【ホンダ 東モ】小さいクルマの王道を攻める新型軽自動車Nシリーズ 第1弾

2011年11月30日にプレスデーが開幕した第42回東京モーターショーで、ホンダのトップが「軽自動車戦争への本格カムバック」を明言した。その先陣を切って12月16日に発売されるのが、本サイトでも既報した「N BOX」だ。さらに併せて、この「N」がシリーズ化されることも発表されている。

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↑右が峯川常務執行役員、左は伊藤孝紳社長

わずか1年で軽自動車の売上倍増を目標に…

モーターショーのプレスデー初日に行なわれたホンダのプレスカンファレンスにおいて、常務執行役員で日本営業本部長の峯川尚氏が行った挨拶は非常に印象的だった。国内営業担当ということもあり、挨拶の冒頭で触れたのは日本独自の規格である軽自動車についてだ。その部分を抜き書きしてみよう。

「ハイブリッドはもとより、さまざまな環境車が各社から提案される一方で、日本でもっとも競争の厳しい市場が軽自動車市場です。本日はホンダが軽自動車をゼロから見つめ直した新型軽自動車シリーズ「N(エヌ)コンセプト」をご紹介させていただきます。この「N」というネーミングにはホンダの原点の想いとともに、NEW/NEXT/NIPPON/NORIMONOをキーワードに、これからの時代に新しい日本の乗り物を提案したいという強い想いを込めました。本日はその第1弾となる「N BOX(エヌ ボックス)」を発表させていただきます。このN BOXはホンダ独創のパッケージング技術を採用した新設計のプラットホームと、競争力のある新パワープラントによる、まったく新しいホンダの軽自動車です。常識を超える広さと快適性・経済性を実現するために、軽自動車にホンダの得意とするミニバンの価値を凝縮しました。このN BOXは12月16日より販売いたします。さらにこのN BOXから採用する、新たなプラットホームとパワープラントは今後発売予定のモデルへ水平展開してまいります。Nシリーズとして、「Nコンセプト3(スリー)」をベースとしたモデルを2012年春に、また、「Nコンセプト4(フォー)」をベースとしたモデルを2012年秋に投入します。そして2012年の軽自動車の販売台数は、今年の倍となる28万台を目指します」

もともとホンダの四輪事業を振り返れば、360cc時代の軽自動車にルーツがあると言えるわけだが、まさに原点回帰。国内営業としては軽自動車に注力するという宣言である。なにしろ1年で販売台数を倍に増やそうというのだから、その目標は尋常ではない。

そのためには販売戦略をゼロベースで見直し、再構築する必要があるだろう。また、当然ながら商品性の向上も必須。仮に商品性だけで倍の販売をしようと思ったら、従来と同じ価格で圧倒的な商品力を持たせなくてはならないことになる。

そうした強い決意から生まれたのが、この東京モーターショーで発表された「Nコンセプト」と呼ばれる新ラインで、その第1弾が12月16日から販売されるN BOXである。

ホンダN BOXの画像
↑写真はG・Lパッケージ
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↑写真はカスタム G

本気で戦うために生まれた新型軽自動車

標準タイプのN BOXと存在感を高めたN BOXカスタムという2つのラインを用意するのは、まさに軽自動車の王道的展開。さらに駆動方式も全国のニーズをカバーすべく、FFに加えて4WDモデルが幅広く用意されている。

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↑標準タイプのGのインパネ
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↑こちらがカスタム系のインパネ

そもそも、このN BOXはそのスペックからして軽自動車の新王道のド真ん中を目指していることは明白だ。このクルマのお披露目となった東京モーターショーでも「言葉は悪いですが、本気でケンカしていくというくらいの強い気持ちで作りました」と、冗談めかした言い方がされていたほどだ。

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■ホンダ N BOX主要諸元

●ディメンション:全長×全幅×全高=3395×1475×1770mm/ホイールベース=2520mm/車重=930kg/室内長さ×幅×高さ:2180×1350×1400mm ●乗車定員:4名 ●エンジン:直列3気筒DOHC/排気量=658cc/ボア64.0×ストローク68.2mm/最高出力=43kW(58ps)/7300rpm /最大トルク=65Nm(6.6kgm)/3500rpm ●トランスミッション :CVT ●燃費性能:JC08=22.2km/L/10・15モード=24.5km/L ●駆動方式:FF ●サスペンション(前/後):ストラット/車軸式 ●ブレーキ(前/後):ディスク/ドラム ●タイヤサイズ(前/後):145/80R13

※N BOXカスタムG・ターボパッケージ(FF)は、全高=1780mm、車重=980kg、最高出力=47kW(64ps)/6000rpm 、最大トルク=104Nm(10.6kgm)/2600rpm、JC08=18.8km/L、10・15モード=21.0km/L、ブレーキ(前):ベンチレーテッドディスク、タイヤサイズ(前/後)=165/55R15…以上が異なる

 

ホンダN BOXの画像

従来はなかったハイトワゴン系で勝負!

