マニアック評価vol146
2012年10月11日に発売された、4代目レクサスLSのビッグマイナーチェンジモデルに試乗する機会があり、箱根周辺で試乗してみた。ライバルが続々とフルモデルチェンジをする中、ビッグマイナーチェンジとした理由には、このクルマのポテンシャルはまだ十分に引き出せていない。したがって、「熟成の極みと革新の融合」をキーワードに現行モデルをモディファイすることを選び、次世代のレクサスLSとして誕生させることが可能だという理由からだった。
テクニカルな変更部分については、既に当サイトで紹介しているので、詳細はそちらを見ていただきたい。こちら→【レクサス】熟成と革新をテーマに、スピンドルグリルの新型レクサスLSが登場
新型レクサスLSの開発の狙いは、1:次世代レクサスデザインをTop of Lexusだけが成し得る次元へ昇華、2:上質・洗練の走りは熟成を極め、その上でエモーショナルな走りへと進化、3:先進安全技術と最先端機能の進化で世界をリード、を掲げている。
今回試乗したモデルはLS600hのハイブリッドモデルF SPORTと、LS460Lのエグゼクティブパッケージ。このF SPORTは新たに加わったスポーティグレードで、LSの中でもドライバーオリエンテッドな意味を持つモデルだ。標準モデルと比較し、車高は10mm下げられ、バンパーデザインでも開口部を大型化しメッキ加飾を施している。インテリアでは、専用の本革スポーツシート、専用ステアリング、アルミペダルを採用している。
パフォーマンスの点では、ハイブリッドのF SPORTにはアクティブスタビライザーが装備され、ガソリン車にはトルセンLSDとエンジン音を強調・演出するサウンドジェネレーターが設定されている。また、リヤサスペンションメンまわりの剛性をさらに高め、リヤのグリップ感を向上させている。足元にはブレンボの対向6ポッドキャリパーのブレーキにBBS製19インチアルミ鍛造ホイールを履く。
そしてこのマイナーチェンジからドライブモードセレクトが装備され、ECO、コンフォート、ノーマル、スポーツ、スポーツS+という5つのモードが設定される。モードによりサスペンションの制御変更とともに、ステアリングのVGRSのアシスト量も変化するが、これはスポーツS+のときだけ作動する。
このスポーツS+モードでは、欧州車ではよくあるVDC(横滑り防止装置)がカットされるがレクサスLSではカットされない。ちなみに、EPSはステアリング・ラックをダイレクトに動かすタイプで、その上流にVGRSのハーモニックギヤにより増減速してアシスト量を変化させている。マップとしては2種類しかなくスポーツS+のときだけ、クイック指向になる。
このドライブモードセレクトにより、制御されるものにはパワートレーン、エアコン、AVS、EPS、VGRSそしてメーター色の変化がある。この中のAVSは以前のトヨタ車ではTEMS=Toyota Electric Modulated Suspensionと呼ばれていたものに代わりAdaptive Variable Suspensionという名称になったものだ。それぞれのモード時にどのように制御されるかは混乱しやすいので、別表を参照してほしい。
ハンドリングはスポーツS+をチョイスしたとしてもスポーツカーのように変貌するわけではない。やはり最上級のプレミアムセダンに相応しいハンドリングと乗り心地を確保してあり、ゴツゴツしたりクイックになったりというスポーツS+モードではない。走行状況によって使い分けるのだが、欧州の超高速域ではやはりスポーツやスポーツS+をチョイスし安定性を高めたい。また、市街地でゴーストップが多いときなどはECOモードを選ぶといった使い方がいいだろう。
試乗したF SPORTはLSの中でもスポーティさを謳っているモデルであり、2.0tを超える車重でも、まるで平坦路のように軽々と箱根の山を登る。高速でも全体に締まった感じが伝わり、安心感と安定感は高い。そして全車共通だがボディ剛性が上げられたために、車両全体のしっかり感が強く、それも安心感や安定感に繋がる要素だった。
これまで北米で成功を収めたショーファードリブンから、オーナーズカーとしてのポジションチェンジを明確にしたグレードという見方もできるだろう。そのために、ドライブモードセレクトが加わり、ボディ剛性そのものを上げワンランク上の走りを得るための変更が重ねられた。国内試乗で超高速域でのインプレッションは不可能だ。ただし可能な範囲でのフィーリングではドイツ御三家と戦う姿勢は感じられるモデルだった。
さて、次世代レクサスデザインをTop of Lexusだけが成し得る次元へ昇華、という開発目標だが、話題のスピンドルグリルに代表されるのが新レクサスデザインだ。LSはボディサイズも大きくグリル面積も大きいので、やはり迫力があり存在感が強くアピールされる。ルームミラーに写ればひと目でレクサスとわかり、自車に近づく速度によっては威圧感も十分に感じる顔になったと思う。日本、北米はもちろん、欧州でもそのポジショニングは十分に意識させられるデザインだといえる。
もうひとつの開発目標である、走りの上質、洗練を熟成の極みとするというポイントでは、LSの目指す方向性がはっきりと見えてくる。それは、走行はあくまでも滑らかに、静かで、上質な空間移動をイメージさせ、ドイツのプレミアムセダンのように、キーとなる作動音は消音させず、どこかで機械であることを意識させるものとは違ったベクトルであるということだ。レクサスLSの上質でプレミアムな室内は、外部からの雑味を消し、自身が機械であることを意識させられないほど静かで、まさにリビングルームのような快適さがある。
