いすゞとUDトラックスは2023年3月30日、共同開発した4×2(2軸)、6×4(3軸)のトラクターヘッド「ギガ」(いすゞ)、「クオン」(UDトラックス)を発表したが、正式発売日となる4月4日にUDトラックスは、13年ぶりに復活させたクオン・シリーズのフラッグシップとなる「クオン GW 6×4」の詳細をお披露目した。
■ 530psエンジン、電動アクティブ・ステアリングなど最新技術を採用
クオン GW 6×4は、2軸駆動のトラクターヘッドで、総重量62~86トン、連結部荷重20トンを実現しており、まさにシリーズのフラッグシップという位置づけだ。
搭載エンジンは直列6気筒ターボ・ディーゼル(GH13TC型)でボア・ストロークは131mm×158mm、総排気量13Lで、クラス最高となる最高出力530ps/1431-1700rpm、最大トルク2601Nm/990-1431rpmを発生する。なお排ガス浄化システムは尿素SCRシステムを搭載。なおGH13シリーズには490ps、470ps仕様も設定されている。
組み合わされるトランスミッションはUDトラックス独自の12速のESCOTⅦ(2ペダル・AT)で、この最新バージョンでは従来タイプに比べ、ギヤチェンジ速度の向上と変速の滑らかさに加え、高速走行時にはコースティング走行も可能となっている。
そして補助減速システムは、エンジン本体での排気ブレーキに加えトランスミッション部に一体化された大容量の流体式リターダーを備え、下りの峠道などではほとんどを補助ブレーキのみで走行できるようになっており、フットブレーキの負担を大幅に低減している。なお、エンジン排気ブレーキ+リターダーはステアリングコラムに取り付けられたレバーで補助ブレーキ力を段階的に調整するすることができる。
なおブレーキは全輪ディスク・ブレーキで、通常のドラム式に比べて耐フェード性も格段に高い。
またクオン GWシリーズの後2軸のサスペンションはリーフ式とエアサスペンションがラインアップされている。このクラスのエアサスペンションは異例で、悪路走破性能に加え乗り心地の向上、荷崩れなどを起こしにくくすることができる。
滑りやすい路面、悪路では駆動輪のデフロックを走行中に操作できる。駆動2軸の中間でのロックと、より滑りやすい路面では駆動2軸完全デフロックも選択できるようになっている。
クオン GWの大きなアピールポイントが電動油圧アクティブステアリングを装備していることだ。油圧ステアリングをモーターで制御することで、センサーの情報により低速では軽く、高速ではしっかりした操舵力とし、さらに横風での自動修正、60km/hではレーンキープ・アシスト、そして低速の前進・後退時のステアリングの自動戻し制御などが行なわれ、ドライバーの負担を大幅に低減している。
なお前方カメラ、レーダーも搭載され、衝突軽減ブレーキ、全車速追従走行、ドライバーモニタリングも装備され、これもドライバーの負担軽減につながっている。
このような、電動油圧アクティブ・ステアリングや運転アシストシステムにより、従来のトレーラー・ドライバーの重いステアリングを何回も回し、戻す操作が大幅に扱いやすくなっておし、疲労を低減させているのである。
言い換えればこれまでの大型トレーラーと比較して、格段にドライバーの負担が減りある意味で乗用車的になっていることが理解できる。
■ 2024年問題
しかしこうした大型車両の技術トレンドの背景には根深い問題が山積しているのだ。直近の課題は物流業界における2024年問題、つまり来年4月から施行される働き方改革関連法規だ。トラックドライバーにも時間外労働の上限規制が適用され、時間外の労働時間が短縮され、結果的にドライバー1人当たりの走行距離が短くなり、長距離の運送にハードルができる。これにより、トラック運送・物流企業の売上や利益の減少、トラック・ドライバーの収入減少などが生じるとされている
具体的には原則で月45時間、年360時間の時間外労働時間の上限が定められ、労使間で3協定が合意された場合でも、月100時間未満、年720時間などの上限が規定される。
ただでさえ、長距離のトラックドライバーの人手不足、高齢化の中でこの新法規が適用されるため、より多くのドライバーが必要になり、さらに人手不足を加速させ、その一方でドライバーの賃金の低下も予想されている。
トラックドライバーの年間所得は全産業平均と比較して大型トラック運転者で約5%、中小型トラック運転者で約12%低いとされているが、それがさらに低下すると考えられる。
現在のトラック・ドライバーの離職を防ぎ、より多くの大型トラック・ドライバーを確保するためには、ドライバーの負担を大幅に軽減し、さらに新たに若者や女性の就業を促進していく必要がある。
そのためには、まず大型トラックやトレーラーのドライバーの負担を軽減する技術投入が急がれているのだ。
ただ、根本的にいえば問題はそれだけではない。製造業ではジャストインタイムが一般化し、指定時間になるまで工場敷地内にトラックが入場できず、到着が遅れればペナルティを受けることになるため、工場や倉庫の至近距離で停車して時間待ちをすることになっている。ところが、大型トレーラーやトラックが待機駐車できるきちんとしたスペースは用意されていない。
また長距離輸送の段階でも、途中でも駐車してゆっくり休息できるスペースも極めて限られている。
トラックやトレーラーの運転以外の要素でドライバーは様々な負担を強いられており、場合によっては積載荷物の積み込みや荷降ろしまで強いられることもあるといわれている。また、日本独自の事情として高速道路でさえ度々渋滞したり、郊外路でも信号が多く、ゴー・ストップを強いられるという点も、アメリカ・中国、ヨーロッパなどの物流事情と大きく異なっている。
したがって、産業の血液とも言える物流の実態は脆弱であり、弱者に対する負担が大きすぎるという現実、社会的なインフラ基盤の貧弱さを放置したままでは、課題の解決には程遠いということができる。これに関しては官民あげての取り組みが必要なことは言うまでもないであろう。