売れている軽自動車といえばスズキ・ワゴンRというイメージが強いかもしれないが、その販売上のライバルはダイハツ・ムーヴとは限らない。2010年度の年間ランキングでは、1位のワゴンRに続く第2位はダイハツのタントとなっている。ちなみに2011年度の上半期は1位がワゴンR。2位がムーヴで、3位がタント。ホンダの主力モデルであるライフは台数的に半分以下の6位となっている。

つまり、ホンダが軽自動車の販売数を倍増するということは、ワゴンRやタントといった年間16万台以上というトップセラー集団と同じだけの台数をさばくという意味であり、またライバルと同じ土俵に立つということもであろう。これまでのホンダの軽のラインアップはライフ(全高1610mm)とゼスト(同1645mm)と2つのシリーズを用意しながら、どちらもワゴンR(同1660mm)よりも全高が低い設定という、あえて本流を外したコンセプトでもあったが、今回はライバルとガップリ四つで組み合う姿勢だ。

そして、このN BOXのスタイルを見れば、ターゲットは一目瞭然。全高1700mm超のハイトワゴン、具体的にいえばタントをキャッチアップすることが開発目標だったことは疑う余地もない。ところでタントといえば、すでにスズキがそのライバルとしてパレットというハイトワゴンをリリースして追走している。

そうした流れもあって、ワゴンR、ムーヴという全高1600mm台の軽自動車に続き、全高1700m台のハイトワゴン・カテゴリーは、軽自動車のメインストリームとなりつつある。そこにホンダが打って出るとともに、先行するライバルと同等かそれ以上の台数を販売する…そうした目標で生まれたのが、このN BOXなのである。

とはいえ、最大で全長3400×全幅1480×全高2000mmと、ボディサイズに制限のある軽自動車ゆえに、そこでの差別化は難しいが、だからこそ室内寸法は重要な比較要素。改めて、そこに注目してライバル(FFの主要グレード同士)と比較してみよう。

タントの画像パレットの画像

◆スリーサイズ比較

ホンダN BOX=室内長2180×室内幅1350×室内高1400mm

ダイハツ・タント(写真左上)=室内長2160×室内幅1350×室内高1355mm

スズキ・パレット(写真右上)=室内長2085×室内幅1280×室内高1365mm

◆全高比較

N BOX:1770mm タント:1750mm パレット:1735mm

ホンダN BOXの画像

タントの画像パレットの画像

ライバルよりも全高を高くとったN BOXは、室内寸法すべての要素でライバルを凌駕。後出しジャンケンと言えば確かにそれまでではあるが、しっかりとアドバンテージを得ている。とくに室内高については大きく差を付けているが、これには他のホンダ・ミニバンでおなじみの「センタータンクレイアウト」が効いているのだろう。

ホンダN BOXの画像

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↑FF車の数値で単位はmm

また、全高を高くすればそれだけ重くなりがちだが、車重はライバル2車と同等の930kg。その絶対値についての評価は別れるところだろうが、同カテゴリーでは重いわけではない。そうした軽量ボディの理由は、今回から採用した新しい製造工程にある。

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通常のモノコックボディはフロアに対して完成させた左右パネルとルーフをくっつけていくイメージで作るが、ホンダの新製法は骨格にあたるインナーフレームをまず組み上げ、そこに外板(アウターパネル)を貼りつけていくというもの。これにより部品点数の削減が可能となり、ボディ強度に影響を与えることなく、従来比で10%以上の軽量化を実現したという。

なおボディ形状については、タントは左右非対称で、左側だけセンターピラーのないスライドドア、パレットはBピラーを残しつつ左右スライドドアを採用するという方法をとっているが、ホンダは後者に似たドア・パターンを選択。シルエットはタントに、ボディスタイルはパレットに…と、ホンダの考えるイイトコ取りをしたということだ。

スペックではライバルを超えたエンジン性能

これまで八千代工業に委託していた軽自動車は、今回から鈴鹿製作所で生産されるという。そうした製造現場の変化からもゼロベースで新しい軽自動車を産み出そうという思いを感じずにはいられないが、ボディ製法だけでなく、パワートレインも一新。エンジン、駆動系とも従来の流れを断ち切った完全・新設計となっている。

