時にはポート噴射、高負荷時は直噴と燃料噴射を使い分けるシステムだ。吸気ポートには高タンブルを発生させるためのテーパー形状の加工が施され、燃焼室では特殊な三日月形凸をピストンヘッドに設け、そこに燃料を噴霧し、強いタンブル流を増幅させている。使用される燃料インジェクターはマルチ噴射で扇型の形状でスプレーする(ファンスプレー)ソレノイドタイプを採用している。
ターボチャージャーはツインスクロール式で4-2排気を組み合わせている。エキマニに相当する部分はシリンダーヘッドに内蔵され、1番と4番、2番と3番が束ねられ4-2集合になっている。排気の流れとしては1番の排気はイン側タービンに、次の3番排気がアウト側タービンに流れる。排ガスのエネルギー損失を最小限化したこのエキマニ内蔵式ツインスクロールターボ採用は世界初の技術である。
さらに中間ロック式の広角VVT-iWにより、低負荷時にはアトキンソンサイクル運転を行なうようになっている。しかし燃焼タイプとしてはリーンバーン(希薄燃焼)とはせずストイキ(成層燃焼)としている。というのが大まかな内容だ。この2.0Lターボ搭載モデルは428万円(税込み)からとなっている。
◆インプレッション
さて、試乗したのはこの2.0Lターボを搭載するFFモデルのNX200t versionL。装着するタイヤサイズは225/60-18でヨコハマのブルーアースE51を履いていた。
シートポジションはSUVらしく見晴らしのよいポジションだが、キャビンフォワードの影響からか、ペダル位置が手前に感じてしまう。ドライバーズシートはホールド性も高くスポーツドライブでも安心できる。もちろんアジャスト機構は電動で、ステアリング調整も電動化というプレミアムモデルにふさわしい装備だ。
アクセルを踏み込みスポーツドライブを楽しむと、少し特徴が出てくる。ステアリングのEPS(電動パワーステアリング)は車速にも反応し、低速域では軽くなり駐車場などでの取り回しは楽だ。車速があがれば手ごたえが増し、しっかり感が伝わるがフル加速中の操舵では重さの変化が少し気になった。
また旋回ブレーキではリヤの動きが敏感でイン側への回頭が素早く起こる。これはスポーティな反応という見方もあるが、評価が分かれるかもしれない。速度域にもよると思うが通常のワインディング走行であれば、回頭性が高く、よくノーズが入る。しかし旋回時に切り足しするような場合、瞬時に回頭せずややアンダーステアの挙動を見せる。このとき、軽くブレーキに触れると瞬時に向きが変わるというある意味懐かしい挙動をする。
搭載するトランスミッションは新設計の6速ATで、ライバルが7速AT、8速AT、さらには9速ATを搭載する中、厳しい戦いが想像される。そして1800kg前後の車重に対し350Nmのトルクを6速で走らせており、中間加速など瞬時の反応では苦しい。350Nmという大きなトルクをトルクフルに感じさせるシーンが少ないとも言える。もっともスポーツモードも備えており、レスポンスが気になるという人は切り替えれば済む。
また、電子制御のサスペンションはこのドライブモードの切り換えによって変化する。ロールが気になる、コーナーでの踏ん張り感が欲しいという場合にはスポーツモードで対応できる。逆に乗り心地重視、燃費も気になるという人はエコモードおよびノーマルモードが選択できる。
ハイブリッドモデルでは300h F SPORTを試乗した。こちらは235/55-18を装着し銘柄はブリヂストン DUELER H/L。
ハイブリッドモデルはバッテリーの状態次第でEV走行を自動で行なうため、静かだが2.0Lターボモデル同様、しっとりとした乗り心地は欲しい。さらに、フル加速をするとNX200tよりもエンジン音が聞こえる。これは音の入りすぎで、おそらくエンジン音の音質が聞こえ易いのではないかと想像する。
トヨタTHSⅡの歴史が物語るように、HEV機構は熟成されつつありハイブリッドであるがためのネガな部分は見当たらない。運転をしても、また助手席、後席に座っても快適な印象となっている。唯一気になったのはブレーキタッチで、油圧式のコンベンショナルな仕組みのものとは別のフィールであるため、その違いを感じた。だが、馴れてしまえば気になる類のものではない。
ハンドリングではFスポーツにだけ装備される、ヤマハ製パフォーマンスダンパーが装備されている。働きは車体の変形や振動を整える役目をし、具体的には剛性感がアップしたように感じる効果があるというものだ。実際、コーナリング時のロールが少なくなり、直進時の安定性やアンジュレーションのある路面でもボディ剛性の高さを感じさせてくれる。そのため、安心感につながり、疲れにくいということになる。
レクサスNXのボディ自体も剛性を高めるためにスクリュー溶接やスポット溶接箇所増、構造用接着剤などでボディ性能の向上を図っているが、パフォーマンスダンパーのあり、なしの違いが感じられ興味深いポイントでもある。
こうして新型レクサスNXを眺めてみると、スポーティルックでブランドストリートを優雅に走る、あるいは高速道路を快適な速度で巡航する走り、さらにスポーティなハンドリングを目指すモデルというのは理解できるが、いずれも制約のある限られた条件の中で、最大限の努力を惜しまない開発から産まれたという苦しさも見えてしまった気がする。