試乗したLS600hはEV走行もするので、なおさら滑らかにしなやかに走行し、多くの革新技術を持つモデルでありながら、それを感じさせないところが革新的でもある。あくまでもクルマの中に技術が溶け込んでいて、その存在を気づかせていない。これがレクサス流プレミアムセダンの造り方というベクトルだろう。
水平基調のインテリアデザインはF SPORTであってもやはり乗員へのもてなしがはっきりとあり、LSの価値観がそこにはしっかり感じ取れる。またLS460Lのエグゼクティブパッケージはストレッチされたボディに4座席という仕様でまさに、ショーファードリブンのモデル。後席の快適性はすこぶる高い。いずれも高級なレザーシートに家具のごとくデザインされたインテリア。そして使われる素材にも気を配った調度品をもち、所有する悦びと満足感は高い。
ノイズリダクションホイールも採用している。これはアルミホイール自体に空洞部を設け、タイヤのたわみ時に発生する空気の流れの変化から、ある特定域の周波数を空洞部へエアを流すことで特定の周波数域を発生させない、つまり静粛性を高めるというホイールを採用しているが、そこを理解するには乗り比べが必要だった。静粛性がどこからくるものなのかという判断は困難である。ただし高速道路の継ぎ目では違いを感じることができるということだ。
3つ目の開発目標では、先進安全技術と最先端機能の進化で世界をリード、である。安全装備に関してレクサスの統合安全コンセプトは5段階にわけて対策している。それは1:日常からの安心を確保、2:危険な状態に至らせない、3:危険回避をサポート、4:事故のダメージを低減、5:事故後の救護をサポートの5段階である。
この中で、レクサス初採用としてAHSと衝突回避支援型PCS、さらに新規にブラインドスポットモニターがある。AHSとはアダプティブハイビームシステムで、ヘッドライトを安全面の点からハイビームを走行モードとし、先行車、対向車がまぶしくないように、ビームの一部を遮光するシステムであり、ステレオカメラを搭載したことで、周囲の状況を正しく判断することが可能になったため、搭載できたものだ。
ブラインドスポットモニターは、車線変更時にドアミラーの死角となる後側方の車両を検知し、注意を促すシステムで24GHzのミリ波レーダーを用いて判断している。AHSとこのBSMのふたつは、危険な状態に陥らせないためのプリクラッシュセーフティ技術である。
↑ハイビーム時に、先行車両にだけヘッドライトがあたらないように遮光している。PCSでは赤外線も採用している
さらに、衝突回避支援型PCS(プリクラッシュセーフティ)は、昼夜を問わず、歩行者や車両に対する衝突事故の回避を支援するもので、市街地から高速走行まで広い車速域をカバーするものだ。障害物を認識すると、ドライバーへ警報で知らせ、ドライバーが回避しない場合は対象物との相対速度が40km/h以下の状況では自動ブレーキにより衝突を未然に防ぐ。相対速度が40km/hを超えるような場合は自動ブレーキやブレーキアシストにより衝突スピードを減速させ、被害軽減を図るというものだ。
この衝突回避支援型PCSは、現在レクサスだけがミリ波レーダー、ステレオカメラ(デンソー製)、近赤外線投光器という3つの衝突回避機能を有し、世界トップレベルの衝突回避支援性能を実現している。
余談だが、トヨタの安全の歴史としては2003年にハリアーにブレーキアシスト機能が最初に採用され、その後セルシオで衝突軽減ブレーキシステムを採用。2006年に歩行者検知機能が加わり被害軽減、2012年に衝突回避という流れだ。そもそも国土交通省では自動ブレーキにより衝突回避をしてはいけないという規則があったが、のちに変更され、トヨタはモノの認識のロジックとブレーキ制御のロジックを改良し、回避までできるようにしている。他社でもさまざまな衝突回避技術を開発しているが、ミリ波やステレオカメラの性能に依存した開発ではなく、統合的な制御技術により高い回避技術をアピールしているわけだ。
レクサスブランドの起源は1989年北米からスタートしている。当時、キャデラック、リンカーンなどがプレミアムカーとして定着していたが、レクサスは機能的で経済性に優れ、アフターフォローも含めてのサービスを提供したことで、レクサスブランドの定着に成功している。
そして戦いの場をドイツ御三家の本拠地である欧州へと広げるが、ショーファードリブンとして成功したレクサスLSが欧州ではオーナーズカーとしての価値、性能を求められている。そうした声に応えるために、今回の追加グレードF sportが加わっていると思う。
LSというモデルはプレミアムセダンのセグメントにおいて、どうしてもドイツ御三家と比較されてしまうが、クルマ造りにおいては、ベクトルが異なっていると感じるのはそのためだ。ショーファーとしてのポジションは国内の企業や官公庁、そして北米ではすでに確保している。そして次なるポジションとしてオーナーズカー=ドライバーズカーとしての存在をどこまで広げられるか、その新たな戦いが始まったということだろう。
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