まずはエンジンから。S07A型と、新しい型式名を与えられた、この3気筒エンジンはホンダの軽自動車としては、そのルーツであるT360(軽トラック)以来となるDOHCヘッドを採用した。ボア×ストロークは64.0×68.2mmと、軽自動車としては常識的な数値だ。従来のP07A型は71.0×55.4mmと、ツインプラグを採用していたこともあって超ショートストロークの変わったBS比となっていたが、まずはそこから見直している。

ちなみにS07A型エンジンのBS比は、スズキの最新ユニットであるR06A型とまったく同じ。そうした点からも軽自動車のメインストリームを目指したことが感じられる。また軽自動車のハイトワゴン系では過給エンジンは商品力として必須となっているが、もちろん最初からターボバージョンも用意されている。

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このエンジン、自然吸気(NA)仕様には全車アイドリングストップ機能が標準装備。またターボと可変バルブタイミング機構を組み合わせているのは、ダイハツやスズキというライバルに対するアドバンテージと言えよう。さらにホンダV6エンジンに由来するという油圧タペット「ハイドロリック・ラッシュアジャスター」によりクリアランスを自動調整することで、メンテナンスフリー化と静粛性アップを図っている。

また主流となる自然吸気バージョンで比較すると、ライバルに対してパワーとトルクの両面で優っているのも注目すべきポイントだ。これまで「実際の走りでは…」というエクスキューズを聞く印象の多かったホンダの軽自動車だが、今回はスペックという見える部分においても、しっかりとアドバンテージをアピールしようというわけだ。

●NAエンジン比較

(以下はBS比/圧縮比/最高出力/最大トルクの順)

ホンダS07A  64.0×68.2mm  11.2  43kW/7300rpm  65Nm/3500rpm

ダイハツKF  63.0×70.4 mm 11.3  38kW/6800rpm  60Nm/5200rpm

スズキR06A  64.0×68.2mm  11.0  40kW/6500rpm  63Nm/4000rpm

こうして見ると、最高出力の発生回転が7300rpmと今時珍しいくらいのハイレビングユニットに仕上がっているように見えるが、あくまでそれはピークパワーであり、その領域を常に使って走るというわけではない。むしろ実用燃費で言えば、最大トルクの発生回転がライバルに対して低くなっている点に注目したい。

さらに、これまで4速ステップATだったミッションは、今回からライバル同様にCVTへ変更。エンジンとの協調制御により必要な駆動トルクや加速性能に対して最適化をすることで、燃費とパフォーマンスのバランスを取るのが狙いだ。

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↑ロスの少ない平行軸式CVT

ダイハツがアイシン、スズキはジヤトコとサプライヤーからCVTを調達して使っているのに対して、ホンダは内製としているが、そもそもホンダ内製CVTの歴史は1995年に始まるもの。歴史ではライバルに引けを取らないどころか、リードしている存在。またフィットなどの小型車では実績あるところで、そうした背景を考えれば、軽自動車用のオリジナルCVTの登場は自然な流れと言える。

シャシーも一新。安全装備も充実させた

ボディ製法を一新、センタータンクレイアウトを採用したこともあり、サスペンションも新設計となった。フロントはマクファーソンストラット、リアはホンダでは車軸式と呼ぶH型トーションビームとなる。

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↑マクファーソンストラット式フロントサスペンション
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↑H型トーションビーム式リアサスペンション(FF用)

またメカニズム面では4WDに大きな変更があった。これまで、ホンダ軽自動車の4WDといえばリアにド・ディオン式サスペンションを採用、燃料タンクをオフセットして配置するというレイアウトが20年以上も使われてきたが、今回の新モデルにあたって刷新。H型トーションビームのリアサスペンションとした。これにより従来比で35%程度の軽量化につながっている。

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↑新型4WDプラットホーム

また新世代・軽自動車として安全性能にもこだわっているのは見逃せない。特筆すべきは全車にVSA(車両挙動安定化制御システム)、いわゆるESCを標準装備していること。ホンダがスーパーハイトワゴンと呼ぶ全高1770mmのN BOXで安定性を求めるには、2520mmというロングホイールベースというディメンションだけでなく、こうした電子デバイスも必須ということだろう。

