マニアック評価vol156
レクサスのコンパクト・セダン、ISの2代目となるニューモデルは2013年1月のデトロイト・モーターショーでワールドプレミアされる予定だが、それよりも一足早く開発車両のプロトタイプに試乗する機会が訪れた。
ボディに施された唐草模様の偽装は面の凹凸をわかりづらくする効果があり、エクステリアはヘッドライトが何やら凝ったデザインになっている以外はほとんどわからない。
ボディサイズは全長4660×全幅1812×全高1430mm、ホイールベースは2800mm。現行モデルと比較するとフロントオーバーハングが5mm、ホイールベースが70mm、合計で全長が75mm伸ばされ、全幅は12mm拡大。全高は変更なしとなっている。
パワートレーンは現行と同じくIS250には2.5LのV6型、IS350には3.5LのV6型が搭載され基本的には6ATが組み合わせられ、3.5LのF SPORTだけにはIS-F譲りの8ATがおごられることになった。また、新しいグレードとして2.5L 直列4気筒エンジン搭載のハイブリッドカー、IS300hもラインアップ。GSのV6型よりも燃費志向で、リーズナブルでもあるので日本市場の本命モデルになりそうだ。
プロトタイプ試乗に用意されたのはIS250 F SPORT、IS350 F SPORT、IS300h F SPORTの3台。本来、F SPORTはAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)が標準装着となるそうだが、今回のIS 250 F SPORTだけはコンベンショナルなサスペンションが装着されていた。
試乗ステージは広場にカラーコーンを並べたシンプルなコースだったが、ジムカーナほど細かなターンを繰り返すのではなく、ストレートも長いサーキット風のレイアウトだった。コーナーの曲率は小さめだが、公道では試せない限界付近のハンドリングも存分に堪能することができた。現行モデルのIS250 F SPORT、IS350 F SPORTも用意されていたが、その差は明確だった。
現行モデルは軽快にスポーティに走れるのだが、この日のウエット路面ではグリップを失うときの挙動がやや唐突。スタビリティもあまり高くなく、リバースステアに陥ることもある。それに比べると次期ISプロトタイプは滑りやすい路面をグッと鷲づかみにし、グリップ変化も穏やか。サスペンションがしなやかでタイヤの能力を引き出しやすいのだ。とくにリヤはどっしりと落ち着いていて、自信をもってアクセルを踏み込んでいける。ステアリングフィールも現行モデルより良好だ。
このようにシャシー性能は大きくステップアップしているのだが、相対的にリヤが勝っているため旋回速度を高めていくとアンダーステア傾向が顔を出しがちなのが現状ではある。追い込んでいったときに最後のもう一踏ん張り、舵が効いてくれると「意のままに操る」という感覚をモノにできると思うのだ。そこは開発陣もわかっているそうで、前後バランスが適正になるよう最終的な煮詰めのセッティングの最中だという。スタビリティ不足のクルマをまともに走るようにするのは骨の折れる作業だが、それに比べれば安定志向のクルマをキビキビとさせるのはそう難しくはないだろうから期待が持てる。ワールドプレミアは間もなくだが、実際に発売されるまでは半年ぐらいはあるので調理する時間としては十分だろう。
いずれにせよ、次期ISのシャシーはポテンシャルとしては大幅に向上しているのだが、その秘訣はボディ造りの進化にあるという。しっかりとした剛性を確保するために、スポット溶接の数を増やすだけではなく、レーザー溶接、ウェルボンド接合、ホットスポットといった生産技術を積極的に採用しているのだ。設備投資や生産現場の協力なくしては実現できないことだが、レクサスとしての上質な乗り味にスポーティな操縦性を達成するために不可欠だとの認識が隅々にまで行き渡っているからこそ一丸となって取り組めているのだという。
ガソリン・エンジンは従来と大きな変更はないが、サウンドジェネレーターの採用によって吸気音がスポーティになり、IS350 F SPORTの8ATは当然のことながら高いパフォーマンスとより一層のスポーティな加速フィーリングをもたらしていた。3.5Lエンジンはエキゾーストノートや吹き上がりの迫力に関しては世界中のV6型エンジンを見渡してもトップレベルにあるのでスポーティ派から不満が出ることはないだろう。
ハイブリッドは、欧州モードでのCO2排出量で100g/km切りを目指しているという環境性能の高さが自慢だが、フィーリングもまずまずだった。エンジン回転だけが先にあがって車速があとからついてくるようなCVT特有の加速感を改め、ステップギアのようにリニアな制御をしているからだ。GS450hほどの速さはないが、ISらしいスポーティさを感じさせるには十分なパフォーマンスがある。IS250やIS350がアイドリングストップも付いていないことを考えれば、エコロジーにも気を使いたい人が増えている日本ではハイブリッドが最有力候補になることは間違いない。じつはガソリン・エンジン・モデルの前後重量配分はややフロントよりだが、ハイブリッドはほぼ50:50。重量は増えるが、バランスはいいのでハンドリング面でも大いに期待がもてたりするのだ。
開発の最終局面を迎えている次期ISだが、レクサスらしい上質な乗り心地や静粛性の高さにはより一層の磨きがかかっている。あとはスポーティなハンドリングをたしかなものにするためにスパイスをどれぐらい効かせるのか? 料理人の腕の見せ所といったところだ。