
強烈な個性を持ったEVミニバンが登場した。フォルクスワーゲンの「ID.BUZZ」(アイディー・バズ)は、ご存知のように、かつてのワーゲンバスのヘリテージを継承しながら、新たなブランドアイコンとして開発されたミニバンだ。
BEVモデルのID.BUZZは2017年にコンセプトモデルが発表され、フォルクスワーゲンの電動化戦略の中でもアイコニックなデザインもあり、存在感は強く、また未来への明るい希望を想像させるモデルとして注目され続けている。そして2025年6月に国内上陸し、今回試乗することができた。

だれがどこから見ても存在感が強く、注目度が高い。道ゆく人の視線が痛いほど感じられ、デザインの持つ力を存分に発揮していることを強く感じていた。そもそも初代のワーゲンバス(Type2)も、登場したときは従来のクルマにはない、全く新しい文化や価値観を創造したと言われており、そうしたコンセプトを継承しているというわけだ。
さて、このフル電動ミニバンのアウトラインをお伝えすると、試乗車はロングホイールベースのモデルで、他に標準モデルもある。つまり2タイプなのだが、本国では商用車もあり、配送用車両等を想定しているラインアップなのだ。国内には商用をラインアップせず、2+2+2の標準ボディと2+3+2のロングホイールベースのラインアップになる。そして生産拠点はフォルクスワーゲンの商用車を生産するドイツ・ハノーバー工場で生産されている。



試乗車のボディサイズは全長4965mm、全幅1985mm、全高1925mmで、そのホイールベースは3240mmと超ロングだ。このボディサイズはアルファードが小さく見える大きさで迫力満点。2m近い横幅もゆったりとした室内を創り出し、とても好印象を受ける。ちまちま小さいのは可愛いかもしれないが、大きさ勝負の迫力で圧倒される愉快さもあると思う。



肝心のモーターはリヤに搭載するリヤ駆動モデルで、いわゆるRRモデル。ここらもオマージュしているところが名車への尊敬に思えてくる。アクアラインのような海上の橋を高速走行するとやや頭が振られる挙動になるが、そうなると愛嬌としか言いようがない。
出力は210kW/560Nmで2.7トンの巨体を簡単に加速させる大トルクを持っている。0-100km/h加速は7.9秒というのだからモーターの力は偉大だ。バッテリーは三元系でフロアに敷き詰めている。電池容量は91kWhで航続距離は554kmとロングディスタンス。そしてフォルクスワーゲンのEV用プラットフォームMEB(モジュラー・エレクトリックドライブ・マトリクス)で設計され、国内ではID.4に次ぐ2番目のIDファミリーになる。

さて、街中では注目されがちなID.BUZZだが、室内は極めて静か。EVだから当然と言われそうだが、ミニバンのようなワンボックス型はロードノイズなどの走行音が入りやすく、静粛性の確保は簡単ではない。そのあたりはしっかりと抑えているあたりは感心するが、ルーフがガラスルーフになっているため、トンネルに入ると音が入ってくる。アクアラインや山手トンネルといった10kmもあるトンネルだと静粛性のアップグレードは欲しいと感じる。



乗り心地では運転席と助手席は文句なく、快適に乗っていられるが2列目、3列目はやや振動の入り方や特に3列目になるとタイヤの上に座っている関係上、振動がダイレクトに感じてくる。この辺りの処理は国産の高級ミニバンに軍配が上がるだろう。もっとも日本のミニバンはレベルが高く、欧州、北米のミニバンでは国産のおもてなしに敵わないのではないかと感じている。インポートカーには、どこか商用というワードがチラついてしまうのだ。



その後席はシートアレンジが特徴となり、特に3列目は脱着ができる。ただ、外した椅子をどこに置くか。ガレージがないと保管できないし、シートはかなりの重量物なので、簡単に脱着はできないし、する気も起きない。そしてフルフラットにして使うこともできるが、こうしたアレンジも国産のアイディア溢れるシートアレンジに軍配が上がる。
ただし、圧倒的な広さがすべてを有利に感じさせるオーラがある。大きいことはいいことだとばかりに、シートアレンジで苦心するより、だだっぴろいスペースのほうが快適だったりする適当感がいいのだ。

運転席まわりはシンプルで12.9インチの大画面ディスプレイに集約されている。タッチパネル式の操作でさまざまなことができるわけだが、やっぱりフォルクスワーゲンの独特のインターフェイスは、慣れが必要だと感じた。階層の構成やゾーニングの考え方など、日本とはすこし違うベクトルで整理されていると思う。それも慣れによって解決できるため、課題にはならないのだろう。
2列目のサイドウインドウは電動スライド式だ。窓が横にスライドして開くとはクラシックでユニーク。こうした実用部でもアイコニックであり、個性的な特徴を持たせているところにも愛着が湧いてくる。
こうした特徴をもつID.BUZZは使えば使うほど自分のライフスタイルを彩るアイテムへと存在が変わり、まるでペットのように愛情たっぷりに接していく姿が容易に想像できるのだ。見ているだけで楽しくなるクルマって珍しくないか?それほどワーゲンバスのDNAは強く発散されているのだ。