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↑VSAの作動イメージ

またVSAの装着によりブレーキ制御の自由度が増しているのを利用して、坂道でのずり下がりを防ぐ「ヒルスタートアシスト」機構も備わっている。

そして衝突時の安全性を向上させるための新アイデアが、エンジンを衝撃吸収材として利用するというもの。「消えるエンジン」を合言葉に実現された、このアイデアは、インテークマニホールドやキャタライザーといったパーツを衝突時に潰すことを前提とした設計にしているのが特徴。またジェネレーターなどの堅固で重い補機は、ステーを曲げたり折ったりする設計として、トータルで80mmものスペースを確保している。

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↑衝突時エンジン前後長短縮説明図

まさしく、日常的なユーティリティから万が一の安全性まで、ライバルを凌駕する存在を目指した新型軽自動車がN BOXということだ。

ただし、残念ながら燃費性能については先日のマイナーチェンジでe:S(イース)テクノロジーを採用したダイハツ・タントの24.8km/L(JC08モード)、27.0km/L(10・15モード)には及ばなかった。マイナーチェンジ以前であればタントの燃費性能は22.5km/L(10・15モード)だったので、N BOXの24.5km/Lというのは少なからずインパクトがあったろうが、ライバルにタイミングよくマイナーチェンジされてしまった格好だ。

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↑燃費のコーチング機能も備わる

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だが、しかしそれが軽自動車のメインストリームで争うということは、ダイハツ・ミライースの燃費性能をスズキ・アルトエコがわずかに超えてきたというニュースからも理解できるところ。冒頭にもホンダの開発陣から「本気でケンカしていく」という意味の言葉が聞かれたと記したが、「出鼻をくじくようにケンカを買われた…」ということだろう。

ここからホンダがどのような逆襲をしていくのか、その内容や質が問われるところであおるし、また「N」という新しい軽自動車のシリーズ展開が気になるところだ。

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↑かつてのN360を彷彿とさせる「Nコンセプト4」

ホンダ軽自動車の近未来は、ショー会場でも垣間見られた

まず「N コンセプト4」として出展されていたコンセプトカーは、見るからに360cc時代の名車「ホンダN」をモチーフとしたことが明確。むしろNという軽自動車の新ラインを象徴するもので、これこそが本命と言えそうだ。出展されたコンセプトカーは窓がブラックアウトされていることからも中身のないモックアップだとわかるが、2012年秋に登場する新型軽自動車が、このコンセプトのイメージをどこまで発展させられるか…、どこまで期待に応えられるかが鍵となろう。

またホンダの軽自動車ラインアップでは全高1550mm以下のカテゴリーに車種を持たないのが弱点と言えるが、このスタイルで登場するとすればそうした部分をカバーすると予想される。ミライースやアルトエコといったライバルと燃費や走りで競うことになりそうだ。

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↑↓上が「Nコンセプト3」、左下が「同1」で右下が「同2」

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↑プレスデー当日までスケッチしか公開されていなかった「EV-STER」

現時点ではEVスポーツカーのデザインスタディとしてアナウンスされているのが、今回のショーで世界初公開となった「EV-STER」だ。ディメンションは現在の軽自動車規格を超えているが、3570mmという全長、1500mmという車幅からデザイン代を抜いていけば、軽自動車サイズに収まることは容易に想像できる。オープン2シーターというスタイルといい、モーターをミッドシップに搭載する前提といい、まさに21世紀のビートといった雰囲気を持つ。

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しかもEVではなく、内燃機関を積むクルマとしても成立しそうなデザインとなっていることが、さらにビート後継モデルの存在を期待させる。「Honda Design」とロゴの入った青いアクセントはエアインテークをイメージしているということで、ミッドシップをアピールするが、デザインをよく見ていけば、フロントフェンダーに与えられたエア・アウトレットのようにフロントエンジンを予感させるディテールも見受けられる。ミッドシップと思わせておいて、S600のようなFRモデルとして誕生する可能性も感じずにはいられない。

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■ホンダ EV-STER主要諸元

●ディメンション:全長×全幅×全高=3570×1500×1100mm/ホイールベース=2325mm ●バッテリー:総電力量=10kWh/最高出力=58kW ●パフォーマンス:最高速=160km/h/0-60km/h加速=5.0秒

 

1年で販売台数を倍増させるという計画のホンダの新軽自動車ラインアップ。その成否を担うのは、まずは先行したN BOXだ。そしてコンセプト4やEV-STERで提示されたデザインを受け継いだモデルが登場することで、ホンダ軽自動車への注目度を高めていくことが、このビッグチャレンジには欠かせない要素となるだろう。

 

文:山本晋也

 

関連記事:軽自動車の「N」シリーズを先行公開。東京モーターショーで全貌が明らかに

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