ホンダNSX試乗記 技術ファーストは是か非か <レポート:佐藤久実/Kumi Sato>

マニアック評価vol473
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実に26年振りにモデルチェンジを果たしたホンダ NSX。「次世代スポーツカー」という基本コンセプトは初代から継承されているが、その立ち位置はかなり変わった。

初代NSXも、当時の約800万円~1300万円という価格は十分高級車ではあったが、新型は、乗り出し約2,800万円という価格、そしてパフォーマンス的にも「スーパースポーツ」のセグメントに足を踏み入れたのだ。これはまさにホンダにとってもチャレンジだろう。昨今、軽自動車やミニバンなど、堅実なモデルに集中していただけに、かつてのホンダのスポーツカーファンにとっても朗報だろう。

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新型NSXは、パワートレーンこそ日本で開発・生産されるものの、車体開発をはじめ、開発・販売のメインはアメリカとなる。技術的な注目点は、3モーターハイブリッドシステムを用いた「スポーツハイブリッド SH-AWD」。果たしてどんなドライバビリティを披露してくれるのか、神戸で試乗した。

■神戸の街をNSXで快走

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海をバックに待ち構えていたNSXは、正統派スポーツカーのディメンジョンで、素直にカッコ良いと受け入れられる。ステアリングも軽く、乗り心地も快適。視認性にも優れ、この手のスポーツカーとしては、かなり日常シーンでの取り回しの良さ、乗りやすさが印象的だ。そして、静か。4つのドライブモードを選択できる「インテグレーテッド ダイナミクス システム」を備えるが、たとえば早朝深夜などは「QUIETモード」を選べばエンジン回転が4,000rpm以下に抑えられ、EV走行に近い状態になる。「SPORTモード」での街乗りでも、静粛性の高さを実感する。

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高速道路に乗りアクセルを踏み込むと、確かに速い。が、どこか盛り上がりに欠ける。ひとつはサウンドだろう。ハイブリッド故、スポーツカーらしい雄叫びは皆無・・・。ギヤを落としてかなり回転数を上げないと、スポーツカーらしいエンジンサウンドは聞こえてこない。新しいと言えば新しいのだろうが、昭和の人間としては一抹の寂しさも覚える。

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そして、もうひとつの理由は、重さだろう。アルミボディを採用しているが、V6エンジンに加えハイブリッドシステムを搭載するため相殺され、車両重量はさほど軽くないのだ。結果、バワーウェイトレシオとしては、ライバル勢に対してアドバンテージはない。モーターによるフラットなトルクも、体感的加速感を鈍らせているのかもしれない。ローンチコントロールによるスタートダッシュでは、モーターの威力を発揮し、優れたトラクション性能を発揮するが、やはり、日常でも”ハイパフォーマンス”であることを実感できる、分かりやすいパワーフィールが欲しい。

■ハンドリングマシンNSXのワインディング

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一方、ワインディングに入ると、待ってましたとばかりに本領発揮した。「トルクベクタリング」を積極的に使い、とにかく良く曲がる! 狭いワインディングでも道路の狭さを感じさせず、車幅を煩わしく思わせない。減速しながらのコーナリング時には、回生に差をつけることにより”マイナス制御”され、加速時にはフロントをモーター制御、リヤをブレーキ制御している。なので、コーナーのターンインから立ち上がり加速に至るまで、ブレーキを踏んでいてもアクセルを踏んでいても、イン側に入り込んでいくイメージ。

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じつは、2016年3月、いち早くアメリカでプロトタイプに試乗する機会があり、この時はトルクベクタリングに違和感があったが、ボディが量産レベルに仕上がったこともあり、今回の試乗では違和感なく、独特の操縦性を堪能することができた。ハンドリングに、NSXの斬新さや個性がもっとも現れているように感じた。

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しかし、一方で、「技術ファースト」の感が強く、このクラスのユーザー心理をわかってないな〜と感じさせる側面も多々ある。例えば、高級ホテルのコンシェルジュなど、細部まで配慮の行き届いた心地良いサービスにも慣れているだろう。ホンモノのクオリティも知っているだろう。そんな観点からすると、乗り込む際のドアハンドルの操作性から不満を覚える。爪でボディに痕跡を残すか、ドアハンドルで爪を傷めるか・・・。いずれも避けたい・・・。

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エクステリアやインテリアをカスタマイズできるのも、高級車ならでは。しかし、インテリアの色味が質感に乏しい。サンバイザーは軽自動車並みの薄さで、バニティミラーも装備されないなど、室内空間は残念なポイントも多い。また、ACCやレーンキープアシストをはじめとする先進装備も一切ない。スポーツカーであっても、ロングドライブや渋滞時の事故予防や疲労軽減は必要なのだが。

現実、毎日ワインディングやサーキットに通える訳でもなく、スーパーカーオーナーは、パフォーマンスだけで満足感を得ているわけじゃない。しかし、斬新なアイデアやスポーツカーは、本来、ホンダが得意とする領域だっただけに、今後、さらに魅力的なハイパフォーマンスモデルとしてブラッシュアップしていくのを見守りたい。

■諸元表

NSX 諸元表

 

COTY
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